第24章 戸惑いとやるせなさ
俺たちはあの書店にやってきた。「着いたな。」「ああ。」テンションが高った俺は意気揚々とその自動ドアをくぐる。そこには本の整列があった。本がジャンルごとに区分けされた綺麗な整列が。その様はまるで街並みの様だった。俺はその街並みには一種の芸術的な美があるように感じていた。俺たちはその様を少しぼんやりと眺めていた。思えば、俺は彼と出会ったときもこうやって街並みを眺めていた。そう、俺たちはこの光景が好きだった。俺たちがこの光景をぼんやりと眺めていると視界の片隅で光り、うごめく何かがあった。それは一冊の本だった。その本は表紙が鋭利な何かで傷つけられていた。俺は本が好きだった。本、それは誰かの知恵の集合。俺は本を通じて誰か(本の作者)の知恵に触れている実感が好きだった。だから俺は悲しくなった。この残骸は誰かの知恵を、そしてそれを通じて誰かの生き様をも貶めているかのように感じてしまったから。
「だめだ!」その時、彼が大きな声で叫んだ。俺は驚き彼の方を振り返る。彼は右手に鋭利な刃物を持っていた。「何をしているんだ!それは、それだけはだめだ!」彼は俺を、そして持っているその本を必死の形相で睨む。「おい、お前どうしちまったんだよ?俺はこの本をただ拾いあげただけだぜ?」俺は手に持っていたその本を見る。そこにはさっきまで持っていたはずのボロボロの本はなかった。どうして?その本は俺が探し求めていた本に変貌していた。その変貌に気を取られた俺は彼の攻撃への反応が遅れた。彼は走り出し、俺にそのナイフを振り下ろした。俺は間一髪でその攻撃を回避するが、俺は持っていたその本を手放してしまう。彼はそんな俺を一瞥して、その地面に投げ出されたその本へと向き直り、持っていたナイフでその本をめった刺しにした。「ついに見つけたぞ!悪魔め!」と、叫びながら。その光景を眺めていた俺の心に溢れ出るのは戸惑いだった。だけど、時間が経過するにつれ俺の心にあった戸惑いが怒りへと変わっていった。その本は俺にとっての今を生きる希望だった。そう、その本は俺が探し求めていたものだった。彼にもそのことを伝えていたはずだった。だけど、今まさにその彼がその本をズタズタにしている。その行為は、その本を、そしてこの俺そのものをまるで貶めているかの様だった。
その時、俺の体はその怒りによって突き動かされていた。彼を持ち前の体術で押さえつけ、そのナイフを奪おうとする。しかし、彼は想像以上の力でそのナイフを握りしめていた。俺はそのナイフを取り上げることもできないで彼はむしろ俺を睨み、そのナイフを突き立てた。ナイフに切り付けられた右腕から血が流れる。俺は彼の後方に飛ばされてそこで横たわった。そして彼は俺を一瞥し、彼はその本に向き直ろうとした。だけど、そこにはもうあの本はない。彼は俺の方に向き直る。彼の瞳のハイライトが消える。彼の視線の先には俺がその本を手にしている、そんな姿があった。「本は大切にしなきゃダメだろ?それにこれは俺が探していたものだ!」俺に向かって彼は走り出す。「やめろ!」俺はその本を開く。その瞬間...
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「だから、やめろって言ったのに...」目の前で笑う一人の男。僕は彼のことをよく知っていた。「やあ。久しぶりだな?港?」彼はそう言って不敵に笑う。僕の心に湧き上がるやるせなさ。「そうか...これが狙いだったんだな!宇津野!」「残念だったな、せっかくお前の有利になるようにしてやったっていうのに!」彼が祝詞を唱え始める。周囲が青に染まり、青空が生まれる。その青空が空間をうねらせ、彼を中心に渦を成す。彼から、溢れんばかりの光が溢れた。その光が創り出したのは裏切りの象徴、そう僕たちの絶望の象徴【天使】。「フフフ。お前たちは俺たちを最も遠い存在の名で呼称するのだったな。何の因果なんだろうな。俺たちにとっちゃぁ、お前たちこそ悪魔と呼ぶにふさわしいというのに。」「黙れ、この卑怯者が!僕はこの時を今か今かと待っていたんだ。お前にかつての報いを返すことができるこの時を!」「フフフ。俺も待っていたさッ!身の程知らずの咎人にこの現実を突きつけるこの時を!所詮、お前たちはこの迫りくる運命から目を逸らしているだけにすぎないんだよ!そう、俺は今、この約束の場所で、お前に約束された罪という名の運命をお返ししよう!」彼らの声があたりに響き渡る。
もうすでにかつての街並みは崩れ去っていた。
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俺はこの広大な砂漠を彷徨い歩いていた。何もないこの地平線まで続くこの砂漠、そしてこの灼熱の日差し。靴に入り込む砂。俺の心はどんどん追い詰められていった。俺は額に汗を浮かべながら、少し小高い砂の山に登りあたりを見渡した。そして遠くに砂じゃない何かの蜃気楼が見えることに気づいた。俺にとってその何かは最後の頼みの綱だった。その場所を見据えて、俺は歩き始める。
ようやく俺はその何かに辿り着いた。それは大体4~5階ほどの大きさの廃ビルだった。このビルはずっとここに放置されていたようだった。そして、このビルは今にも崩れてしまいそうだった。俺は少しこの崩れたビルを呆然と見ていた。まるでこのビルの姿はこれからの俺の末路を暗示しているかの様だった。俺の額から出てきた汗が俺の目玉に入って目が染みる。その痛みが俺を突き動かした。俺はずっと飲まず食わずだったから何か食べれる物を探していた。俺は危険を承知でこの崩れかかった廃ビルの中へと入った。
ビルの中は一面が真っ白の世界だった。天井も床も壁も、傷一つなく真っ白で俺は外観との異常なギャップに戸惑いを通り越して恐怖を覚えた。そしてそこにはジオラマがあった。そのジオラマのモデル群は俺と同じくらいの大きさのビル群と家群だった。そのモデル群は大きさ以外は本物と何も変わらなかった。俺はそのモデル群を見って回った。窓から家を覗き込むと、その家の中は、まるで実際に人が住んでいたかのように感じてしまうほど、細部まで作り込まれていた。俺はこのどこかの街並みを見ていると、ある一つの建物を前にしてとてつもない既視感に襲われた。俺はこの建物が見たことがあった。俺の額に冷汗が浮かぶ。俺はその建物の横を見た。そこには特徴的な看板があった。俺はその隣の建物を見る。それは駅だった。俺はもう一度このジオラマ全体を見渡した。そして気づく。これは俺の住んでいる町”参峰町”のジオラマだった。こんなわけのわからない砂漠にいきなり俺自身にゆかりのあるものが出てきたために俺は背筋が凍るような思いを抱いていた。
嫌な予感がした。俺は恐る恐るその建物(既視感に襲われた建物)、”駅前の書店”を覗き込む。そこには、その建物の中にはこの周りのジオラマと同じようなミニチュアがあった。そして、そのミニチュアの中で建物を覗き込む一人の男がいた。俺は唖然とする。それは”俺”だった。そのミニチュアの中で俺が信じられないものを見るようにその建物を覗き込んでいる。俺は大きく後ろへと後ずさる。そしていつの間にかこのビル以外のジオラマ上の建物群が砂状に崩壊していた。その建物群は白い砂状になってあたりに散らばっていた。俺は恐ろしくなってその建物から逃げ出す。しかし、もう外は砂漠ではなかった。建物の外には一面真っ白の世界が広がっていた。既視感。そうこれはまるで、建物の中で見たあの光景と同じ!俺はその建物へと振り返る。しかし、そこにはあの崩れかけた建物の姿はどこにもなかった。あったのは一冊の本。それは【完全な真球】。俺がかつて追い求めていた本だった。その本にはまだ色が残っていた。俺はその本を拾い上げる。そして俺はその本を開いた。そう、かつてのように。
第24章 完
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