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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第24章 砂漠 そして 棚の横

俺の目の前で微笑みを浮かべる男、その手にはナイフが握られていた。「そんな、どうしてやめてくれ!」その言葉は意味を持たない、ただの音へと成り果てた。彼はゆっくりと近づいてくる。俺はもう逃げることはできなかった。「やめろ‼」にじみ出る焦り、心を鷲掴みにした恐怖、俺の心をぐしゃぐしゃにする予感。「この悪魔がぁ!」彼は俺の首筋にそのナイフを突き立てる。周囲に俺だったものが散らばっていく、そんな感覚がした。その感覚は気持ち悪かった。その気持ち悪さのために俺の意識が消えていった。そうだ、これが俺の最後に見た夢だった。

~~~~~~~~

俺の意識を呼び起こしたのは強い日差し。俺が目を開けるとそこにはあたり一面が砂だった。俺はどうしてこんなところで寝ていたのかわからなかった。俺はいつものように自室のベットの上で横になって朝になるのを待っていたはずだった。部屋の中を空間を包み込む濃厚な闇、その闇はまるで俺の心を包み込んでいるかのようだった。その空間に響くのは時計の針が時間を刻む音。その音はとても心地よかった。まるで俺の心がその音で調律されるかのような感覚を覚えていた。俺はその心地よさを嚙みしめて、夜が消えていく様を眺めていた。その時だった呼び鈴がなったのは...

俺はあたりを見渡す。すると俺の目の前に何かがあることに気づく。俺はそれに近づいた。それは錆びついた自転車だった。その自転車は砂をかぶっていた。ボディは錆びついてペダルはもう動かなかった。俺はその自転車を見た瞬間に何か言いようのない既視感を覚えた。そう、俺はこの自転車を一度どこかで見たことがある。そんな確信めいたデジャブを。その既視感デジャブを意識した瞬間、俺の耳にノイズが走った。それはモスキート音。そのモスキート音は耳障りではっきり言って不快だった。その音は執拗に耳のあたりをうろついていた。その音はだんだん大きくなり、耳のすぐ横で破裂した。その大きな破裂音が俺の耳を貫き、俺の意識を奪った。

~~~~~~~~

ある日、俺たちは探し物のために駅前の書店に来ていた。その書店は俺たちが住んでいるこの町”参峰町”で一番大きい店だった。俺たちはある本を探していた。だけど、どうしてだろう。その本は誰かと一緒に探していたはずなのに、俺はその誰かを思い出すことができなかった。確か、その誰かは、探していた本、いやそれ以上に俺にとって大事な存在だったはずだ。その確信が俺の首に手をかける。絞められた首が苦しくなっていく。その苦しみが呼び起こしたのはかつての記憶だった。

~~~~~~~~

彼と出会った場所は図書館だった。彼は図書館で「天肴翔」の作品を読んでいた。「ねえ。」俺は彼に話しかける。彼は話しかけられたことに戸惑っていた。彼はあたりを見渡す。「なんですか?」彼は信じられないものを見るようにこちらを窺っていた。今この図書館には俺と彼以外には誰もいなかった。(司書の人はいた。彼はこの人気のない図書館でいつも眠り呆けるばかりだった。)「どうして、その本を読んでいるの?それは”天肴翔”の作品の中でも駄作中の駄作”出会いと裏切りの螺旋じゃない。」俺の言葉に彼はきょとんとした顔をする。彼は毎日この図書館に来て同じ本を読んでいた。

それは天肴翔の小説”出会いと裏切りの螺旋”。「ついに見つけた彼女は見るに堪えなかった。」そんな書き出しで始まるこの作品は主人公の独白をメインに物語が進んでいく。主人公の視点が過去と現在を揺蕩い、この小説の背後に隠された闇のようなものを予感させている。(諸説あり。)この作品が駄作と言われてしまった所以は”主人公”と”彼女”に対してあまりにも深堀が少なすぎるのでどうしても感情移入ができない、”ついに見つけた”から始まる書き出しが何だか気持ち悪い、頭に響く声は誰?等である。

俺の言葉をゆっくりと吞み込んだ彼はポツリ、ポツリと呟いた。「僕はある本を探しているんだ。」「ある本?」「その本は夢の中で僕の目の前に現れるんだ。僕はいつもその本を読もうとするけれど...」俺は彼の顔を覗き込む。彼の顔が悲痛に歪む。「僕はいつもその本を読むことができないんだ。それどころか僕は...!」彼の瞳には涙が浮かんでいた。彼は急に立ち上がり、この図書館から走り去ってしまった。彼のいなくなった図書館には彼が読んでいたこの図書館の蔵書、”出会いと裏切りの螺旋”が机の上に置きっぱなしになっていた。俺はその本を手に取った。そして、俺はこの本の表紙を見て気づく。あれ?この小説を読んだ記憶がない...俺は彼の作品はすべて読んでいたと思っていたのに。俺はこの本のことは知っていた、彼らしくない作品、駄作、そんな散々な言われようで彼の作品の中でも悪い意味で有名な作品だったから。そうか、俺は評判を聞くだけ聞いて実際に読みもせずただ満足するような読者の風上にも置けない、そんな卑劣な読者になってしまっていたんだ。

俺は申し訳なく思い始めていた。この作品を読みもせず、駄作だって言ってしまったことに。そして、この本のそんな評判が広まっていたとしても、そのことをあんなふうに直接読んでいる彼に向かって言ってしまったことに対して罪悪感が湧き上がってきた。確かに彼はこの図書館にここ1ヶ月の間、毎日(土日祝除いて)通っていてその間、(俺が見ていた限り)彼はずっとこの本を読み続けていた。この小説はたった2793字の短編小説だというのに。だから、どうしてその本を読み続けているのかあまりにも気になってしまったんだ。だけど、その様が俺にとってあまりにも異常に感じてしまったのも全部、俺がその卑劣な読者へと成り果ててしまったからなんだろうな。

俺は彼が座っていた、机から離れ斜めになってしまっている椅子に腰かけてその本を読み始めた。

~~~~~~~

ついに見つけたその本は見るに堪えなかった。その本は表紙を無理やり引き裂かれ、ぐちゃぐちゃな様で棚の横に無造作に置かれていた。俺は嫌な気分になった。その本のあり様が俺の生を貶めているように感じてしまったから。俺はその本を拾い上げる。「何をしているんだ!」俺はその本を開く。「やめろ!」その本の中には「そんな、どうして」一面白紙の世界が広がっていた。「だからやめろって言ったのに。」彼はそう言い終えると俺の胸にナイフを突き立てた。

ついに見つけたぞ悪魔め!彼は胸から血を流し倒れる俺に何度も、何度もそのナイフを突き立てた。右腕、右足、胸にかけてズタズタにされていった。彼の瞳に宿っていたのは歓喜だった。彼はまるでこの時をずっと待っていたかのように見えた。そう、彼のその行為に宿っていたのは一種の渇望だった。その渇望、かつての本能が俺の身体を通じて俺の心を引き裂いてくる。痛みを気持ち悪さを伴って。俺はこの気持ち悪さに既視感、そうデジャブを感じていた。そうか、これはあの夢と同じ。「そうだ。」その声は頭の中に響いてくる声だった。「これが運命だ。ここが約束の場所だ。そして、今が選択の時だ!お前に選択をする覚悟はあるか!選択した覚悟を受け入れ前に進むことができる覚悟が!」俺はうなずく。そうか、これが運命。すべてはこの時のために、あの夢はこの覚悟のために、そうこの選択のために!俺は立ち上がる。身体はこの本と同じようにズタズタになっていた。だけど、俺はこの本を開いた瞬間に未知なる力が湧き上がる鼓動を感じた。その鼓動の高鳴りが空間をうねらせていく。そして俺の心に湧き上がるのは誰かの記憶。そして確信する。この力があれば、この力さえあれば、俺は目の前に差し迫った運命に立ち向かい、その絶望を希望に変えることだってできるッ!「死ねッ!この悪魔ぁ!俺はこの力でもって進むべき(希望)を切り開き、今までの苦しみから自由になってくれるッ!」

~~~~~~~

ついに見つけた本は絶望の象徴。それは本能を呼び起こし、知的好奇心を生贄に記憶を奪う悪魔だ!僕はもう()をしているだけの死人だ。心臓を抜き取られ晒されてしまった馬鹿だッ!もう、僕は自分を取り戻すために、何としても、何が何でもあの本を、今、この現実で見つけなければならないんだッ!

彼らの瞳には進むべき(運命)が宿っているように見えた。

読んでくださってありがとうございます。

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