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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第21章 自転車

この世界へと降り立つ彼はかつての安らぎ。「もう俺は生きていけないのか...」そんなつぶやきが聞こえたような気がした。それは救済、原罪を断罪し死へと誘う、そんな祈り。

「ピンポーン」呼び鈴で僕は起こされる。今の時刻は深夜零時、(なんて迷惑なんだろう。久しぶりにいい夢を見ていたのに。)、彼(赤坂)は玄関口を思い切り開ける。そして、迷惑なこの来訪者にこの勢いのまま相対してやろうと考えていた。彼が玄関の扉を開くと、そこには誰もいない。(ピンポンダッシュかよ。最近、治安悪いな、この辺。)彼は周囲を見渡す。人影のようなものは見当たらない。「チッ!」彼は舌打ちをして家の中へと目線を飛ばす。するとそこには大きな段ボールが部屋の中央で鎮座していた。「なにこれ。」彼は戸惑う。さっきまでこんな箱なかったはずだ。彼はその箱に近づく。その箱には、受け取ったことを指し示す印鑑が押されていた。(あれ、受け取ったのか?はあ、俺はもうだめみたいだ。最近寝てないから、この箱を受けとったはずなのに動いていない脳みそがそのことを忘却してしまったんだろうさ。)彼はその箱の差出人の欄を見る。”T社”。それを見た彼は目を見開く。それは彼が待ち望んでいた荷物だったから。「やったあ!」彼はその場で小躍りして見せた。彼はすぐさまその箱を開ける。そこには組み立て式自転車がはいっていた。これはスポーツメーカーT社の最先端自転車”TM-Ride"。

ある日彼がネットサーフィンをしているとタイムラインにとあるニュースが飛び込んできた。

~~~~~~~~

「こちらが次世代を担う自転車、TM-Rideです。」「うおおおおお!」会場が熱気に包まれる。「これが噂になっていたあれか!」彼女は勝手に盛り上がる僕を冷ややかなまで見ている。「たかが自転車ごときに何、熱くなってるの。傍から見たら滑稽ね。」「僕から見たら君の態度はとても損しているよ。残念でしょうがない。やれやれ、君にはこれの凄さが何もわかっていない。そう、これはただの自転車なんかじゃないんだよ!これはあの老舗スポーツメーカーT社と伝説的なデザイナー”ハラ氏”がタッグを組んだ最高なオーパーツだ!完全(フルオート)なギアチェンジ、人間工学に基づくT社の伝統的で約束された機能性とハラ氏の独特で生きているかのような美を兼ね備え、素材には近年発見された新素材”GV-Stone"が使われているんだ。」「へえ。」彼女は納得したようにふるまう。そして好きなものを前にした僕を窘めるような声色で訊ねる。「その素材って何なの?最近見つかったって?」彼女の顔はもっとわかりやすく説明しろと言っていた。「ええと...この素材はダイヤモンドよりも固くて、金よりも加工がしやすいんだとさ。すごいよね。まさに究極の素材だよ。」退屈そうな彼女の顔が驚きで包まれた。彼女の瞳がわかりやすく揺れていた。その様子が僕は驚かせる。彼女が動揺するだなんて。彼女はあまり感情を表に出さない。この間一緒にお化け屋敷に行った時のことを思い出す。あれは今思い出しても地獄だった。彼女は眉一つ動かさず心の底から退屈そうに進み続ける。僕を置き去りにして。そして僕は思っていたよりも怖がりでしょうがなかった。あの時はお化け屋敷なんて子供の時以来だったし、所詮雰囲気づくりでしかないとなめていたところもあったと思う。お化け屋敷を出た僕の眼に飛び込んでくる呆れていた彼女の表情。「可笑しなこと。あなたの方から誘ってきたのに。」彼女はそうやって無邪気に笑って見せたが彼女の瞳は笑っていなかった。僕はその瞳に対して一種のトラウマのようなものを抱えてしまった。それから、僕は彼女のそんな瞳を見ないように動くようになる。僕はため息をつく。(さっきは危なかった。彼女が僕を窘めるような姿勢で見始めると決まってその深淵を放つ瞳がぬるりと現れる。その瞳は僕をいたずらに傷つける。)僕は首筋、そこにある”跡”を触る。(そう、まるでこの傷のように。)

~~~~~~~~~

会場を映し出す映像、熱狂するライバル。究極な自転車を創り出したT社の代表取締役”時田一郎”は発表会の終わり間際に言い放った。「我らはこの自転車を開発したわけは、使ってもらうためです。そう、転売やコレクターとなってしまえば本末転倒となってしまいます。我々は考えました。どうすれば使ってくれる人にこの自転車が届くのか?この自転車は当社の八周年記念の目玉としてコスト度外視”究極な自転車”をコンセプトに、開発したために通常価格:八百万円ほどとなってしまいました。また、当社は高級ブランドと大衆向けなスポーツメーカーの二極化したブランドを抱えています。この自転車は今後、高級ブランド向けの商品として常設の販売を予定していますが、我々はもとより大衆向けなスポーツメーカーとして今までたくさんのお客様に支えられてきました。我々はそのお客様にも謝意を示したいと考えました。そこで!」社長の背後に立つ秘書がおもむろに紙を広げる。「チャンスキャンペーンを行います。お使いの当社の製品を写真に収めていただき、その写真を現像し当社のこの宛先までお送りください。」社長が秘書を指し示す。彼女が持つその紙には宛先がでかでかと書かれていた。会場にいる敵は持っていたスマートフォンでその宛先を記録する。彼もつられてその映像に映し出された宛先を写真で撮っていた。「そのお送りいただいた写真の中から抽選で8名様にこちら、TM-Rideを贈呈いたします!」「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」会場が熱狂に包まれた。それが駆り立てられた彼らが究極なる自転車を目指して奔走する争いの始まりだった!

~~~~~~~~~

その映像が終わる。そして俺は会社のホームページにアクセスした。しかし、会社のホームページはクラッシュしていた。そのサイトは訴えていた。この競争の苛烈さを、生半可な気持ちが敵うイベントじゃないことを。俺はひとまず自身の持っているT社の製品を確認した。使い古されたT社の自転車(俺の趣味はサイクリングだった。)、着古したのT社のTシャツ。俺は思った。こんなボロボロなのを撮って送っても当たらないだろう。そう思い、俺はT社のオンラインショップを見る。そこには二文字があった。”完売”「畜生!考えることはみんな同じだったか。」時すでに遅し、T社の製品は市場から一瞬で消失していた。ネットにはタイムリーな完売報告がタイムラインを席巻していた。「お願いします、お願いします!当てさせてください!」「私は今までずっと貴社を応援していました!」「このように撮ればあなたもきっと自転車が当たる!」タイムラインは自転車で染まりきっていた。俺はその濁流から目を逸らす。そしてひとまずこのあるもので写真を撮ってみることにした。

俺は8種類の写真を撮った。一枚目:森の中、自転車とT社のTシャツを着て大きな木を横に据えて撮った写真。二枚目:砂丘の上、砂と自転車のコントラストを狙った写真。三枚目:小高い崖の上、下り坂を駆け降りる俺と自転車、がけ下には海が輝いている。四枚目:雪原にいる自転車と俺、Tシャツだったので寒かった。五枚目:海辺、砂浜に横たわった自転車と夕日のコントラスト。六枚目:荒廃したビル街、自転車の使い古した感を軽減する狙いがあった。七枚目:霧の中、自転車を神格化したかのような荘厳な雰囲気の演出。8枚目:自転車を思いっきり海に沈めている。そんな写真。

俺は悩んだ結果、すべてを送り付けることにした。写真を現像するための機会を俺はもともと持っていたから写真を現像するのはすんなりいった。封筒にこの写真を丁重に入れ、しっかりと封をして、ポストへと投函する。よし、これで後は結果を待つだけかな。結果発表は三か月後。俺はその発表を楽しみにしつつも、ネットのライバルたちのあまりにも悲痛な闘争を傍から傍観していると俺の何気ない写真なんて当たっていないだろうなと半ばあきらめていた。

三か月後~~~~~~~~

張り出される八枚の写真。この中のどれかに俺のがあったなら。俺はその写真を見る。

当選した写真<1枚目:どこか崩れた街並みを背景に自転車に乗る男。2枚目:書店で本を読む若者と棚の横に無造作に置かれた自転車を撮っている写真。3枚目:監獄に閉じ込められた自転車を撮っている写真。4枚目:病院のベットで寝かされている自転車を撮っている写真。5枚目:公園のベンチに無造作に置かれた自転車とそれを見下ろす構図で撮られている写真。6枚目:紅葉と下り坂を駆け降りる自転車とそれに乗る男を撮っている写真。写真に写る男は心の底から自転車に乗ることが楽しいと言いたげな表情を浮かべていた。7枚目:雪が残る道、カーブに差し掛かった自転車、それに乗る男、疾走感がひしひしと伝わる写真。その写真に写る男は何かから追い立てられているような必死の形相を浮かべていた。そして、8枚目:自転車を思いっきり海へと沈めている写真...これって!それは俺が送り付けた写真だった。俺は驚く。心臓がその驚きによって鷲掴みにされ動きを刹那的に止められたのを感じた。俺はT社のホームページを確認した。”キャンペーンご参加ありがとうございました。たくさんの送られた写真によって我々の商品を愛するお客様の気持ちが強く伝わってきました!こちら、TM-Rideは一週間後に選ばれたこのお客様へ自転車を贈呈いたします。今後とも当社の製品をどうぞよろしくお願いいたします。”俺の心は多幸感に包まれた。その多幸感は天国へと続く梯子の様を現実に呼び起こし、俺の抱えていた漠然とした現実に対する不安を消し去った。俺はネットを見る。そこにあったのは阿鼻驚嘆。「どうして!僕は30枚も送ったんだぞ!」「神は死んだ!畜生、こんな現実やってられるか!」「許しません。もう、私はあんたの所の商品なんて買いませんよッ!」それを見て、ほくそ笑む俺の姿がここにあった。これこそまさにシャーデンフロイデ!この時の俺にとっての幸せの形は、そうやって他者を見下すことによってこの心に植え付けられた多幸感を増長させることに集中することだった!

~~~~~~~~~

そうか、確かにあの八枚の写真が張り出されたのはちょうど一週間前の日付が変わる瞬間だった。確かにちょうど一週間後だ。彼は多幸感中毒の腐りきった脳みそで正常な判断ができないままだった。この時の彼は気づいていない。この世界がねじれ始めたこのおぞましい予感を。彼はさっそくこの自転車を組み立て始める。ガチャガチャと大きな音がする。しかし、彼の邪魔をするものはいない。一時間が経過した。彼は笑う。「できた!」そこには輝かしい一つの自転車があった。TM-Ride!持ってみると軽く、そして頑強なのがわかる。(これが新素材!素晴らしい。)この素晴らしさは筆舌しがたい彼に輝きを魅せていた。彼はその自転車にまたがって見せる。その時、どこからか声がした。「Hello! This is Support AI. Please select your language. 」その声は自転車の方から聞こえてくる。彼はその声が聞こえる方向へと意識を向けた。「えっと、日本語で!」その応答に応じる彼、彼の言葉を合図にソレは話し出す。「こんにちは、こちらはサポートAIです。あなたの自転車ライフをサポートします。」

続く

読んでくださってありがとうございます。

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