第十九章 好敵手ーN 第四話
刻みつけられた運命はここから始まった。かつての犯した罪、その罪は地続き。かねてからの意味。そう、もう俺たちはとっくに咎人だった。この誰もいない深淵の下で俺たちは向かい合う。彼が纏いしそれは絶望、または希望。それが紡ぎだしたのは覚悟。そう、今を拒絶し前に進むための!それを目の当たりにした俺のナイフを持つ手が震える。その震えが指し示した彼はもう人の心を超越していた。彼を中心に空間がうねり渦を成す、彼の姿が不明瞭になる、そこから光が溢れ出す。その光がここを埋め尽くした。その光はまるで天の割れ目から降り注ぐようだった。それはまさに偉大なる神の怒りか、称えるべき神の祝福か。その光がゆっくりと消え、そこに現れたのは偉大なる神の使い”エンジェル” 。彼は何にも侵されないことの象徴”純白のローブ”を身に纏い、彼の頭上にはこの空間を円状に切り開いた裂け目が存在していた。その裂け目の輝がこの空間を揺らしうねらしていく。その様はまるで極光。彼は俺を見た。「俺は選択したんだ。今を捨てることを!だけど、どうやらお前は未だに過去に捕らわれているようだなぁ!」「選択?今を捨てる?今更わかりきったことを言うんだな。俺たちはここまで、今を捨てるためにタイムマシンを追い求めてきた。それは俺も、お前も変わらなかったはずだ!」「そうだ。だが、今までの俺たちは今を捨てるために今を生きてきた卑怯者にすぎなかったんだよ!だけど、それじゃぁだめだったんだ。タイムマシンを創る、そのためにはぁ!」彼は右手を頭上に掲げる。「さあ、始めよう!この選択が導いてくれた一つの儀式を!今を拒絶し、その証を立てよう!そのためには!」彼の持ち上げた右腕に輝きが収束する。彼はその顔に微笑みを称えながら声高らかに宣言する!「弐趾原ぁ!お前にとっての絶望を俺は俺の希望で喰らいつくそう!そう!、俺は俺の希望のために、そうお前にとっての絶望のために、この力をもって祝福を!お前を贄に、今を拒絶するための証を!そしてかつての契約を今ここで果たそう!!」彼の持ち上げた右腕に収束した輝きが、色が変わっていく。白、紫、青、緑、黄、橙、赤、白の繰り返しの明滅。それは次第に彼の腕の中で円環を成す。その大きさは次第に大きく、回天する速度も増していく。そしてその円環は彼の頭上、その背後の空間にある致命的な綻び、”裂け目”を中心にエンジェルヘイローを形創る。「天使、それは原初の神が創り出した”人の形”。契約の時は来たれり。俺は、神との間になされた契約を履行し、この悪魔を証にして、この原罪に救済をもたらさん。」その言葉を契機として、彼の背後の円環が成すエンジェルヘイローの中心に位置した裂け目が完全に崩壊した。そこからトビウオの軍勢が溢れ出す。トビウオはこの空間に満ちた輝きに沿う形で旋回し、崩壊した裂け目を啄み広げていく。そこからさらさらとした砂が落ちる。それは雪のように冷たくそこに横たわった。まるで彼女のように。
俺の目の前で彼女は横たわっていた。俺はその光景をただ茫然と見ていることしかできなかった。(どうして、どうして彼女なんだ。どうして俺じゃないんだ。)強い後悔。彼女が消えてから俺は未来に希望を持てなくなった。彼女の”死”が今までの俺が見て見ぬふりをし続けていた”死”を身近な物へと変えてしまったから。そう、毎日俺たちは”死”へと一歩一歩近づいてくる。そんな当たり前の事実に気づかされてしまった。嫌だ。死にたくない。彼女みたいになりたくない。俺は許せなかった。彼女の死が俺にとっての希望だった彼女を絶望の象徴へと貶めてしまったから。俺はやり直したかった。彼女の死を受け入れることができるように。そんな時だった。俺が彼と出会ったのは。
俺は力強くそのナイフを握りしめる。その時、俺はナイフからの鼓動を感じていた。その鼓動が俺の心と同化していく。そしてナイフとの鼓動が一つになったとき、俺はこのナイフの正体に気づいた。器として入れられた欲望、感情の影、誰しもが持つ原罪その象徴”本能”そのものだということに。俺は疾走する。ナイフ片手に。「邪魔だ!」トビウオを次々と殺し、前へ前へと。そして俺は彼の目の前に辿り着く。「フフフ。やっぱり、お前は俺にふさわしい好敵手だよ。」彼はそう言って笑っている。俺は彼にそのナイフを突きつけた。しかし、そのナイフはその瞬間、赤黒い液体状に成り果てた。「しかし、残念だよ。そのナイフじゃあ俺は殺せない。お前は諦めて俺たちの夢の贄と成り果てて堕ちろ!」彼はその刹那、光を槍へと変質させて俺を貫く。しかし、その瞬間俺の体は赤黒い液体へと変質した。彼は戸惑う。俺はそんな彼の喉元にこの凶器を突き刺す。「馬鹿な…」彼は信じられないものを見る目で俺を見ていた。天使のエンジェルヘイローに致命的な切込みが一つ生まれる。「なぁ…選択したんだよな。お前は。」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが二つできる。「お前に倣って俺も選択したんだ。俺にとっての希望を!」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが三つできる。「俺はお前みたいにみんなのための希望になることはできないようだ。俺がタイムマシンを渇望したのはすべて俺のためだったから。」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが四つできる。「だけど、お前の選択は見ていて気持ち悪いよ。所詮、お前は神の真似事をしているだけにすぎないのだから。」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが五つできる。「俺はそんなお前をどうやら許せないらしい。俺は俺の希望がお前の希望で貶められたように感じてしまったんだ。」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが六つできる。「そう、これは心の深淵、原罪の本質そのものだよ。お前がなろうとした神ですらこの原罪を抱えていたんだ。」俺は彼にナイフを突き刺す。エンジェルヘイローに致命的な切込みが七つできる。「残念ながらチェックメイトだ。残念ながら思い出しちまったよ。ここがどこなのか、そしてお前をあの時もこうやってめった刺しにしたっけなぁ!!」俺は彼をナイフでめった刺しにした。彼のエンジェルヘイローは八つ裂きにされた。彼の顔は苦痛で歪んでいた。
第19章 完
第20章へ続く
読んでくださってありがとうございます。




