第18章 ハイウェイ・タイム 第四話
その瞬間、僕のいるビルが音を立てて崩れ始める。そして屋上に現れた一つの大きな人影。そう、僕たちが狙うターゲット”アバターA” 。アバターAはビル側面から屋上へと飛び上がり衝撃とともに着地した。僕は身構えて戦闘態勢をとる。その時、敵から思いがけない言葉が飛び出した。「港、僕がわかるか?」Aは僕に呼びかけている。港?何を言っているんだ?僕は希代だ。港なんて知らない。そんな僕と対照的に彼は僕を見て顔を嬉しそうにほころばせていた。彼の様子を見て僕は言いようのない気持ち悪さを感じてた。「僕だよ。お前のたった一人の親友!」”親友”。その言葉が心に引っかかる。そう、のどに刺さった魚の小骨のように。僕に生まれた気持ち悪さが僕の心を覆いつくす。彼は目の前に一冊の古めかしい本を差し出した。それは「天肴翔」の”出会いと裏切りの螺旋”。頭に激痛が走る。その激痛には何かに僕が引き裂かれてしまうような、そんな衝撃があった。そう、僕はその本に見覚えがあった。その本はかつての僕たちにとっての希望そのものだったから。その刹那、僕の記憶が呼び起こされる。しかし、その記憶は、呼び起こされたソレにはいないはずの彼がいた。どうして、どうしてお前がいるんだ!宇津野!その瞬間、記憶の中の彼が黒く塗りつぶされていく。ぐちゃぐちゃで執拗な線が彼を消し去るように。僕は頭を抱える。激痛と喪失。記憶の欠落に伴って強まる痛みがその記憶を補完していく。僕は頭を抱えながら前のめりに倒れ込む。痛い!ソレの中で僕は彼を殴る。ソレの中で彼は絶望の象徴へと成り果てる。どうして、僕は止められなかったんだ!強い後悔。僕は宇津野を殴る。強い憎しみ。天使が生み出す槍とそれを受け流す誰か。強い殺意。「さよなら、かつての親友!」そして開放。銃を突き付けて引き金を引く。何度も執拗に。その体は後ろに吹き飛び、見るも無残な姿で横たわった。
「大丈夫か?港?」うずくまる僕をその男は上から見下ろしていた。「港?」「さっきからなんなんだよ。港、港って!僕は希代、今生希代だ!港なんかじゃない。」「何を言っているんだ?お前は港だ。間違えるはずがないだろ。僕だよ。お前のたった一人の親友の…」「あんたのことなんて知らない!港なんて知らない!何も知らない!誰も知らない!」僕は思わず叫んでしまう。記憶が消えていく。僕が消えていく。誰かにぐちゃぐちゃに記憶が塗りつぶされていく。執拗に。まるで奪わているかのように。僕が奪われていく。誰に?僕が消されていく。誰に?僕の目の前には一人の男がいた。僕は懐に持っていた銃を取り出した。そして銃口を目の前に向ける。「やめろ!」彼が僕に向かってくる。もう僕はこの銃の引き金に掛けていた指を強く握りしめていたというのに。
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目の前で港が銃の引き金を引く。港の眉間に風穴が開いた。そこから血みどろの液体が溢れ、飛び散る。僕はその光景をただ、呆然と眺めていた。その時、僕はどこからかThe BeatlesのYesterday が流れていることに気づいた。それは口笛の様だった。僕はその声の方向へと視線を向ける。そこには夜見がいた。彼女は微笑みながら口笛を吹いている。彼女の眉間には風穴が開いていた。そこから彼女によって欠落した景色の一部が見えた。僕は港へ意識を向ける。港にあったはずの風穴は無くなっていた。「どうだったかな?親友との久しぶりの再会は?」彼女は笑いながら問いかける。僕は身構える。「フフフ。もう、わかったでしょう。あなたの知っている彼は死んだって。」彼女はそう言って僕を嘲笑う。彼女はおもむろに手を前で組み祈るような姿勢を見せる。その瞬間、周囲から漆黒の茨が現れて僕の腕と足を縛る。僕は戸惑う。彼女の能力にこんなものはなかったはずだ。僕の顔を見てカノジョは笑っている。「油断しちゃだめだよ。傍観者君。私たちはあなたを殺しに来たのだから。」「やっぱり、お前夜見じゃないな。」その問いかけにカノジョは答えない。カノジョはおもむろに水晶玉を懐から取り出した。そこにはトラックが映し出されていた。「古の遺骸の一部、最後の生き残り、三番艦”アメン”は返してもらうよ。」その瞬間、トラックが爆発し中からタイムマシンがあらわになる。そのタイムマシンの甲板に一つの人影。そう、宇津野がそこにいた。「宇津野、遅いよ。」「しょうがないだろ。予定が狂っちまったんだからさ。ところで希代の様子は?」「まずいね。帰ったら調整が必要だろうね。」「そうか。ターゲットは?」彼女は僕に向き直る。「今、捕縛したところ。もうこっちで処理しちゃう?」「そうしてくれ。俺はこいつの後始末をしてから帰投する。」「了解。」彼女は耳につけていたアミュレットを取り外した。「残念ながらチェックメイトだ。悪いね。あなたは諦めて今を生きる私たち同胞の犠牲になってくれ。」
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「馬鹿だよね。いつまでも過去に縛られているからこういうことになるんだよ。」カノジョはそれを見下しながらそんな言葉を吐き捨てる。「もうあなたにとっての彼はいないよ。もはや彼は私たちにとっての数少ない希望そのものだから。」カノジョは彼の服の襟を片手でつかむとその刹那その場から消えていた。そこに一つの血だまりを残して…
第18章 完
読んでくださってありがとうございます。
私はお風呂上りにこの小説を書きました。
私の好きな湯加減は42℃です。




