第十七章 お返し(Return) 第二話
ある日、些細なことで喧嘩になった。その時の僕と彼は激しくいがみ会っていたのを昨日のことのように思い出す。でも、もう僕はこの喧嘩の原因、そうその”些細なこと”を思い出すことはできなかった。でも僕たちはそのことについて本気でぶつかり合った。今までのすべてを犠牲にしてもいいほどに。そう、僕たちは殴り合った。あの日の河川敷で。夕暮れの下で向き合って。そう、まさに今日のように。
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この本を開いた俺は俺に未知なる力が湧き上がる鼓動を感じた。その鼓動がどんどん高鳴る。この力が俺の手となり足となった。そして俺は確信する。この力があれば、この力さえあれば俺はこの悪夢に終止符が打てる。いや、打つ。この悪魔を殺して俺はこの悪夢から、今までの苦しみから自由になってくれる‼「死ね!!この悪魔ぁ!俺はぁこの力をもって今までの復讐を果たそう!!」
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僕は彼の顔面を殴る。執拗に何度も。彼は抵抗しない。「もう、こんなことはやめにしよう。」僕は彼のそんな無責任な言葉にむかついた。「どうして、どうしてそんなこと言うの?」「俺はもう気づいたんだ。こんなことをしていてもしょうがないってことに。」「遅い。遅すぎるんだよ。お前はあの時すでに気づいてたはずだろ!!」「ああ、その時の俺には覚悟がなかったんだ。そう、俺は逃げ続けていたんだ。」「じゃあこれはお前の自業自得だったんじゃないか!」僕は彼の服の襟をつかむ。彼は諦めた顔をして天を仰ぐ。「俺はこの末路を受け入れることにしたんだ。どうか俺を思う存分殴ってくれ。お前にはその権利があるから。」僕は彼の顔を殴る。何度も何度も。だけど殴っても、殴っても僕のこの気持ちに整理がつかない。言いようのないやるせなさが僕の心を埋め尽くした。そうか、これが狙いだったんだな!宇津野!!
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周囲が青に染まる。まるで青空がここにあるかのように。そしてその青は空間をうねらせ本を中心に展開した。まるで渦の様に。本から光が溢れる。その光が円環を形成し彼の頭上でこの青空を照らす。その姿はまさに日輪の様。彼は手を前にかざし祝詞を唱える。その祝詞に応えるように目の前に茨でできた槍が顕現した。その槍は光の結晶。そして調和の象徴。彼はこの槍を片手に携えた。そしてその槍を掲げる。日輪が廻天する。そして槍の影を創り出した。日時計のように。そしてその影から12本の槍を創り出した。彼は左手を日輪にかざし唱える。「ああ!我が槍よ。この悪魔に死という名の運命をその茨をもって刻め!」
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「どうか俺を思う存分殴ってくれ。お前にはその権利があるから。」そう言った彼の顔は笑っていた。僕は彼に大きく振りかぶっていた。そう、僕は僕から彼への報いのお返しがしたかった。ここにきてようやく彼は過ちを認めたから。だけどいざその瞬間が訪れると言いようのないやるせなさが僕の心を埋め尽くした。僕の振りかぶった拳は彼の顔の横を通り抜ける。僕はその場に座り込んだ。「畜生ッ!!ずるいよ。お前はいつも、今までだってそうやって!」僕は彼を睨む。彼はそんな僕を上から見下ろした。「お別れだ。希代。たぶん俺は次にお前と会うときは記憶を失くしているだろう。」そう言って彼は黒い錠剤を取り出した。彼はそれを自らの口に流し入れる。「そうやって、お前は逃げるんだ。あの時も、今も!この卑怯者がぁ!許せない。僕はお前を許さない。僕はいつか必ずお前にこの報いを、罪をお返ししよう!たとえどんな手を使うことになったとしても!!」そう言った彼の瞳には深く澄んだ漆黒が宿っていた。
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俺の放った槍を悪魔はダガーナイフで弾き返す。そして悪魔は急速に距離を詰めた。俺は12本の槍をこの空間内で縦横無尽に展開しその悪魔の命を狙う。しかしその悪魔はすべての攻撃を見切り、弾き、避ける。まるで踊りのように。俺はこの槍のコピーによる追撃を止め、近づいてくるその悪魔との一騎打ちに意識を向けた。彼は逆手にナイフを持ち、周りの棚を縦横無尽に蹴り飛ばしながら空間を自由自在に駆ける。しかし、この空間はもう俺の一部だ。この青空での行動はもう俺にすべて筒抜けだ。俺は悪魔の動きに意識を集中させる。そして片手で持った槍を構えその時を待つ。来た。彼は右斜め前方からこちらに向かってくる。「死ね!!」俺は持っていた槍を彼に向かって突き刺した。彼のナイフを持つ右腕を狙って。しかし、俺の槍は、攻撃は彼に当たる寸前で不自然に逸れた。俺はどうして攻撃が逸れたのかわからなかった。その悪魔は言った。「これも運命か。始まりと終わりが同じなんてね。」彼は持っていたナイフを俺に向かって投げつける。そのナイフは俺の右目に直撃した。俺は頭から後ろに倒れる。目に刺さったナイフが液体のようになり、俺の体を侵食していく。彼はゆっくりと近づいてくる。彼の手にはいつの間にか銃が握られていた。「ようやくだ。お前が犠牲にしたかつての同胞たち、その報いをやっとお返しできるようだなぁ!」彼は俺に銃を突きつける。「さよなら。かつての親友。」
第十七章 完
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