第十八章 任務#1 第一話
「おい!希代そっちに行ったぞ!」「ハイハイ。了解。」僕は持っていたスナイパーライフルを構え、高層ビルの屋上からその時を待つ。「ターゲットは今大通りを逃走中。このままいけば、あと3分ほどで指定の座標に誘導できそう。このまま待っててね♪」夜見は作戦中でも緊張感というものがなかった。むしろ、楽しんでいるようにさえ見える。こんなのただただめんどくさい義務でしかないのに。僕は彼女のそんな態度に心のどこかで悪態をつきながらこのライフルのレティクルを覗き込む。すると彼女からまた通信があった。「大変!!ターゲットがトランス能力を使い始めた。」「どうして?そいつはタイムマシンを護衛している最中なんだろ?聞いてた話と違うじゃないか。」「わからないけど、急に彼の様子がおかしくなって…あっ今彼が動き出した…えっどうして。」「おい!何があった!!」「ターゲットが護衛していたトラックを乗り捨ててどこかに真っすぐ向かい始めたわ。」「どこに?」「彼は真っすぐ希代、あんたの所に向かっているのよ!!」その瞬間、僕のいるビルが音を立てて崩れ始める。そして屋上に現れた巨大な影。それはまさしく僕たちが狙っていたターゲット、「アバターA」。
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僕は眠い瞼をこすりながら会議室に続く廊下を歩いている。急に呼び出されてしまったから。「せっかくゲームがちょうどいいところだったのにさ。」と悪態をつきながら会議室への道を急ぐ。「まあまあ。俺たちを呼ぶってことは余程のことが起きたんでしょ。」そういう彼は朝早い呼び出しだっていうのに元気そうだ。僕は彼を見ていて鬱陶しく感じると同時に言いようのない懐かしさのようなものを感じていた。彼のこの姿を見るのが久しぶりだったからだろうか。「最近は暇で暇でしょうがなかったからね。わたしゃとてもわくわくしとるよ。」そういう彼女は満面の笑みでくるくると回りながら僕たちの早歩きに追従する。普段の無気力な姿との変わりように僕は驚いたものだった。僕は彼らの鬱陶しさに辟易しながら、会議室の扉を開ける。そこには時田がいた。
「希代、宇津野、夜見。任務だ。」彼は不愛想な表情で淡々と告げる。彼は僕たちの前に資料を投影する。「お前たちの任務はタイムマシンとその護衛の抹殺だ。」彼の視線の先には現在高速道路を進行中の大型トラックの映像が映し出されていた。
大型トラックを軍事多目的ヘリコプターが追従する。トラックに追いついたヘリから降下する白の迷彩服にを纏った集団が降り立った。僕たちは彼らを知っていた。彼らは特殊部隊”オリジン・ケイオス”通称”特殊部隊OK” 。このT研究所が抱える対トランスの特殊部隊、その最高戦力だ。彼らの装備は国から援助され常に最新の状態を保っている。そして彼らの装備はこの研究所のタイムマシン技術を用いた改造が施されている。彼らのライフルは撃ったその刹那着弾し、彼らが纏いし迷彩服はトランス能力を軽減する。そして彼ら全員は戦闘のエキスパートで構成されている。
彼らはトラックのコンテナ部分に降り立つ。コンテナ部分に爆弾を設置するために。部隊員が全員降り立つと爆発音がした。まるでこのタイミングを見計らったかのように。彼らのヘリがエンジンから炎を出して墜落する。そしてそのヘリから降り立ったのは一人の大男。彼はトラックの荷台に降り立つと部隊員に次々と触れた。その瞬間彼らは血を全身から噴き出して倒れ、トラックのコンテナ上部から放り出される。道路が血の跡で汚れる。彼らはその男に銃弾の雨をお見舞いする。しかし、その大男は効いていない様子で彼らに次々と死をもたらしていく。その様はまるで悪魔の様。
その映像を見せられた僕たちに時田は言葉を続ける。「そのトラックに積まれているのは我々がかつて黒歴史として抹消したはずのタイムマシンプロトタイプ、その生き残りだ。そしてこのトラックは我らのエネミーカンパニーの一つである”NICD”通称”N社”に向かっている。このままでは私たちの知らないところでタイムマシンが量産され我らの築き上げたすべてが壊されるだろう。」
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初期型タイムマシン”通称”タイムマシンversion1” 。これはタイムマシン競争において産まれた負の遺産。かつて人類は生き残るために今を捨てる必要に迫られた。そして必要に迫られた人類が創り出した原初のタイムマシン。それがタイムマシンversion1である。一度完成したその乗り物は当時の人類の希望となった。しかし、このタイムマシンは過去未来と物体を送る過程で致命的な変質を生じさせる。実験では未来に送られた人は砂状になって消えた。過去に送られた人は身体が無理やりねじられたように見るも無残に死んでいた。そうこのタイムマシンはそんな未完成な代物であった。しかし、このタイムマシンは完成までに多くの血が流れていた。そして当時世界では時間を神として崇める宗教の影響が強かった。その力が創り出した世論はタイムマシンを神聖化した。そして多くの人がこのタイムマシンに乗り込み無駄に命を散らした。次第に彼らにとってこのタイムマシンはもはや絶望の象徴へと成り果てた。そうして彼らにとっての最後の希望”すべてのやり直し”に手を伸ばす。その希望はうまくいった。そしてタイムマシンの存在は秘匿された。そして国がタイムマシンを完成させるためにとある2大企業に資本を集中させた。一つはT社(今のTimeline研究所の前身)、もう一つはN社であった。この二つの企業に白羽の矢が立ったのはこの二つの企業だけが初期型を発展させ、物体を変質させないタイムマシン、”タイムマシンversion2”を完成させていたからだ。当時、国の権力は大きく二つに分かれていたからこの二つの企業は権力闘争の格好の的だった。最終的にT社がその競争に勝利をおさめた。タイムマシンは本来の希望を取り戻した。T社は国との結びつきが強くなり独自の軍隊を持つまでになった。そして完成したタイムマシンによって人類は時間を克服し人類はようやく未来を信じることができるようになったのである。それからしばらくたって彼らトランス能力者が現れた。
「なるほどね。トランス能力者がいる今、初期型がN社の手に渡れば大変なことになるということね。タイムマシンVer2は既存の技術の応用でできるけど、タイムマシンVer3はタイムマシンVer1を用いた応用でしか作れないから、かつてタイムマシンを開発していたN社に渡ってしまえば碌な事にならないということね。」夜見は無邪気な笑顔を浮かべてそう言った。「それにしてもそのタイムマシンはどこからでてきたんだ?初期型はVer3を作るのに3つ、破壊したのが4つで全部で7つだったろ?」「なるほどね。だから生き残りなのか。」彼女は納得したようにうなずく。
N社はタイムマシン競争に敗れた後、トランス能力の研究に傾倒した。彼らはトランス能力者の量産化に成功していた。それらは”アバターシリーズ”と呼ばれAからZまでの種類がある。時田は言った。敵はトランス能力者アバターA、またの名を「行動力の化身」。近接戦闘特化の能力。「お前たちは今から現場に向かい、タイムマシンを破壊しろ。そしてあのトランス能力者を抹殺するのだ。この二つの達成のための手段は問わん。可及的速やかに任務を遂行せよ。」僕たちは夜見の能力に乗って現場へと向かう。僕は生きるための必要な義務と割り切って。私は近づいてくる非日常という名の自由に心躍らせて。俺は彼らのかつての犠牲を無駄にしないために。
続く
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