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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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29/30

出会いと裏切りの螺旋

ついに見つけた彼女の姿は見るに堪えなかった。

 彼女は僕の幼馴染だった。彼女と僕は近所に住んでいた。僕と彼女は家の近くにある公園で学校が終わった後はいつも一緒にブランコに乗って遊んでいた。彼女はブランコに乗って漕がないで遠くの地平線に沈みゆく夕日を見ていた。僕はその彼女の横顔から目が離せないでいた。その彼女の横顔が儚く見えたから。まるで今にも消えてしまいそうに。「私たちはこのままでいられるのかな。」その言葉は夕日の眼に入らない場所で今でもくすぶっている。

 ついに見つけた彼女は顔面を鋭利な何かで刺し殺された状態で見つかった。最後に彼女と一緒にいた僕は警察の事情聴取を受けていた。どうしてこんなことになってしまったのだろう?なんで彼女がそんな風に殺されなければならなかったのだろう?「はあ。」そのため息で上の空だった僕の意識が戻ってくる。ため息をついたのは目の前にいる大柄な刑事。その刑事は懐から写真を二枚取り出していた。一枚目にはダガーナイフが写っていた。「被害者の手元にはこのナイフが残されていました。このナイフに見覚えはありますか?」「いいえ。今まで彼女がそんなナイフを持っているのは見たことないです。」僕は緊張してそう答える。それを聞いて彼はもう一つの写真を差し出す。その写真の中で彼女が僕に笑いかけた。

 彼女は僕の幼馴染だった。彼女と初めて出会ったのは家の近所の公園だった。僕は公園のベンチに座っていた。僕はそのベンチが好きだった。そのベンチからただ茫然と雲を眺めているのが好きだった。その日も学校終わりに僕はベンチに座って上を見上げていた。どれくらいの時間がたったのだろうか?夕闇がにじり寄る時間になる。僕はもうそろそろ家に帰ろうかと考えながら、ビルに電灯が灯るさまを見ていた。その時僕は歩道橋の上から僕を見下ろす少女がいることに気づいた。僕が彼女と視線を合わせる。その瞬間彼女は何かに気づいたそんなふりをして歩道橋から逃げるようにそそくさと去っていった。

 ついに見つけた彼女は写真の中で僕に笑いかける。僕は彼女の瞳に吸い込まれるそんな錯覚にとらわれた。そんな気がした。「この写真に心当たりはありますよね?港さん。その写真は彼女が行方不明になってから2日後に撮られたものです。」その写真で彼女は僕に笑いかける。「彼女はあなたと一緒に水槽を見ているようですね。手をつないで。どうやら仲がよろしいようで。」彼はそう言って僕を小馬鹿にしたように笑う。「あなたは前回の事情聴取の際、彼女と最後に会ったのは行方不明になる前日の学校だったとそう聞きました。ですがね。この写真からあなたは彼女が行方不明になってからも彼女と会っていたようですね。」その写真で彼女は僕を笑う。あざ笑うかのように。

 彼女は僕の同胞だった。それからしばらく僕たちは公園のベンチと歩道橋の上とでお互いを遠くから観察しあっていた。この時の僕たちは互いに他人同士の距離感というものにあまりにも慣れてしまっていたから、より高度な関係を築いたときに生まれてしまう距離感を極度に恐れていた。しばらく僕と彼女とはそんなことを続けていた。この時の僕たちは恐れるあまり、踏み込むことを躊躇って互いが互いに責任を押し付けて現状維持を決め込んで逃げていたんだ。こんなことを続けても何の意味もないことはもう知っていたのに。彼女との仲が進展したきっかけは学校の中だった。学校終わりに公園のベンチで本を読もうと図書館に行くとそこに彼女がいた。僕は彼女の姿を見て固まってしまった。この時の僕は彼女との距離感も正面切って話す覚悟も持ち合わせていなかった。何気なく図書館に来ただけだったから。僕は今すぐにこの空間から逃げてしまいたくなった。しかし、なぜか足が動かなかった。僕は彼女を目で捉える。彼女も僕の存在に気づいた様子で読んでいた本を落とし、その場で固まっていた。その姿を見て僕の心にあった恐れのようなものが無くなっていく。彼女の中にある僕と似た部分を感じ取ることができたから。その恐れの代わりに僕の心を埋め尽くしたのは逃げ出さないための覚悟。僕は彼女に話しかけた。

 ついに見つけた彼女は僕の絶望の象徴。「とぼけないでいただきたい。もう大体の調べはついているのですから。港さん。さあ、説明してもらいますよ。この写真について、そしてこの写真が撮られた後のあなたと彼女の行動について。」僕は何も言えないで黙っていた。額から汗が流れる。僕の頭の中で過去の記憶と思考が反芻し渦を成していた。その時、僕の頭に響く声がする。「お前はここにきてまだ諦めきれないの?もう僕たちに残されたの希望は全てのやり直し(リセット)だけだっていうのに。」その声は私の左耳から入ってくる。「お前はまだ生きること(コンティニュー)逃げること(コンティニュー)を希望だって未だに信じているの?その信じた末路が今だっていうのに。その希望にすがって彼女を裏切ったっていうのに。」「黙れ!」「彼女はお前にとっての救いであり続けていたかったんだ。でもそれをお前は拒絶した。」「そうだ。僕は彼女と対等な関係でいたかったから。」「彼女にとってお前はこの世界で唯一の理解者(同胞)だった。だから彼女はお前にすべてを捧げていた。なのにお前はそれを知っていながら彼女をお前自身と対等であるかのように接していたんだ。そう彼女にとってお前はすべてだった。だから救いであり続けようとした。なのにお前は彼女が、今までのすべてがうまくいっていた彼女との距離感を壊そうとしていると思ったんだろ。そうまるで彼女に裏切られたって!」「黙れ‼」「お前は彼女と話そうとした。でも無駄だった。彼女にとっての救いはお前にとっての理想だったから。彼女の言葉でお前にとっての理想が穢されて貶められた。そう思ったんだろ?」「・・・」「だから殺した。その手で彼女の首をつかんで床に叩きつけて持っていた包丁でめった刺しにして‼」

 彼女は僕の希望だったようだ。彼女と過ごした今までが走馬灯のように僕の目の前を走り、頭の中の思考の渦に吸い込まれていく。これがすべてのリセット。彼女がこの希望(リセット)を通じて僕の生涯の救いへと昇華されていくのがわかる。薄れゆく記憶の園で彼女は歩道橋の上から飛び降りた。

~~~~~~~~~~~~~~

 私は急に取り調べをしていた容疑者が椅子から転げ落ちたのを見て慌てて駆け寄った。彼はしばらくたって意識を取り戻す。私たちは取り調べを再開した。しかし、彼の様子は今までと全く異なっていた。「誰ですかね?この人。」彼は写真を見てそう言った。彼の瞳の色が意識を失う前と大きく異なっていた。彼の濁ったような瞳は深く澄んだ漆黒へと昇華していた。その目が私を捉えて離さない。その目には進むべき(希望)が宿っているように見えた。

出会いと裏切りの螺旋 完

読んでくださってありがとうございます。

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