第十二章 強襲編 第三話
「よお。久しぶり。元気そうだな」彼は扉を開けてゆっくり入ってくる。彼は私を見て笑いかけた。彼の手には見たこともないような銃が握られていた。彼は息を切らしていた。まるでここに来るまで全速力で走ってきたかのように。挨拶もそこそこに彼は懐から何かを手渡す。「お前が無事でよかった。俺はお前を探していたんだよ。」そう言って彼が渡してきたのは西洋チックなお守り。「それはこっちのセリフだ。どうして今までずっと連絡もしなかったんだ。私は心配してたんだよ。」それを聞いて彼は申し訳ないとでも言いたげな顔をした。「本当にすまなかった。連絡することができなかったんだ。僕は事故に会って病院にいたんだよ。」「えっ。事故?」「そう事故だった。そのせいで連絡手段を失くしてしまったんだ。こんなに遅くなってしまってすまない。」彼はそう言って頭を下げる。彼は話し続ける。「僕は何とか病院から逃げ出すことができたんだ。そしてこれをやっと取り戻すことができたんだよ。そして僕はこのアミュレットを使ってやっとお前を見つけ出すことができたんだ。お前がここにいるならあいつもここにいるんじゃないのか?」「そうだったんだ。」私は表面上納得した風を装って内面は混乱していた。彼は今まで、私とここで会う約束をするまで一度も連絡してこなかった。こちらからの連絡も通じなかった。それを私は問い詰めたつもりだったのに彼の答えは要領を得ない。事故?連絡手段がなかった?病院から逃げ出す?何を言っているんだ。そして彼の手に持っている銃。それは私の見たことのない形をしていた。「ところで、よみはどこにいるんだ?僕のアミュレットはどうやら壊れてしまったようで直してもらいたいんだ。このアミュレットからは受信はできるが送信はできなくなってしまっているようでさ。」彼はそう言って笑う。「お前さっきから何言ってんだ?」「だからよみと合流しようって提案しているんだよ。このままじゃあ僕たちの使命は失敗になってしまう。タイムマシンが空中分解したのもそうだし僕たちが何者かに狙われているのもそうだ。このままじゃ僕たちの今までの信用がだめになってしまう。そうだろ。」任務?タイムマシン?何を言っているんだ。「よみ?あぁ、そうだ。たぶんお前が探しているよみはこちらで保護しているよ。」「たぶん?」彼は私の言葉を聞いて怪訝そうな表情を浮かべる。「何か変なことを言ったか?」「だって彼女は僕たちの数少ない同胞の一人じゃないか。わかっているはずだ。そうだろ?」同胞?なぜかその言葉だけが私の心に引っかかる。そう、のどに刺さった小骨のように。「なあ、宇津野。一体どうしちまったんだ。こいつらに何かされたのか?」そう言って彼はラーメン屋の店内に広がる惨劇を指し示す。「宇津野?なあ港。お前さっきから何を…」そう言いかけた私を彼は睨む。「そうか、お前宇津野じゃないな。お前、あいつらの仲間だったんだな。そうか、外見だけ変えて僕を待ち構えていたんだなぁ!このアミュレットを奪うために!」彼はぐちゃぐちゃな表情で私を怒りのままに睨んでいる。彼は彼が渡してきたお守りを無理やり取り上げた。「何を言っているんだ。お前は港なんだろ?」「黙れ。俺は希代だ。港なんかじゃない。お前、宇津野をどこへやったんだ。答えろ」「宇津野?誰だよ、それ。」「とぼけるんじゃねぇ!じゃあなんでお前あいつのアミュレットを持ってんだぁ!」いつの間にか私はダガーナイフを握っていた。そのダガーナイフの持ち手には彼が持っているものと同じお守りがついていた。彼は持っている銃を向けている。その銃を持つ手は震えていた。「なあ。その銃はなんだ?いったん落ち着いこう。話し合えばわかるはずだ。」「黙れぇ‼俺はぁ逃げるわけにはいかないんだ。お前は僕たちに仇為す敵だ。殺す以外の余地なんてあるわけねぇだろうが!」銃が撃たれた。そう思った刹那、目の前に誰かが現れた。
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僕は僕の体が引き裂かれるような感覚に陥っていた。しかし、もう止まるわけにはいかない。彼は仲間の皮をかぶった所詮偽物だ。僕、いや僕たちにとって何者でもない他人を殺すことは生きていく手段の一つに過ぎなかった。そうもう迷いだってない。手の震えが引いていく。僕は明確な殺意をもって引き金を引いた。その刹那、銃弾が彼に着弾する。そうなると思っていた。誰かが目にも止まらない速さで向かい合う彼と自分の間に割り込んだ。そいつは銃弾を弾き飛ばした。「蒼汰。久しぶり。元気だったか?」邪魔した奴は目の前にいた奴にそう言った。彼は全身に返り血を浴びていた。片手に銃、もう一方の手に包丁を持っている。「お前?港か?」「フフフ。そうだ。気づくのが遅いんじゃないか?懸餅。」「おい、この状況はどういうことだ?なんでお前が二人いるんだ?」「積もる話はあるがまずはこの状況を打破しなければならないようだなぁ。」そういうと彼は持っている武器を掲げる。彼を中心に空間がうねり渦を成す。それに伴って空間が青に染まる。その渦は感情を伴って僕の心に流れ込んできた。それは悲哀、または失望。そしてそれを上回る殺意。僕はこの光景を見たことがあった。「なんで。どうしてこんなことが。これはあの時と同じ…」そう、【僕たちの絶望の象徴”天使”】その顕現の始まりの儀式だ。
続く
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