第13章 夢の続き #2
私は病院から抜け出す。するとそこは水族館だった。啞然とする私の目の前には巨大な水槽が広がっていた。中でジンベエザメ、イワシの群れなどが自由に泳いでいる。私は思わず目を逸らすと私以外にもこの水槽を見ている人がいることに気づいた。彼らは学生服を着ており高校生だとわかる。そして、彼らは水族館のパンフレットをもって駄弁りながら水槽を傍目に歩いている。「か~け~も~ち~。この後はあのラーメン屋でご飯にしよ~ぜ?」「その呼び方やめろ。あとお前どうせ私に奢らせるつもりなんだろ?」「フフフ。ばれてしまったようだな。」彼らは周りを気にせず歩いていた。私は彼らを一瞥してこの水族館の中を探検する。どうして私がこんなところにいるのか、知るために。しばらく歩いていると私の目に飛び込んできたのは異質な水槽。この水槽は私がさっき見た大水槽よりも一段と大きく、その水槽内は水で満たされていた。しかし、その中には何もいない。何も。ただただ水槽内の水が静寂を称えるばかりだった。私はその水槽を食い入るように見ていた。私はその水槽に引き込まれるそんな感覚に陥っていた。「ねえ。あなたこの水槽好き?」私がこの水槽を見ていると、少女が話しかけてきた。私はなぜかその少女の問いかけに答えていた。「まあまあかな。変化がなくて退屈に思ってたんだ。」彼女は食い下がる。「嘘よ。」「どうして?」「あなたはこの水槽を見ながら泣いていたのよ。」言われて初めて私の目に涙が浮かんでいるそんなことに気づいた。「あなたはこの水槽に来るまで水槽なんかにはまるで興味ないですみたいな顔をしていたわ。」「だったらなんだ?」「私もなのよ。私も魚が泳いでいる水槽が嫌いなの。まるで普段の私たちをバカにしているようで。」「どうゆうことだ?」「フフフ。しらばっくれるのね。やっぱり私たち似ているわ。」この少女はいたずらに笑う。「水槽は私たちのコミュニティに当てはめることができるわ。学校、会社だったりね。水槽の中には様々な種類の魚が入れられているように私たちが属するコミュニティも様々な人がいるわ。」彼女の説明は私の心にぬるりと入り込む。今まで無意識に感じていた水槽に対する忌避感の原因がわかる。そんな気がした。「私は魚が泳いでいる姿を見ても今までだって彼らが気持ちよさそうなんて思ったことはないわ。なぜって?彼らの顔は無表情で同じところを何度も何度も行ったり来たりしているもの。私は水槽を見ると私たちはこの魚のように盲目的な不自由を味わっていると感じるのよ。私たちは生きている以上どこかのコミュニティに属さなければならない。しかし、私たちが自身で選択しても所詮水槽が大きいか小さいかの違いしかないのよ。そしてこの魚たちのようにいつかは海を忘れ、傍から見たこの魚のように私たちは特定のパターンで動き続ける機械人形に成り果ててしまうのよ。」彼女の説明は続く。「私は水槽を見るのがたまに怖くなるわ。もし、私に似た魚がいたらどうしようって。私がその魚を私自身だって否応なしに感じてしまったら、その魚がただ漂っていたら、それを第三者の目で傍観してしまったら。水族館でただ水槽を何気なく眺めるように受け止める覚悟も準備もできていないままで。」彼女の声は震える。「私は目の前のこの水槽は一つの救いだと思うの。この水槽を前にすると私一人がこの水槽に入っているそんな気がしてくるの。私に似た魚なんていないそう言ってくれている気がするの。」彼女はそう言って笑った。
「違う。そんなんじゃない。」「え?」彼女の顔が陰る。「この水槽は救いじゃない。向かうべき理想だ。生きていれば誰もいないコミュニティなんて存在しない。そんなことはわかりきっているだろうに。私はそんなものはこの水槽を見るまではただの空想の産物だと考えていたんだ。今ならわかる。だから感動したんだ。そう私は水槽が嫌いさ。あぁ嫌いだよ。大っ嫌いだ。水槽を見ると、自分の選択を後になって後悔する奴の顔が浮かんでくるからなぁ。お前みたいな奴のことだよ。お前は水槽を見るのが怖いと言いつつも自身に似た魚なんて言う幻想を追い求めて諦めようとする卑怯者だ。」彼女の灰色だった瞳が黒く濁る。「黙れ。黙れ。だまれぇ。私は卑怯者なんかじゃない。卑怯者なんかじゃない。」そう言って彼女は私の首を絞める。しかし不思議と苦しくない。むしろ心地よい。「お前は今までだってこうやって逃げてきたんだろ。自業自得なんだよ。この水槽はお前のものじゃない。私のものだ。」その瞬間、目の前の水槽の水が黒く染まる。それは渦を成す。私は持っていた包丁を目の前の水槽に向かって放つ。水槽に包丁が突き刺さり水槽の水を吸い込む。包丁だったものがダガーに変遷する。ダガーは私の手に戻ってきた。「どうやらお前にとっての救いはお前を見捨てるようだな。お前は私の理想の贄と成り果てて堕ちろ!」私は持っていたダガーで彼女をめった刺しにした。
第13章 完
読んでくださってありがとうございます。
私は味噌ラーメンを食べながらこの小説を書きました。
私の好きな味噌は麦味噌です。




