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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第十二章 強襲編 第一話

 今日は休日。私は趣味のサイクリングに興じていた。私は自転車が好きだ。周りの景色の変化の激しさ、まとわりつく気持ちのいい風、車では味わうことのできない運動をしている私自身に対する充足感が私をサイクリングに駆り立てる。私にはいつものサイクリングコースがあった。私はこのコースがとても気に入っていた。適度な上り坂に下り坂、ほとんど人が歩いていない道、ひび一つないコンクリート。そして季節によってこの道は表情を変える。春には通りの桜が美しく、夏には適度な木漏れ日、秋には紅葉。今の季節は秋。私は紅葉の深まる木々の下を走っていた。私は紅葉を見ながら今年の終わりの予感をひしひしと感じて一抹の寂しさを感じていた。坂を登る。自転車のギアを軽くして、立ちこぎで。坂の頂上から心地の良い風が降りてくる。私がこの坂を登り終える。その坂の頂上から私の住んでいる街が一望できた。私は少し自転車から降りてその景色を眺めていた。

 眺めていると下り坂の途中にある歩道橋の上の人影が気になった。その人影は歩道橋の下を食い入るように見ていた。歩道橋の下には二車線の車道があるだけだ。私はその人の様子に一抹の不安を抱いていた。私は自転車でその歩道橋に向かった。歩道橋に着くと私は自身の不安が的中していたことに気づく。彼女は歩道橋の上から身を乗り出していた。今にも落ちそうだ。「おい。あんた、バカなことはよせよ。」私は間一髪で落ちていく彼女の右手をつかむことができた。「放して。やっと彼を見つけられたの。」彼女は私の方をじっと見て懇願する。「何言ってるんだ?」「だから!放してよ。彼がどこかへ行ってしまう前に。ねぇ」私は彼女を持ち前の力で引き上げた。「馬鹿野郎!彼とかなんとか知らねえが、死んじゃあ、”お終い”だろうが!」彼女はその場で今にも泣きだしそうな顔をしている。ひとまず私は彼女を近くの交番で保護することにした。

「主任。お疲れ様です。確か今日は非番だったのでは?」「ああ、非番だったんだがな。」彼女は交番の椅子にもたれかかっている、顔面蒼白で。私は彼に事情を話す。「確かにこのままっていうわけにもいかないですね。」彼は彼女に話しかける。「お嬢さん。お名前は?」「よみ。」彼に促されて彼女は話し始めた。「歩道橋の下の公園で彼が座っていた。あの姿のままで。そう私が探していた姿のままで。」あの歩道橋の下には二車線道路があるだけだ。公園なんてない。「彼は追いかけても追いつけないの。常に彼は私と一定の距離を取るの。それがもどかしくて仕方がないの。」彼女の言葉は聞いていると心が不安定になっていく。そんな気がした。「私はついにその距離を…確かに私はその距離を…どうしてよ。どうして邪魔したの?」彼女は泣いている。彼は彼女を宥める。「彼って?」彼は彼女に訊ねた。「港。」私は彼女の言葉を聞いてかつての友達を思い出していた。いつの間にか消えていた彼。なんで彼を思い出したのだろう。彼女の言葉を聞くまでは彼のことをあんなにも忘れてたっていうのに。そんなことを考えているとポケットに入っていた携帯が鳴りだす。「非通知」私は外に出てその電話に出る。「もしもし?」「もしもし。久しぶり蒼汰。元気だったかい。」この声は港だ。間違えるはずがない。さっき思い出したばかりに戸惑ってしまった。「もしもし。えっと、港だよな。ほんとに久しぶりだな。高校以来だっけか。」突然、疎遠になっていた元友達からの連絡。港を探している自殺未遂の女と出会ったこのタイミングを狙ったかのような連絡に私の警察としての勘が警鐘を鳴らしていた。「実は本当のことを話そうと思って連絡したんだ。お前は最後まで私を信じてくれたしね。もうたぶん前みたいな関係には戻れないと思うけどもう逃げたくない。そう思えたんだ。」彼は急にそう切り出した。「本当のこと?」「そう。本当のこと。伝えなければならないこと。今からあのラーメン屋で会って話さないかい?もちろん奢るさ。」彼の提案はとても性急だ。「さすがに今からは…」「申し訳ないけど私と会って話せるのは今しかないと思う。もちろん虫のいい話だというのは百も承知だけどね。」確かに彼には聞いてみたいことがあった。それに私は彼の言う「本当のこと」が気になった。そして彼の声色からこれが彼と話す最後のチャンスなんだということが伝わった。私は彼の提案に乗った。「わかった。ラーメン屋「聖杯」だな。今から30分後、13時でいいか?」「13時ね。わかった。合わせるね。じゃあ13時に「聖杯」前で。」私は切れた携帯を眺める。疎遠だった奴が急に電話かけてきて待ち合わせを取り付けるそんな白昼夢を見たような内容に頭が痛くなった。私は交番の中に戻る。そこで彼に少し用ができたと伝える。彼女の対応を彼に丸投げしてしまうことに罪悪感を抱きながら私はラーメン屋に向かった。

 ~~~~~~~~~

 俺(久留智海)はため息をついていた。急に来た上司に面倒を押し付けられたから。しかし、ここで彼女の様子がおかしいことに気づいた。「よみさん。どうしたんですか。」彼女は小刻みに震えている。彼女の顔はより一層白くなる。唇が青くなる。「見つかったの。このままじゃあみんな”お終い”よ。」「見つかった?」「そう、見つかっちゃダメなのよ。見つかる前に開放する必要があったの。」彼女の声は恐怖に呑まれていた。その恐れが私の心を巻き込んでいく。「何に見つかったんです?」彼女は黙ってそれには答えない。彼女は切羽詰まった表情で言った。「急いで彼を追うのよ。さもないと手遅れになるわ。」「そんな、大丈夫ですよ。主任はすぐ戻りますって。」そう言った私に彼女は銃を突きつける。「どうして、そんなものを..」そもそもさっきまで彼女はこんな物騒な物を持っていなかったし、そんなものを持つことのできる余地も彼女にはなかった。「はやく彼を追って、私を連れて。手遅れになる前にはやく。」どうやら何か大変なことに巻き込まれてしまったようだ。私は車に乗って主任の乗ったタクシーを追う。頭上には日輪が輝いていた。

 続く

読んでくださってありがとうございます。

次回 第十一章 脱獄編 第五話

 お楽しみに

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