第十一章 脱獄編 第4話
フフフ。私は笑っていた。哀れな人間を圧倒的なパワーで蹂躙するのは気持ちいいから。「ああ。我が剣よ。この迷える子羊に死という運命をその炎をもって刻め。」そう唱えながらその剣を振り下ろす。そいつはその攻撃に巻き込まれ消し炭になった。「あ~あ。もう終わっちゃった。」私はそこに残った消し炭を一瞥した。そして、礼拝堂に来ている信者の様子でも見に行こうとサンクチュアリから出ようとした。しかし後ろで物音がする。振り返るとそこには悪魔がいた。
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頭の中で声がする。それは知らない声。「本当にこれが終わり?私たちには運命しかないの?」「誰?」「そんなことを考えているつもり?あんたはこれでいいの?なんのためにここに来たの。」そいつの言葉は左耳から入ってくる。「私は港を開放するためにここに来た。そして手がかりも手に入れた。これでいいわけない。」「じゃあ契約してよ。対価は記憶。」「なんの?」「港」「だめ。それは私の生きる意味が…」「あなたに選択できるほどの余地があるの?あなたのしていたことは今までだって余計なことだったじゃない。」「黙って」「あなたは自分で勝手に考えた港のためになると思ったことをしている自分が好きなだけなんでしょう。」「黙ってよ」「今まで港とちゃんと話したことあった?あんたなんて彼にとっては取るに足らないの。そんなことはもうわかっているはずでしょう。」「お願い」「まぁ、今死ねば彼の役には立てるんじゃないかしら。」その声はせせら笑っていた。私は心にふつふつとした殺意が沸き上がってくるのを感じた。その殺意は私の体を引き裂く黒い渦の形を成す。「黙れ。私は彼の相棒で唯一の同胞。彼のために私はすべてを捧げてきたの。そう港は私のすべて。彼に私が必要なように私には彼がいるの。私は彼を見つけないといけない。そして開放するの。そうすれば…」「そうすれば?」「きっとすべてがうまくいくだろうから。」私は持っていたダガーで左耳を切り落とした。
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剣のこすれる音がする。私は持ち前の勘の良さと反射神経で間一髪でその攻撃を受けた。そいつはさっきと様相が別人かと思うほど変わっていた。彼女の瞳にはそこの見えない深淵が広がっていた。私は今一度祝詞を唱えて剣を覚醒させようとした。しかし私の祝詞は彼女の瞳に渦となって吸い込まれていった。彼女の手にはいつの間にかダガーが握られていた。「私は土井。今日、お前はこのダガーでもって堕とす。」彼女の言葉は地面の底から響いてくるようだった。彼女の周りから黒い渦が湧き上がる。それは空間をずたずたに引き裂きながら覆いつくす。私はこれを見たことがあった。「嘘よ。この闇、そしてこの渦。忘れるはずがないわ。どうしてこんな人間が…」私は世界の終わりを思い出していた。時間と空間が崩壊しすべてが無に収束する。かつての災禍<ブラック・タイム>を…
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「始まったな」Kは笑う。「なんだよこれ。そんな」俺の顔は青ざめている。「お前もやっと思い出せたようだな、宇津野。私の言うとおりになっただろ。」弐趾原の顔には張り付けた笑顔があった。「黙れ。またあの災禍を繰り返すつもりか。弐趾原。」「違う。これは終わりの始まり。半端だった運命の歯車が動き出しただけだ。」彼は悪びれずに言った。「運命?お前はなにを言っているんだ。」「あの災禍はトランス能力者にとっては希望に見えたはずだ。お前もトランス能力者の力の源流が何なのかわかるだろ。私がやらなくても遅かれ速かれ誰かがやったさ。」彼は目の前で起きている事象を指で指し示す。「黙れ。お前はこの災禍を運命という言葉を使って言い訳しているだけだ。」その言葉を聞いた彼は心の底から悲しそうに言った。「なんだ。また言うのかい?こんなことになるなら前もって相談してくれって。無駄なんだよ。私たちは生きているだけでしょうがないんだ。俺はお前がここに来た時点で諦めたよ。だからお前にこれを見せて言い訳したいと思ったんだ。そしたらお前も諦めてくれると思ったから。お前のことは良く知っているし、私は今でもお前のことを友達だと思っているからこうして会って話せばわかってくれると思ったんだ。」彼の顔は真顔になった。彼は言った。「でももうダメみたいだね。俺はどうやらお前のことも諦めなければならないみたいだ。」彼はいつの間にか剣と秤を持っていた。彼の秤が左右に触れる。空間がうねり彼を中心に渦をなす。その渦は感情を伴って俺の心に流れ込んできた。それは達観、または諦め。そしてそれを上回るほどの殺意。「お前はただ諦めて死ね。」そう言った彼の顔は笑っていた。俺は自身のトランス能力「セクト」の権能で身体全体を覆いつくし戦闘態勢をとる。かの災禍の記憶と生き残った同胞の決意を胸に抱いて。
続く
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次回 タイム・スパイラル 第十章 暗黒の刻
お楽しみに。




