第十一章 脱獄編 第三話
私は教会の門の前に来ていた。教会の外から感じる妙に明るいミステリアスな雰囲気と空気の張りつめた緊張が調和を取って私に襲い掛かり私は少し足がすくんだ。しかし私はこんな場所で立ち止まっているわけにはいかない。港。彼を助けなければならないから。
私が教会の門を開けると礼拝堂に続く回廊が飛び込んできた。等間隔に並んだ柱はとても神秘的だった。柱の間にはステンドグラスがありそこから光が入射していた。私は一瞬ここが監獄の内部だということを忘れてしまった。すると礼拝堂の扉から囚人が一人出てきた。「おや?あなた見ない顔ですな。」そいつは人相の悪い男だった。そいつは私を疑り深く見ている。「ええ。私ここには初めて祈りに来たのよ。今まで神なんて信じてなかったけど勧められて。」するとそいつは大きく叫んで言った。「フフフ。いいです。いいですよ。あなたもこの教会で救われるでしょう。今まで犯した過ちも、これから犯す過ちもすべて。そう私のように。ふっひひひ!」彼は笑っていた。私はそいつを無視して礼拝堂の中に入った。
教会内部。そこにはまぶしいくらいの光が降り注ぎ厳かな空気で満ち満ちていた。私はこの空気に当てられた。中央の廊下を軸にしてシンメトリーに配置された椅子の上で囚人は祈りながら何かを唱えている。何だろうと思っているとどこからか声がした。「バカ。その言葉に耳を貸すな。それは祝詞だ。」その声はもらったアミュレットからする。「何これ。このお守りトランシーバーだったの?」「なんだ意外と驚かないんだな。もっといいリアクション頼むぜ。」彼が調子よく笑っている姿が目に浮かぶ。「ふざけないで。スレイブ。大事なことは前もって言っといてくれないと。」「なんだ。心細かったのか?」「そういうわけじゃないけどあらかじめ知っているかどうかが大事な場面もあると…」「まあまあ。ひとまず話は後だ。状況を報告しろ。」
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「教会内は私のほかに3人いるわ。」俺は訊ねる。「聖女はいるか。」「礼拝所には見当たらないわ。」彼女の言葉を聞いて俺は指示を飛ばす。「預御、お前には幸運の女神でもいるんじゃないか?たぶん聖女は礼拝堂の奥のサンクチュアリにいる。かつてKが見つけた階段は礼拝堂の中央の廊下のカーペットの下にある。聖女がいない今のうちにその階段に入れ。」「この三人の信者はどうするの。」「そいつらは祈っている間ならほかのことに無頓着になる。どうせ無視されるさ。ただ彼らが唱えている祝詞はあまり聞くな。それを唱えると聖女の奴隷の出来上がりだ。そしてこの祝詞を聞いているだけでも段階的に操られれてしまうだろう。ただこの祝詞は左耳から右耳に入って出ていくという特徴がある。このアミュレットを左耳につけろ。信者の祝詞くらいならフィルタリングできるさ。」「わかった。階段にはいったら連絡する。」「了解。俺も食堂でやり残したことがもうすぐ終わりそうだ。終わり次第そっちに行く。」そういって俺は目の前の男と向き直った。「これでいいんだな。K」目の前にはかつての脱獄王Kが薄ら笑いを浮かべている。
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私はアミュレットを左耳に括り付ける。頭に響く言葉が消えた。私は周りを見渡して全員祈っているのを確認してカーペットを引っぺがした。そこには絵にかいた通りの階段があった。私はその階段を下り始める。階段の中は真っ暗だが階段の先は明るかった。階段を下り終えるとそこには大広間が広がっていた。中央には礼拝堂の廊下の奥に鎮座してあった赤い剣と同じものが置いてあった。「ようこそ~♪サンクチュアリ~へ。」そこには白いローブを纏う女がいた。「フフフ。私はこの監獄の教戒士にして原初の神の使者の一人”天使”。」彼女はいつの間にか広間の中央の剣を引き抜いていた。すると剣の刃の赤い宝石が燃え上がった。そしてそれは焔の状態で剣を形作る。その剣の熱が空間を覆いつくしうねり、彼女を中心に渦をなす。その渦は感情を伴って私の心に流れ込んできた。それは歓喜、または慈悲。そしてそれを覆いつくす殺意。気づくと私の耳にかけていたアミュレットは砕け散っていた。彼女はおもむろに剣を振る。私は何とかよけたがこの攻撃で階段が音を立てて崩れた。私の心が絶望に染まる。私は地面に膝をついてしまった。「え~。もう終わり?これからもっと面白くなると思っていたのに。」彼女は剣の焔を巨大にした。大きくなった剣からすべてを燃やし尽くそうとする炎が渦の様に襲い掛かる。私が最後に見たのはその炎を見て笑う聖女の姿だった。
続く
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