第十一章 脱獄編 第一話
逃げていた。俺は誰かから。そして、降り積もる雪に足を取られ転んでしまった。そいつの手にはダガーが握られていた。そいつは笑いながら何かを叫んでいた。逃げることに必死だった俺はいつもこの言葉が何なのかわからない。気づけば周りを大きな壁で囲まれた行き止まりにいた。そしてそいつは俺の前に現れた。「お前死んだはずじゃ」「残念だったな。あの言葉はある意味本当で、ある意味嘘だったんだよ。」そうしてそいつは俺にその持っていたナイフを刺した。
俺はいつもこの夢の中で死んで目覚める。夢で俺を殺した奴の顔は目覚めると確かに夢の中では思い出していたはずなのに忘れてしまう。ため息をついた俺はベットから起きて顔を洗う。外は雪が降っていた。俺は朝ご飯を食べに食堂に向かう。
ここは刑務所「Sand Prison」。3000人程度の囚人がこの壁の内側で生活している。ルールに縛られて。この刑務所の特徴として看守がいないことが挙げられるだろう。俺が今までパブリックイメージとして持っていた刑務所の中で見回りをしたりする刑務官の存在がこの刑務所内では通じなかった。代わりに完全自立型のロボットが刑務官のかわりに就寝後の廊下や立ち入り禁止の場所を巡回している。そいつらは変な銃を持っていた。この刑務所に入ってきた新入りがよくこのロボットに反抗する。するとそのロボットたちはためらいなく引き金を引く。そしてこの銃の餌食になった奴が生き残ったのを俺は見たことがなかった。次に、この人の気が感じられない監獄で唯一看守サイドの人間がいた。そいつは聖女と呼ばれている女だ。この刑務所の独房がある建物の中心には教会がある。そこには赤い宝石でできた大きな刀身の刀が鎮座していた。そしてそこにそいつはいた。彼女は洗礼と称して教会に来た囚人と話す。彼女と話した囚人は人が変わったように暴れなくなった。それどころか聖女の信奉者のようになり聖女と話したことのない囚人を教会に連れ込むようになった。俺は彼らを聖女の奴隷と呼び蔑んでいた。そしてこの監獄そのものに対してもおかしな点があった。まずこの監獄は独房がある大きい建物が中心にあり、その周りを大きな塀で囲まれている。そして塀と建物の間には結構な距離があり(50メートルくらい)地面でつながっている。しかし俺たちが行けるのは中心の建物から十メートルくらいでそれ以上行くと問答無用で殺される。そしてその塀には入口らしいものが見当たらなかった。じゃあ囚人はどうやって入ってきているのかというと、空になった独房が気づけば埋まっているケースがほとんどだ。そして誰もどうやって入ってきたのかわからない。入ってくる奴も出ていった奴も見た者はいない。
俺はこの刑務所に入るまでの記憶がなくなっていた。俺は番号0008と呼ばれ気づいたときにはこの俺の部屋として割り当てられていた独房で機械的に過ごしていた。ある日、俺の隣の独房の住人が狂った。「お前たちなんなんだ。ここはどこなんだ。なんでその銃を持っているんだ。」彼の言葉は自問自答のようにも感じられた。私は彼の声を聴いたことで今俺がおかれている状況の異常さに気づくことができた。俺の記憶の欠落にも、この監獄の異常さにも。ロボットは冷徹に言った。「レーベルパターン1検知。」機械音声がそう言ったのを最後に絶え間ない銃声が俺の耳に入ってきた。隣の独房は空になった。誰もいなくなった独房を前にして俺は誓った。「俺は記憶を取り戻してこの監獄から自由になってやる。」
手始めにこの監獄を脱獄するための仲間を集めることにした。俺は食堂でご飯を食べながら他のご飯を食べている囚人を一人一人見ていた。俺は彼らの瞳を見ていた。彼らの瞳を見ることである程度どんな人間なのか把握する術をこの監獄で過ごす中で俺は身につけていた。彼らの瞳は大体が灰色だ。灰色の瞳を持っている奴は機械的に生きている人形同然の奴らだ。俺が仲間にしたいのはそういう奴らじゃない。見渡すと灰色の瞳にくすんだ青色が入っている瞳を持つ囚人がいた。この瞳を持っている奴らは聖女の奴隷だ。もっと論外だ。今日も仲間にできそうなやつはいないな。そう思って自身の独房に帰ろうと席を立つ。ここで一人の囚人と目が合った。彼女の瞳には光のない漆黒が広がっており、私はその瞳に引き込まれる感覚に陥った。俺は思わず笑ってしまった。見つけた。この瞳を持っている奴を俺は探していたんだ。この瞳を持つ奴は大体が人を殺している。しかし単なる人殺しではこんな瞳の色にはならない。普通は人を殺すと黒く濁った瞳になる。なぜなら、人を殺すとそれに対する罪悪感はもちろん、人を殺すときに必要になる覚悟が、殺した後からはずっと必要になってしまうからだ。黒く濁った瞳を持つものはこの罪悪感に従い、必要になる覚悟をし続ける勇気のなかった奴らだ。そしてそういう奴らはだんだん瞳が灰色になっていく。しかし、漆黒の瞳を持つものは自身の行為をこしらえた自前の正義で正当化することで罪悪感を否定し、殺した後の覚悟をし続けることを自身の正義を証明するかのように楽しんでいる。そういう奴らだ。俺は目の前にいる彼女に話しかけた。「なあ。あんたこんなのに興味ないか?」
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私は目の前の男に急に話しかけられてとまどっていた。彼は私に何かを渡してきた。それは何かの設計図だった。「これって…」彼はいたずらな笑顔を浮かべて食堂から去っていった。私は誰にも見られないように自身の独房に帰ってその設計図を広げる。それはあのロボットが持っている銃の設計図だった。これと材料さえあれば簡単に銃が作れる。そう思えるほどの高クオリティだった。これさえあれば脱獄だって.…そう思った私は彼に会って話してみたいと思っていた。私はこの監獄から出なければならない。港。彼のためにも。
続く
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