赤キ少女ハ現実ヲ見ル
竹刀を持つ。目の前には模擬人形。呼吸を整え、振りかぶる。壊れなかった。亦、やり直し。
何回も、何回も、何回も。
この模擬人形が、壊れるまで。壊れたら審査、通ったらようやくこの部屋から出られる。
RED一年生に襲いかかる最初の、試練。
私──鏡楓はこの現状に目を瞑りそうになった。
入学式当日だってそうだ。
「鏡楓です!お願いします!」
RED寮は同学年数人ずつによる同部屋制度を取り入れている。同じ部屋だから仲を深めようと思っていつもみたいに大きく笑顔で挨拶をした。ちょっとで良いから仲良くしたかっただけだったの。
でも、返ってきたのは返事の代わりに道端に落ちてるぐちゃぐちゃになったゴミを見るような感情の籠らない、冷たい目だった。
「アンタ、舐められたく無かったらそんな真似やめたらどう?」
「そうそう。この時点でもう戦いは始まってるんだからさ。」
各自の片付けをしながら口々にそんなことを云う。REDが苦しいなんて知ってた、絶対にそうだと思ってた。お兄ちゃんはBLUEにいるし飛鳥くんもいる、正直魅力的だったけど。私はREDに行きたかったんだ。
「知ってる?幹部が三人と隊長一人。それがここの最高権力者なの。全員今年三年生のはずだったんだけど」
「早速一年生がとある三年生に勝って、幹部の座についてるんだってさ。」
「三年生が一年生に頭を下げる、何て話も珍しくないらしいよ」
「ほんとにやばいよね~」
「だから仲良くする暇あれば努力すれば?」
と嘲笑混じりに云われてしまった。
「うん、そうだよね、ごめんね。」
笑ってみたけど、多分笑えてなかった。頬がひきつっているのが自分でも分かった。私、ちょっと甘くみてたみたいで。私だけ、馴染めてないみたいで。空が雲一つない透き通る様な綺麗な青であることを、今だけは憎んでしまった。部屋は影で薄暗くて居心地が悪かった。
今日飛鳥くんに会ったとき、申し訳ない態度を取ってしまったな。自分から質問しておいて逃げてしまうなんて。
あの時ばったり会ったわけじゃなくて、たまたま私が飛鳥くん達を見かけて後ろからこっそり覗いてた。そしたら綾目くん、だっけ?がこっちを見てきたからバレたかと思って不意に声をかけてしまったんだよね。
覗き見してたときに飛鳥くんと綾目くんが普通の男子高校生みたいに下らない様な会話を楽しんでいたのを見て。ほんの少し嫉妬しちゃったのと同時にちょっと胸の辺りが何かズキズキと痛む気がしてたんだ。
下らないって、そんなことなら最初からBLUEを選んでおけばよかったじゃないかって、そんなこと自分が一番思ってる。
でも私、変わりたかったの。
今まではお兄ちゃんに守られてばっかりだったから、今度は私の番。ってしたいの。
だから手が血だらけになろうと、体がぼろぼろになろうと、私が強くなって自分の正義を守るまで私は剣を握るの。
そうして、時間いっぱい取り敢えず模擬人形を壊すために、精一杯の努力を。
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「失礼、只今帰還した。」
「え~遅いよ。“あの子”の作戦別に難しくなかったのに。」
「そうだが。」
「それに顔!怪我してる、」
「近寄んないでね、穢らわしいし。」
「嗚呼、分かっている。」
「そ、だったらさっさと消えて!」
RED中央管理室にて。水無瀬は戦闘後にここに通った。これが指示に入っていたかと云われれば否だが。
先に部屋でコンピュータを操作していたのはREDの幹部であろう人で、顔に赤色でハート型のタトゥーシールのようなものを貼っている女の子だった。見た目はとても万人受けするようなかわいいものだが、口は見た目に合わず、中々の毒舌であった。
「今年の一年生の様子はどうだ。」
なお、それを気にせずに話を進めようとするのが水無瀬である。少女は無視しようと考えていたが、水無瀬の冷たい視線に早々に折れた。
「だめね、全然。見込み0!」
「そうか、すまない。感謝する」
「当然でしょ。ほら会議まで手当て終わらせておいてよね。私一旦部屋に帰るから。」
「承知した。」
少女が出ていった数分後に水無瀬も外へ出ていった。
部屋にはただ一年生の練習の様子が流れているデスクトップが写っているだけで、静寂のみが存在していた。




