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第二十一話「交際宣言」

※アンナ視点

「恋人って……アンナがたまに話してる、民たちの交流のことだよね?」

 アンリにとって、そして前世の私にとっては、実際には見たことのない…けれども、民たちはそうして愛を育んで結婚に至るのだと話に聞いていた。

 それを初めて知ったとき、憧れに胸が躍ったのをよく覚えている。

 出自や身分に関係なく、そんなふうに生きられたらどんなに素晴らしいだろうかーー夢だった。


「それを……僕たちが、やるの……?」

 王族の感覚からすると、とんでもないことだ。

 しきたりを破り、民と同じようなことをすることなんて、はしたないと(たしな)められるかもしれない。

「そう!やるの!」

 勢いで押してみたが、アンリは思案顔を見せた。

「その恋人になるということが、どうして僕を守ることに繋がるのかな」

 やはり、私がやりたいと言うだけでは通らないか。

 前例にないことをやるには、明確な理由が必要だ。アンリはそこを知りたがっている。

 私たちが恋人になることが、どんな良い影響をもたらすのかを。


「あのね。恋人になったら、お互いに好きっていうことがわかるでしょ?」

「そ、そうだね…?」

 アンリがほんの少しはにかんだ。

「お互いに恋人だねってわかり合うだけじゃなくて、周りの人たちにも恋人同士であることを知らしめてしまえば

 “ああ、あのふたりの仲を裂くようなことをするのは無粋だな”って思ってもらえるの!」

「それは婚約とどう違うの?」

「婚約は、私たちの承認だけじゃなくて、親族の同意も必要でしょう?恋人っていうのは、その前段階の状態のことなのよ!親族の同意もいらないの!」

「なるほど…。つまり、僕が15歳になって正式に婚約者になるまでの肩書きのようなものなんだね?」

「そうっ!あなたが私という王女の恋人だってわかってもらえたら、あなたのことを軽んじる人も少なくなるんじゃないかなって思うの!」

 王女という地位と権力を使う作戦である。

 使えるものは使わないとね!

「まあ…、そんなに人の心は単純じゃないから、僕への扱いが変わるかどうかはわからないけれど……」

 微笑んではいるけれど、あまり期待はしていないような表情に見える。

 きっとアンリはこうやって、いろんなことを我慢したり、諦めてきたのだろう。

 こうして人生をやり直さないと気づけないなんて、よほど私は鈍感だったらしい。

「そうと決まれば!行くわよ!!」

「えっ、え?行くって、どこへ?」

 私はベッドから勢いよく飛び降り、アンリの手を引いて早足で部屋を出た。





 ーーーーーーーー





 大股でずんずん進んでたどり着いたのは、母上の執務室の前だ。

 実の母であり、国を統べる女王陛下でもある。

 やさしさと厳しさのどちらをも兼ね備え、自国のみならず他国からも名君と呼ばれている。そんな人の、部屋の前に来ている。

 アンリが止めようとするのをあえて無視して、扉をノックし、自分の名前を名乗った。

「入れ」

 深く、威厳のある、けれども女性らしい柔らかさのある声がした。


「女王陛下にご挨拶申し上げます」

 私は礼を()った。アンリもそれに(なら)う。

 私が「母上」と話しかければ、それはプライベートの会話になり、「女王陛下」と話しかければそれは公務になる。

 逆もしかりで、母上から「アンナ」と呼ばれたらそれは母娘として、「王女よ」と呼ばれたらそれはやはり立場を理解して応じなくてはならない。

 つまり、今から私が持ちかける話は、公務に関わる事柄になるのだ。

「女王陛下に、ご報告したい旨がございます」

 社畜経験者として、上司への報連相をするときの基本。

 話しかけた理由が、報告なのか連絡なのか相談なのか、一番最初に明確に伝える。

「申せ」

 相変わらず、お忙しい身の上だ。……私も、後を継いだからよくわかる。

 大丈夫です!お時間は取らせません!手短に申し上げます。


「この度、私アンナと、ここにいるアンリは、恋人になりましたことをここにご報告いたします。

 また、アンリの15歳の誕生日には正式に婚約いたしますことも、併せてご報告いたします」


 女王陛下が目を走らせていた書簡が、音を立てて机の上に落ちた。


 時が、止まった。





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