表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/28

第十二話「前世の世界で見る夢は Ⅴ」

※アンリ視点

 朝陽が闇を照らしはじめた頃に、城を出た。

 駿馬(しゅんば)を駆って、二日と二晩。その二晩目に、ようやく国境の戦闘地域まで辿り着いた。

 戦闘地域というより、略奪された地域という方が適切かもしれない。

 アンナを慰めたくて救えるものは救うと言ったものの、村に残った民たちの生存は、おそらく絶望的だろう。

 此度の戦闘を仕掛けた、かつての敗戦国ーー我が故国の民たちには、好戦的な者も多いと聞く。敵陣の規模がわからないまま、闇雲に戦うのは賢明ではない。


 自陣を設営し、近衛たちに指示を出した。

「敵陣の規模を見て来る。他の者は、ここで待つように」

「殿下…!偵察ならば私共にお任せになって、殿下は後方でお待ちください!」

「この中で一番剣の腕が立つのは誰だ?」

「……殿下をおいて、他におりません」

「月が十五度傾いても戻らなければ、むやみに探さず全騎即座に撤退し、女王陛下に報告せよ」

「御意…」




 一人静かに黒衣を纏い、闇に紛れる。難なく敵陣の側まで近づくことができた。

 そこまで人数は多くないようだ。この村の民が高齢かつ独り者が多かったため、他地域に兵を割いた隙を突かれたのだろう。

 どうやら、村の長が住んでいた家屋を根城にしているらしい。わかりやすく見張りが多い。

 他の家は、瓦礫が折り重なった、ただの物体になっていた。

 ……アンナに、この報せを届けなければならないことが心苦しい。人々の不幸を聞くたびに涙を湛える彼女に、なにかひとつでも良い報せをできないものか。

 そう思った瞬間、

「誰だ!?」

 気取られたか。

 だが、敵はこちらの位置までは把握できていないようだ。

 相手は一人、こちらも一人。仲間を呼ばれる前に、素早く出ていって静かに息の根を止めた。

 これ以上長居はできない。おおよその規模は掴めたことだし、自陣に一時撤退しよう。

 ふと、敵の顔を月が照らした。

 見覚えがあった。たしか、故国で………。


「お〜い!いつまで厠にいるんだ〜!俺も使うんだか…って、お前……!」

「………!?そんな、まさか……叔父上………?」


 我が一族だけの、瞳の色。黒衣に身を包んでいたが、目だけは隠せなかった。

 互いに、互いの目を見て、確信してしまった。


「お前、俺の護衛やっちゃったのかあ~。お前もチビの頃に会ってるだろ?結構こいつ優秀だったのに」

「叔父上……」

「立派になったな。来い、話そう」

「………」

「心配するな。再会できた甥っ子に、危害を加えるような鬼じゃねえよ」




「なるほどなあ。それで単身、乗り込んで来たってわけか」

「……偵察だけの予定でした」

「戦場だからな。想定外の事が起こるのは常ってもんだ」

 酒を注がれ、躊躇していると叔父上が毒味をしてやると(あお)った。断る理由がなくなってしまったので、少し口をつけた。

「あんなにチビだったのに、こうやって酒を酌み交わせるようになるとはな。正直、()の国でいつお前が殺されるんじゃないかと気が気じゃなかったよ」

 事実、王家から家族同然に可愛がられる自分のことを、どうにか始末できないかという動きはしばしば見受けられた。王家を信奉する派閥から見れば、自分の存在はさぞや目障りだったことだろう。

 そのおかげもあって、剣の腕は上達したのだが。アンナに気づかれないように動くのは、苦労したものだった。


「話っていうのはな。思い出話をしたかったわけじゃないんだ。単刀直入に言おう。……お前、こちら側につく気はないか?」

「叔父上…。一体、なにを…」

「彼の国でお前が王配の座におさまっていることは知っている。だからこそ、これはこれまでにない好機なのだ」

「聞きたくありません」

「我らに(くみ)する国も増えた。少しずつ紛争を起こし、徐々に国力を衰えさせていこうとしていてな。今のところ上手くいっている」

「それ以上は」

「そこでだ。お前にも役割をやろう。大事な役割だ」

「おやめください」

「内側から瓦解させるのだ。女王を手玉にとれ。所詮は女だ、支配できればこっちのものよ」


 耐えきれず、剣の鞘に手を伸ばそうとした、そのときだった。

「敵襲ーっ!!」

 何人かが家の中になだれ込む。伸ばしかけた手で素早く剣を抜き、向かってきた敵に応戦した。


 だがそれは、我が国の

 ーー自陣に待機させてきたはずの、優秀な近衛たちだった。


「お前たち!血迷ったか!?」

「殿下…っ!いいえ、あなたのことはもう殿下とお呼びできないかもしれません…!」

「なんだと…!?」

「まさか…まさか本当に…!殿下が敵と通じ、このような(はかりごと)をめぐらすとは…!!信じておりましたのに!!」

「誤解だ!!それに…まさか本当に、とは!?」

 誰かから、まるでそのような疑惑があると事前に聞かされてでもいたかのような物言いだ。

 もしや……


「これはこれは、王配殿下」

「………オレグ宰相」

「女王陛下のご寵愛を一身に受けられている王配殿下ともあろう御方が、よもやこのような暴挙に出るとは…!このオレグ、想像だにしておりませんでした」

「謀ったな」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう。女王陛下は、さぞかしお嘆きになられるでしょうね」

「貴様……!」

「さて。このようなところで問答をしている場合ではありませんね。このオレグが敵陣を殲滅させたことと、叛逆者を捕らえたことをご報告せねばなりません」

 辺りは、血の海だった。


「ああ、失礼。叛逆者となっても、称号はまだ剥奪されておりませんでしたね。それでは参りましょうか?王配殿下」


 オレグに促され、剣を手渡した。

 城を出たときと同じように、朝陽が闇を照らしはじめた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ