閑話「前世の世界で見る夢は〜戴冠式と結婚式〜 」
※アンナとアンリを聖堂で見ていた少年の視点となります
アレクサンドル国王陛下が崩御されたとの知らせがあってから三日後、国葬が執り行われた。
まさかあんなにも強く賢いと名高い国王様が、こんなにも早く天の国に帰られるとはな。
俺たちは誰も、仲間連中だけじゃなくきっと国民全員が思ってもみなかったことだっただろうよ。
国王陛下の葬儀が終わってから五十日後、新しい女王陛下のための絢爛豪華な戴冠式と結婚式が同時に執り行われた。
執り行われたというか、俺たちが作ったというか…、まあいい。
やんちゃが過ぎると親に叱られ、神学校にぶち込まれてからうんざりする毎日だった。お祈りの毎日だったが、このとき神学生は全員この戴冠式と結婚式の準備に駆り出された。
聖堂の隅々まで大掃除をし、特別な飾りつけもした。尋常じゃない量の蝋燭と花、聖堂の端から端まで覆いつくす敷布を運び込んで、腰がやられるかと思った。
こちとら万屋じゃないってのに。なんでもかんでも年少者にさせるもんじゃないぜ。
しかし式の当日、俺は初めて神学校に入学してよかったと思った。
新たな女王陛下と王配殿下の、なんと美しくあらせられることか………!
司祭様の後方にずらりと控えていた俺たちは、そのまばゆい輝きに釘付けになった。
絵画のなかの聖人たちが、そのまま出てきたかのようだった。
この俺が、思わずきっちり敬語になってしまうくらいなんだからな。本当に綺麗だったんだよ。
王冠を戴いた女王陛下は神々しく、しかしその首の細さは王冠の重さに耐えられるのだろうかといささか心配になったが、目の前をまっすぐ見据える力強さに圧倒された。
そんな女王陛下を見つめる王配殿下の眼差しはあたたかく、そしてどこか泣きそうな目をされていたのが印象的だった。
このふたりがな、まあ初々しいのなんのって。
女王陛下は王配殿下をこっそり見るときに、恋する乙女のようなお顔をなさっていて、王配殿下は女王陛下をこっそり見るときに、慈しむような愛おしむようなお顔をなさっていてな。
そんな調子で、互いに目線が交わるとふたり同時に顔を赤くするもんだから、見ていられなかったぜ。いやまあ、他に見るもんもなかったから、しっかり見てたけどよ。
互いを大切に思い、愛しているのだということが、俺にも伝わりすぎるくらいに伝わってきてな。このふたりの良さっていうか、このふたりのためになんか出来ねえかなって思ったんだ。
俺は神学校を辞めて、絵を描くことにした。
あのまばゆく輝くふたりの姿を、どうしても世に広めてみたい。形に残してみたい。そう思った。
もともと俺の絵は仲間にも評判だったが、木板に描いた瑞々しく美しい女王陛下と王配殿下の絵姿はあれよあれよという間に街中で評判になり、それを聞きつけたどこかのお偉いさんによって値がつけられた。俺が思っていたよりも物凄い高値で売れた。
それがまた良い噂になって、聖堂の壁に絵付けをすることになる。師匠と呼べる職人に出会い、丹精込めて描きあげた。
聖堂の絵をご覧になった女王陛下と王配殿下は、たいそうお喜びになったということ、そして絵付けた職人にも礼を伝えてほしいとのお言葉を賜った。
人生で一番楽しく、誇らしかった瞬間だった。
それから数年経った後、あんなに懸命に描いた絵は、俺たちの街と共にすべて戦禍に巻かれて灰燼に帰すことになる。
俺たちは誰も、仲間連中だけじゃなく、きっと国民全員が思ってもみなかったことだっただろうよ。




