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第一話「37歳、社畜」

 前世の記憶がある人間。


 テレビや都市伝説系の動画で時々流れてくる話。

 よくある作り話だと一笑に付されるのを、子どもの頃から37年、この目で何度も見てきた。


 だから私は、自分がそうであることを墓場まで持っていくと決めていた。


 ーーあの日、その前世に舞い戻ってしまうまではーー




 普通でありたい。平凡、凡庸、十人並み。

可もなく不可もなく、これといった特徴がなく平均的な人間として生き、取り立てて素晴らしい功績を残すこともなく、人様にご迷惑をおかけすることもなく、静かに一生を終える。これが私の、今世での…いや、今生での大いなる夢である。


 今世をわざわざ今生と言い換えたのには、わけがある。今世と言ってしまうと、なんだか“その前”が存在するように感じられはしないだろうか?

 そう、私にはずっと隠してきた秘密がある。今世の“その前”ーー前世の記憶があるのだ。


 どうやら前世の記憶というものが他の人にはないらしいと気がついたのは、小学生くらいだっただろうか。テレビから怖い話や不思議な話が流れてきて「え…?みんなは覚えてないの…?」と衝撃を受けた。どうやら私の中にある記憶は、世の中から見れば不思議な話として捉えられてしまうものだったらしい。

 世の中との違いを悟った私は、なるべく普通であることを意識して生活するようになった。前世の記憶があることを知られないよう、多数派のなかでもより一層平均的な普通の女の子を意識して生きることに注力した。


 普通であることに執着している、もっと大きな理由がある。それは、こうしてひた隠しにしてきた前世の自分自身の事情にある。

 前世の私は、絶世の美女だった。ああ、痛い人だと思われたくはないが、ただの事実だから致し方ない。

 形のいい卵型の輪郭にツヤのある肌、目尻はやや垂れ気味だが大きな目で、瞳はオリーブグリーン。鼻は主張しすぎずスッと通っており、紅を引かずとも薔薇の花びらの色をした唇。ブルネットの長い髪には、いつも光の輪が輝いていた。

 その容姿はたいそうな評判で、国内のみならず他国にも知られたことで戦争の火種にもなった一因であった。そう、特別であるということは、良いことばかりではないのである。むしろ苦労の方が多い気がする。

 もう目立ちたくない。特別だと思われたくない。

だから私は神様にお願いした。その容姿と私の魂が、死によって分かたれた後に。

「次に地上に生まれるときは、普通くらいの容姿の女の子で、普通の家庭に生まれ、普通の頭脳、普通の運動神経でお願いします」

 神様は聞き届けてくれて、無事に私は普通の女の子として生を受けた。前世との共通点は、やや垂れ目なところだけで、あとはすべて平均的な普通の日本人。最高だ…!!

 こうして私は普通の女の子としてすくすくと育ち、普通の独身社畜として今日(こんにち)に至るわけである。


 37歳、独身。自由だ。

 彼氏がいたことも人並みにあったけれど、結婚も子どもを産むことも、前世の感覚が残っている私にとってはどうしても“仕事”という感覚になってしまい、プロポーズされても丁重にお断りしてきた。

彼らには申し訳ないことをしたとは思っているけれど、自由に生きて、自由に死にたい。これは譲れない。日本では独身の女性も珍しくないことも、私には救いだった。

 ひとりで生きて死ぬために、時間外労働はボーナス!という精神で、老後のためにも喜んで社畜となり稼いでいる。


 そう、この時の私はランナーズハイの状態だったのかもしれない。稼ぎと比例して増える仕事にやり甲斐と喜びを感じていて、身体の疲労に気がつけなかった。

 湯船の中でうとうとしてしまったことにも、気がつけなかったのだ。




生まれて初めて、物語を書き始めてみました!

楽しいかもしれない…

よろしくお願いします!

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