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第一話 純潔のスミレ(前編)

 ――真理はかならずしも、井戸の底にあるわけじゃない。――

  エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』より(丸谷才一訳、中公文庫『ポー名作集』から引用)




【登場人物】

 剣宮一彩つるぎみや ひいろ…………大学生

 四ツ野翔よつの しょう…………大学生

 犬飼昴いぬかい すばる…………大学教授、考古学者


 谷野たにの…………翔の友人

 剣宮有六つるぎみや ありろく…………一彩の父親


 江城茉莉えじろ まり…………小前田の姪

 菅沼麗美すがぬま れみ…………使用人

 小前田範人おまえだ のりひと…………推理作家

 金子忠かねこ ただし…………小前田の担当編集者

 モグ…………茉莉の飼い猫




 剣宮一彩(つるぎみやひいろ)は嘘がつけない。

 なので、コーヒーの味を彼に聞けば、率直な感想を聞くことができる。……傷つく覚悟があるのなら。

 白い湯気の向こうで長い睫毛が微かに揺れる。マグカップを持った手がテーブルに置かれると、恐ろしいほど整った顔が現れた。キッチンから見た彼の肩から下は、うず高く積まれた古本に隠れている。

 「やっぱり美味しくないよ、翔くん」

 俺の同居人は念を押すように味の感想を繰り返した。その口調には一切の皮肉や悪意も込められていない。

 俺は自作の「コーヒー研究ノート」の最新のレシピに赤ペンで大きくバツをつけ、わざとらしく溜め息をついた。

 「これだと蒸し時間が短すぎだね。せっかくの豆が勿体ない」

 落ち込む俺に構わずに、一彩がダメ出しを続ける。この美少年と同居を始めて一ヶ月。コーヒーを淹れては辛辣な講評を喰らうのが、もはや日課となっている。

 「……そんなにこだわるなら、自分で淹れたらどうだよ?」俺が反論すると、一彩は「やれやれ」とばかりに首を振った。

 「分かってないね、翔くん。ぼくはあくまで、きみが淹れてくれたコーヒーが飲みたいんだよ」

 「俺はお前の助手かよ!」というツッコみが喉まで出かかったが、ぐっと堪える。コーヒー研究ノートを閉じ、一彩と客人が待つリビングのソファーに向かった。客人は大きな咳払いをした。

 「……あのなあ、俺はお前たちの夫婦喧嘩を聞くためにここに来たんじゃないぞ」

 髪をワシャワシャと掻きむしるこの人は、俺たちが通う大学の考古学研究者・犬飼昴(いぬかいすばる)教授だ。この2LDKを訪れた客人第一号でもある。

 「『夫婦喧嘩』って。冗談はやめてくださいよ」犬飼教授の冗談に一応訂正を入れると、横の一彩も頷いた。

 「そうですよ、犬飼教授。『夫婦』というのは、民法においては『婚姻届を提出した男女』と定義づけられています。もし仮に、翔くんとぼくが恋愛的な意味で愛し合う仲だったとしても、男と男である限り夫婦とは呼べません」

 一彩が細く長い足を組む。軽い冗談に百パーセントの真面目な返事を貰った犬飼教授は、再び髪を掻きむしって、バツの悪そうな顔をした。

 「そんなことァ分かってるよ。俺が言いたかったのは『お前たちは仲が良いな』ってことで……。ま、いいや。とにかく、本題に入らせてもらうぞ。お前たちに頼みがあるんだ」

 「頼み?」

 犬飼教授はごつごつした大きな手でマグカップを取り、顔に近付けた。淹れたてのコーヒーから、もうっと湯気が上がる。

 「ああ。明日、ある人の自宅に泊まりに行って欲しいんだ。最初は俺が呼ばれたんだが、当日にどうしても外せない予定が入ってしまってな。大きなお屋敷だぞ」

 「と、泊まりですか!」唐突な話に、思わず大きな声が出てしまう。

 隣の美少年は、眉間に深い皺を刻んだ。一彩は極度の出不精で人嫌いなので、当然の反応だ。

 「……その『ある人』って、どんな人なんですか?」

 「よくぞ聞いてくれた。推理作家の小前田範人(おまえだのりひと)氏だよ。一彩なら名前くらい聞いたことあるんじゃないか?」

 犬飼教授はリビングのあらゆる場所に積まれた大量の古本を眺めた。そのほとんどは推理小説。アガサ・クリスティやエラリー・クイーンなどの有名作家から、ネットで調べても詳細が得られないようなマニアックな作家のものまで、古今東西の作品がこの部屋には揃っている。

 一彩は大学から帰るとすぐに部屋に籠り、この家にある本を手当たり次第に読んでいる。そんな推理小説マニアの一彩だったが、犬飼教授が口にした「小前田範人」という名前は、彼を喜ばせるどころか、眉間の皺をより深くさせるだけだった。

 「……小前田範人ですか。もちろん知ってますし、読んだこともあります。ですが、彼の作品はとても好きになれません。正直、彼の自宅に行くというのは、あまりそそられない話ですね」一彩は首を振った。細い前髪が顔の前でサラサラと揺れる。

 「そう言うと思った。だが、コイツを見れば興味が湧くんじゃないか?」

 一彩が渋るのは織り込み済みだったらしく、犬飼教授がすぐさま二の矢を放つ。ベストの内ポケットから取り出された封筒が、テーブルの上を滑って俺たちの目の前に提示された。

 「それは殺害予告だ」

 「殺害予告?」

 安穏な暮らしの中では絶対耳にしない言葉に、一彩と俺は声を合わせて驚いた。

 真っ白の洋型封筒を手に取った一彩は、両面に何も書いていないことを確かめると、中から二つに折り畳まれた紙を取り出した。一彩がしなやかな手つきでそっと紙を開く。A5サイズほどの紙の中央には、明朝体でこう印刷されていた。

 ――8月4日未明 お前の命を奪いにいく――

 明後日の日付が記されたそれは、典型的な殺害予告だった。……「典型的」といっても、俺が映画やドラマ以外でこれを目にしたのは初めてだが。

 そして俺の視線は、紙の右下に描かれているイラストに吸い寄せられた。

 それは利き手と逆の手で描いたようなぐにゃぐにゃした線の、髑髏とも昆虫ともつかない絵だった。

 得体の知れない不気味さを感じて紙から目を逸らすと、その紙を持つ一彩の表情が意外な変化を遂げていたことに気づいた。口は真一文字に結ばれているが、眉間の皺は消え去り、グレーの瞳は大きく開かれ、燃えるように煌いている。美しさと妖しさが同居したその表情は、まるでギリシャ彫刻が魂を持ったみたいだった。

 「一週間前に館の郵便受けに入っていたらしい。小前田氏には、当日、用心のために泊まりに来てくれないか、と頼まれているんだ」二の矢が的中し、一彩の興味を湧かせることに成功した犬飼教授は、満足そうな顔で言った。

 「えっと……警察には言ってあるんですか?」手紙に釘付けになっている一彩に代わって、俺が質問する。

 「いや、届けてない。その小前田氏っていうのが大の警察嫌いの男でな」

 「警察嫌い?」

 「まあ、一彩なら知っているかもしれんが……小前田氏は極度の人嫌いで、偏屈な性格として有名でな。特に警察は癇に障るんだとよ」犬飼教授はまたワシャワシャと頭を搔いた。

 人嫌いの偏屈者……。まるで誰かさんみたいだ。一彩は俺の視線に気づいたが、きょとんと首を傾げ、すぐにまた手紙に向き直った。

 「とにかく頼んだわ。小前田氏には、先月の『緑川家殺人事件』を解決した大学生を代わりに寄越します、って言ってあるから」急に黙り込んだ俺を見かねて、犬飼教授が慌てて言葉を紡ぐ。

 ――緑川家殺人事件。一彩と俺が一緒に住むきっかけとなった連続殺人事件だ。一彩は、陰惨で複雑怪奇な事件の謎を見事に解決した。まるで、小説に出てくる名探偵のように。一彩が探偵だとしたら、俺はその助手だろう。変人の美少年探偵と、平々凡々な助手。ドラマだとしたら満点のキャスティングだ。

 「じゃ、よろしくな。明日の昼頃、ここに迎えの車が来てくれることになってるから」

 「そんな勝手に決められても……。なぁ、一彩?」

 俺に話を振られた美少年探偵は、手紙をテーブルに置いて矢庭に立ち上がった。

 「いや翔くん、ぜひ行かせて貰おうよ!」

 「…………え?」

 困惑する俺を余所に、一彩は目を輝かせている。

 「そうこなくっちゃな。じゃ、頼んだぞ」満面の笑みを浮かべた犬飼教授はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し、そそくさと部屋を出ていった。

 ……既に先方に話をつけているってことは、最初から押し付ける気満々だったんだな。「外せない予定が入った」というのも、本当かどうか怪しいもんだ。

 それにしても、一彩の反応は意外だった。出不精で人嫌いな一彩が前のめりになるとは。

 「どうかしたのかな、翔くん?」

 「…………いや、お前ってまるで、小説に出てくる名探偵みたいだな、って」

 「え?」

 「ほら、ホームズって普段は気まぐれだけど、事件が起こると目の色を変えて飛びつくだろ? だから、一彩も名探偵みたいだなって思ったんだよ。その殺害予告の手紙を見て、目の色を変えただろ」

 推理小説マニアの一彩なら、こう言われて喜ぶかと思った。しかし、一彩は不敵に笑って、意外な言葉を口にした。

 「やめてよ翔くん。ぼくは、名探偵が嫌いなんだ」




 翌日、俺たちはアパートのある眞深町(まぶかちょう)を出発し、森の中を一時間ほど車で揺られていた。

 「館まであと少しだよ」金子忠(かねこただし)という男が運転席から話しかける。彼はスフィンクス社という出版社に勤めている編集者で、小前田さんの担当なのだという。バックミラー越しに、度の強い彼の眼鏡が光った。

 悪路のせいで時折大きく弾む後部座席で、俺は隣に座る一彩を見た。一彩は頬杖をついて、窓の外の緑を眺めている。

 (――名探偵が嫌いなんだ)

 昨日の一彩の言葉を思い出す。一日中推理小説を読み耽っている男が、名探偵が嫌いな訳がない。きっと、大好きなホームズと一緒にされたんで、照れ隠しのつもりだったんだろう。

 木漏れ日に照らされる美少年の顔に見惚れていると、車が唐突に森を抜けた。そこはまるで、森に隕石が落ちて出来たかのような、ポッカリとした空間だった。隕石落下の中心部には大きな洋館が建っていて、その周りは高い鉄柵で囲まれている。館は二階建て。赤茶色のレンガで出来ていて、外壁の所々が深い緑色をしているが、よく見るとそれは蔦だと分かった。一階も二階も、二メートルはありそうな縦長の窓が行儀よく並んで嵌め込まれている。とても立派で荘厳な館だが……。どこか違和感がある。

 金子さんは古びた館に不釣り合いな現代的な門の前で停車すると、車から降りて、インターホンの下にカードキーをタッチした。すると、けたたましい音と共に鉄の門扉が左右にスライドして、館に続く小径が現れた。街中だったら苦情が来そうな音だ。

 「防犯はしっかりしてるんですね」一彩が運転席に戻った金子さんに話しかけた。

 「ああ。このカードキーは私と、館に住んでいる人しか持っていないから、部外者はインターホンを鳴らして中から開けて貰わないと、入れないようになってるんだ」

 金子さんは砂利が敷かれたスペースに駐車した。隣にはセダンが停まっている。一時間ぶりの外気を吸った俺たちは、伸びをするがてら、目の前の館を見上げた。……俺はそこでようやく、館の違和感の正体に気づいた。まだ日が昇っているというのに、すべての窓が閉ざされているのだ。そのせいで、館は威圧的な雰囲気を放っている。

 「長時間お疲れ様。さ、中へ……」

 金子さんがワイシャツの半袖から伸びた太い腕を玄関に向けると、縦長に伸びたチョコレート色の扉が開き、車椅子に乗った女性と、それを押す女性が現れた。二人の女性は、五、六段ほどの階段の左脇に作られたゆるやかなスロープを下り、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 「金子さん!」

 「ああ茉莉さん! お客さんを連れてきましたよ」

 俺たちの前にやってきた車椅子の女性は、視線を金子さんから俺たちに移し、一彩と俺の顔を交互に見て、くりくりした大きな瞳を動かした。その腕には黒猫が抱きかかえられている。

 「犬飼教授の代わりに来てくれた、剣宮一彩くんと四ツ野翔(よつのしょう)くんです」

 俺たちが会釈すると、目の前の美女二人も会釈した。続いて金子さんがその二人を紹介する。

 「こちらは江城茉莉(えじろまり)さん。小前田先生の姪御さんです」

 金子さんに紹介された車椅子の女性は、再びぺこりと軽く会釈をして微笑んだ。綺麗にウェーブした栗色の長髪。肌は陶器のように白く、西洋人形を思わせる外見だ。そのまま絵画のモデルになってしまいそうな魅力がある。

 「そして、使用人の菅沼麗美(すがぬまれみ)さん」

 車椅子を押していた方の女性は、タイトなスーツを着こなした、スタイリッシュな美人だった。髪型はショートボブ。彼女も色白だが、茉莉さんと比べると「青白い」という表現が似合う。猫を思わせるシャープな顔の下の首元に、小さな十字架のネックレスが覗いている。

 「わざわざお越しくださって、ありがとうございます。どうぞ、まずは中でお茶でも」

 俺たちを館の中へ案内しようと車椅子の向きを変えた茉莉さんに、一彩が「一つお聞きしたいのですが」と口を挟んだ。

 「小前田さんは極度の人嫌いと聞いています。それが、どうして今回は人を呼ぶことになったんでしょうか」

 確かに、言われてみれば妙だ。犬飼教授から聞いた人物像と合わない。茉莉さんは一彩の質問に一瞬戸惑ったような顔をして答えた。

 「……きっと私のせいです。私があまりにも怯えるものだから、叔父が配慮してくれたんだと思います。だってあの手紙……。とっても不気味で」

 茉莉さんは顔を強ばらせて俺たちに目を配った。戸惑ったように見えた表情は、恐怖によるものだったらしい。黒猫を撫でる手が震えている。

 「大丈夫ですよ茉莉さん! 叔父さんは、俺たちが絶対守りますから!」

 俺は反射的に、漫画の主人公のような熱いセリフを口にしてしまった。茉莉さんが「ありがとうございます、心強いです」と言って笑ってくれたので、俺は安心した。

 「翔くん、ちょっと」

 「な、なんだよ?」

 安心したのも束の間、一彩に袖を引っ張られ、俺たちは茉莉さんから少し距離をとることになった。一彩の顔はすっかり呆れきっている。

 「『絶対』なんて言葉を軽々しく使っちゃだめだよ。もしもそれが叶わなかった場合、きみは嘘つきになってしまう」

 「だってさ、ああでも言わないと茉莉さんが……。あんなに可愛い人が怖がってちゃ、ほっとけないだろ」

 一彩がやれやれと溜め息をつく。俺は振り返り、茉莉さんが撫でている黒猫の前に屈みこんだ。

 「ところで、可愛い猫ちゃんですね! 名前はなんていうんですか?」

 「モグっていうんです」

 茉莉さんの体からふわっと花の香りが漂い、鼻孔をくすぐる。この香りは確か……。スミレだ。

 「へー、名前も可愛いですね。撫でてもいいですか?」茉莉さんの了承を得た俺が手を伸ばした瞬間、モグは背を丸め、シャーッという声と共に一気に飛び上がった。

 「あっ!」

 茉莉さんの腕をすり抜けたモグは、凄まじい速さで館の横にあるユリノキの下に走って行った。

 「モグ!」

 茉莉さんの声にも動きを止めず、モグはするすると木の上に登っていく。館の二階分の高さにある枝に登ったモグは、そこで身を丸めた。

 「きっと慣れない人にびっくりしたんだわ……。どうしよう、あの高さだと降りてこれないかも……」

 「すみません、俺、連れ戻してきます!」

 責任を感じた俺は、モグの後を追って木に登り始めた。モグがまた驚いて逃げてしまわないよう、ゆっくりと幹に足をかける。まさか大学生にもなって木登りするとは夢にも思わなかった。

 ユリノキの幹は瘤などもあまりなく、登りづらい。それでも多少の出っ張りに靴を引っ掛け、どうにか登っていく。大学の新歓時期に、同期の谷野(たにの)と一緒に体験したボルダリングを思い出した。

 モグがいる枝まであと半分のところでふと下を見ると、茉莉さんたちが心配そうに俺を見守っている。だか一彩だけは、腕を組み、興味が無さそうな目でこちらを眺めていた。

 ようやくモグのすぐ近くまで辿り着き、腕を精一杯伸ばしてモグに手を近づける。枝の二メートルくらい先に、二階の部屋の鎧窓が見えた。あとちょっと、あとちょっとで手が届く……。その時だった。モグが再び俺に向かって威嚇し、飛びかかろうとした。俺はバランスを崩して……。

 ――やばい。俺の体は宙に投げ出された。

 「翔くん!」

 目を丸くした一彩が大声を上げた。その表情は驚きか焦りか心配か……。逆さまなのでよく分からなかった。




 「いてててて……」

 「捻挫もしていないようですし、応急処置はこのぐらいで大丈夫でしょう」

 擦りむいた肘に消毒液がよく沁みる。手当てをしてくれた麗美さんが、救急箱の蓋をパチンと閉じた。

 俺たちが通された一階の応接間は、アンティーク調の調度品で飾られた豪奢な部屋だった。しかし、やはり窓は固く閉ざされている。

 「翔くん、やっぱりきみはすごいよ。あの高さから落ちたのに、肘を擦りむいただけで済むなんて」

 ソファーに座った俺の顔を、一彩がキラキラした目で覗き込む。丁寧に手当てされた肘を見つめ、一彩の言う通りだと思った。咄嗟に猫を抱えてうまく着地を決められた自分の運動神経に、我ながら拍手を贈りたい気持ちだ。

 「……すみません翔さん。モグのためにお怪我をさせてしまって」

 「いえいえ、大したことないですよ! それよりモグが無事で良かったです!」

 飛び切りの笑顔を茉莉さんとモグに向けたが、モグにはぷいっと顔を背けられてしまった。それを見た一彩がくすくす笑う。

 すると、ドスドスと階段を下りる足音が応接間の外から聞こえてきた。開きっ放しになっている扉を振り返ると、さっと人影が横切ったのが目に入る。人影が足音と共に通路の向こうの奥の部屋に遠ざかると、茉莉さんが「叔父が下りてきたみたいです」と呟いた。

 「多分、コーヒーを淹れに書斎から下りてきたんだわ。麗美さん、叔父様を呼んできてくれるかしら?」

 麗美さんは「はい」と答え、応接間を出ていった。

 しばらくすると、ギョロっとした目つきの不健康そうな男が応接間に入ってきた。

 白髪交じりの頭にこけた頬。背は俺と同じくらいだが、げっそりとした細身のせいで俺より小さく見える。その偉そうな振る舞いから、この人物こそが小前田範人大先生であることがすぐにわかった。室内の空気が一気に重くなった気がする。

 「あんたらか、外で騒いでいたのは」小前田さんはカラスのような嗄れ声で威圧した。

 「小前田先生。こちら剣宮一彩くんと四ツ野翔くんで、犬飼教授の代わりに……」

 金子さんが俺たちを紹介しようと歩み出たが、小前田さんは彼の言葉を待たずに、「なんだ、こんなガキなのか」と言い放った。そしてすぐに体の向きを変え、「まあ、ガキなりに精一杯やってくれ」と言って、応接間を出ていこうとした。

 俺は頭に血が上り、ソファーから立ち上がった。しかしそんな俺を一彩が手で制する。と同時に、一彩が口を開いていた。

 「あの、ガキというのはぼくたちのことですか?」

 まさか反応されるとは思ってもいなかったようで、小前田さんが足を止め、振り返って俺たちを睨みつける。一瞬の後、彼の口から笑い混じりの息が漏れた。

 「当たり前だろ。まだ年端もいかないガキじゃないか」

 「ぼくは十九歳で、この翔くんは先週二十歳になりました。貴方と比べると確かに若いですが、ガキと形容するにはいくらなんでも無理がある年齢かと」

 「……なんだ、揚げ足取りのつもりか?」

 小前田さんが怒気を露わにして一彩に歩み寄る。嗄れガラスよりも五~六センチ背の低い一彩は、やや見上げる形になった。

 「いえ、事実をありのまま述べただけです」一彩の声は冷静そのもので、その顔も涼しげだ。そこには一切の皮肉や悪意もない。この男は、自分の発言が相手の神経を逆撫でしたとは露ほども思っていないらしい。

 「……とにかくお前らは、俺の命を守ればそれでいいんだ。あまり余計な口を聞くなよ。分かったな」

 「はい、もちろんです。ぼくたちはそのために来たんですから」

 小前田さんが念を押すように一彩を睨む。一彩は笑顔を浮かべて付け足した。「安心して下さい。絶対、貴方を死なせません」

 「絶対」というワードが出た瞬間、部屋の空気がまた変わった。小前田さんはさっきの意趣返しとでも言うように、ここぞとばかりにその言葉に飛びついた。

 「……ほう、そこまで言い切るとは面白いな。絶対に守れると、どう証明する?」

 「証明も何も……。ぼくは、嘘をつきませんから」一彩は口角を上げる。

 一瞬、小前田さんの眉間に皺が刻まれたが、何かに気づいたかのように皺はすぐに消え、真顔になった。

 「……お前、『剣宮』といったな。まさか、剣宮有六(つるぎみやありろく)の息子か?」

 「ええ、そうです」一彩が小さく頷く。

 「……なるほどな、あの剣宮判事の。だったら『嘘をつかない』というのは、あながち誇張でもなさそうだな」

 小前田さんはそう言うと、一彩の肩に手を置いた。

 「まあ、せいぜい頑張って俺を守ることだな。自分の発言が嘘にならないように」

 「嘘」という言葉にウェイトを置いて、小前田さんは不気味な笑顔を浮かべ、応接間から出ていった。奥の部屋でまた物音がしたかと思うと、階段を上がる足音が聞こえた。小前田さんは完成したコーヒーを持って、二階に戻って行ったようだ。二階で扉が閉まる音がすると、茉莉さんが口を開いた。

 「す、すみません。叔父が失礼な態度を……」

 「いえいえ、そんな」俺が答えると、一彩がふぅっと大きく息を吐いた。

 「いや翔くん、茉莉さんの言う通りだよ。自分が呼んでおいてあの態度とは、なかなか失礼な人だね」折角のフォローを一彩に台無しにされた俺は、肘で小突いて「お前こそ失礼だぞ!」と窘めた。そのやり取りを見た茉莉さんがくすっと笑う。

 「それに一彩。『絶対』は軽々しく言っちゃダメ、じゃかったのかよ?」

 「軽々しくは言ってないよ。ぼくが『絶対』と言ったら、それは絶対なんだから。ぼくは嘘をつかないからね」

 こいつの尊大で自信過剰な態度には何度もカチンとさせられてきた。しかし、不思議と心強い気持ちにさせてくれることも多い。

 「……あの、一彩さんのお父様って判事さんなんですか?」小競り合いをする俺たちに、茉莉さんが興味深げに口を挟む。

 「ああ、こいつのお父さんは剣宮有六って言って、最高裁判所の判事だったんです。公私共に厳しいことで有名で。特に、『嘘』に関しては」

 「……嘘、ですか」

 「はい。だからこいつは、嘘がつけなくなったんです」

 「翔くん、父の話はよそう。……さて、予告の時間までまだたっぷり時間がある。その間に、茉莉さんと麗美さんには、このお屋敷の中を案内して頂きましょう。犯人が深夜のうちにこっそり忍び込む隙がないか、確認しながら。何しろぼくたちは、小前田氏の命を『絶対に』守らないといけないのですから」

 そう言うと一彩はニコッと微笑んだ。




 俺たちは、茉莉さんと麗美さんの案内で、館の一階を散策し始めた。古い洋館だが、内装はどこをとっても素晴らしく、長い廊下と高い天井で構成されている。長い廊下に並ぶ洋窓は、どれも二メートルくらいありそうな巨大な物だった。その全ての鎧戸が固く閉ざされているため、まだ日は高いのに、室内の照明が煌々と灯されている。

 「……おかしいとお思いでしょう。まだ夕方なのに窓を全て閉めているなんて」モグを抱き抱えた茉莉さんが言った。彼女の車椅子を、麗美さんがゆっくり押す。

 「そうですね……。叔父さんの意向ですか?」

 「ええ。叔父は本当に変わっていて。できる限り世俗を断ちたい、といってこの有様です。なので、朝から夜まで照明は付けっぱなしなんです」

 一彩が窓に歩み寄り、鎧戸を触ってその頑丈さを確かめる。古い見た目とは裏腹に、窓はビクともしない。それを見た茉莉さんが笑った。

 「たとえ窓が空いたとしても、外から人が入ってくるのは無理ですよ。ここへ来る時にご覧になりましたよね? 館の周囲は高い鉄柵で囲まれているんです。唯一柵がないところには門があって、叔父と麗美さんと金子さんが持っているカードキーでしか開きません」

 「このお屋敷は、叔父さんが建てたんですか?」

 「いいえ、叔父の祖父が建てたものだと聞いてます。今は叔父と私と麗美さんの三人しか住んでいませんけど」

 「三人だけですか? それじゃあ、掃除が大変なんじゃ」

 「ええまあ。でも仕方ありません。叔父は人を雇うのを嫌がりますから」

 俺は横を歩くもう一人の人嫌いの変わり者をちらっと見るが、彼は呑気な顔で館内の装飾をじろじろ見ていた。俺と茉莉さんの話を聞いているんだかいないんだか分からない。

 「……失礼ですが、車椅子はいつから?」

 「中学生の時からです。それまでは元気に外で遊んでいられたのですが、病が急に牙を剥いて……。同じ頃に両親も事故で他界したので、叔父の家に引き取られたんです」

 それを聞いて、あの性格の持ち主と長く暮らしている茉莉さんの気苦労を考えずにはいられなかった。

 そんなこんなを話しながら、俺たちは一階の各部屋を見て回った。もちろん、不審な輩が侵入できる隙間がないかを確認しながら。一階には茉莉さんや麗美さんの部屋の他に、小前田さんが趣味で集めているコレクションが収納された部屋もあった。一彩は一つ一つの窓に近づいて、鎧戸がガッチリ閉じられていることを確かめていった。

 「柵もあるし窓も頑丈。これだったら俺たちが来る必要はなかったんじゃないですか?」俺は頭を掻きながら言った。

 「ええ、ですが万が一、ということもありますから……」

 「そういえば、小前田さんはここ数年、新しい作品を発表していませんよね」と一彩。

 「はい。精神的に不安定なようで。……金子さんがしょっちゅうここへ来て、新作を催促しているみたいなんですが」

 「だから金子さんもカードキーを持っているんですね。でも、どうして俺たちの迎えまで金子さんが?」

 「大きな声では言えないのですが……。金子さんは叔父に雑用を押し付けられているみたいで。編集者として、叔父には逆らえないみたいなんです」

 金子さんも可哀そうに……。俺は二階のゲストルームで待機している不憫な編集者に心から同情した。

 そうしている内に俺たちは、一階の廊下を曲がった角にある、重厚な銀色の扉の前に来た。どうやらこれが最後の部屋らしいが、これまでの部屋とは異なる雰囲気が漂っている。扉には取っ手のようなものが見当たらない。

 「ここはワインセラーなんです」

 「中を見せてもらっても?」一彩が茉莉さんに言う。

 「すみません、ここは叔父の大切なコレクションが保管されているので、お見せできないんです。ですが、中には他に入口も窓もないので、大丈夫だと思います」

 「そうですか……。これはなんですか?」一彩は、扉の横につけられた機械を指さした。アンティーク調の館内には似つかわず、ここだけ近未来的だ。

 「指紋認証機です。過去に叔父の来客が無断で入り込んでしまったことがあって、それを叔父はひどく嫌がって……。コレクションの中にはかなり高価なものもあるそうですから」

 「開けられるのは?」

 「叔父と麗美さんだけです」

 「茉莉さんは開けられないんですか?」

 「ええ。扉を開けると階段がありますので、私は下りられません。それに私はワインには興味がないので、必要だとも思っていませんから」茉莉さんはにっこり笑った。

 「ということは、一階より低くなっているんですね?」

 「ええ。半分地下のようになっています」

 「なるほど」一彩は満足げな表情をした。

 「ワインセラーの横の扉は何ですか?」次に一彩は、銀色の扉から少し左に曲がったところにある木の扉に気づいた。廊下を真っすぐ進んだだけでは死角になって見えない位置にあるため、隠し扉のように見える。

 「これは勝手口です。鍵を持っていれば外からも開け閉めができます。ほとんど使ったことはありませんけど」

 「鍵を持っているのは?」

 「小前田先生だけです」と麗美さん。

 ワインセラーは一階の突き当たりだったため、この階はこれで全てチェックしたことになる。俺たちは廊下を引き返し、応接間の前まで戻ってきた。

 「……次は二階ですね」

 「すみませんが、二階はお二人で確認してください。私は階段を上がれませんし、麗美さんはこの後夕食の支度をしなければならないので」茉莉さんが申し訳なさそうな顔をする。

 俺たちは麗美さんと一緒に二階に上がり、自分たちのゲストルームに案内された。

 「階段を上がった一番手前の部屋が小前田先生の書斎で、その隣が小前田先生の寝室。通路を挟んで向かい側が、お二人のゲストルームです。その隣は金子さん用のゲストルームになっています。……小前田先生のお部屋には入らないで下さい」

 そう言うと、麗美さんは会釈をして階段を降りていった。そこからは一彩と俺の二人で二階を調べることにした。二階もまた、一階と同じくらい天井が高い。小前田さんと金子さんの部屋を除いた部屋を見て回ったあとで、俺たちは自分たちの客室に戻ってきた。

 「……ふう」

 館に着いて早々、モグの一件があったため疲れていた。大きなベッドに深々と腰掛けると、スプリングが派手に軋む。

 「でも一彩。高い柵と閉め切った窓のお陰で、俺たちの出番はなさそうだな。小前田さんの命を狙う輩も、この万全なセキュリティーを見たらきっと諦めて帰ってくよ」

 俺の笑い声は、神妙な顔の一彩に打ち消された。

 「うん、そうだといいんだけどね……。とにかく、何としてでも小前田氏を守らなくちゃ。翔くん、作戦を立てよう」

 一彩と俺はベッドに横並びに腰かけ、作戦会議を行った。他愛ない話も挟みつつ、二時間ほど経った時、誰かが部屋をノックした。開けてみると、麗美さんだった。

 「お風呂の準備が出来ました。その後お夕食となります」

 それを聞いた一彩はぴょこんとベッドから立ち上がった。反動で、スプリングが跳ね上がる。

 「さあ、翔くん! この大豪邸の浴室がどんなに立派なものか、見させてもらおうじゃないか!」




 大豪邸の広い浴室を堪能した俺たちは、火照った体のまま、麗美さんの後に続いて一階の食堂に入った。

 食堂は、応接間から階段を挟んだ向かい側にある。細長い両開きのドアを開けると、長いテーブルに純白のクロスが敷かれているのが目に入った。窓が閉じられ、シャンデリアを煌々とつけた室内はムード抜群で、まるでディズニー映画のようだ。

 一彩と俺は麗美さんの案内に従い、窓側から、一彩、俺の順に腰かけた。向かいには茉莉さんと金子さんが座っている。綺麗に並べられたカトラリーはいずれも銀や金で縁取られた高そうなもの。テーブルの中央には立派な燭台と、スミレが生けられた背の低い一輪挿しが置かれていた。

 一彩と俺は、先に席に着いていた二人に挨拶した。すると俺たちに少し遅れて、家主である小前田さんが威圧的な足音と共に食堂に入ってきた。小前田さんは、一番奥の窓際の席にどかっと腰を下ろした。

 彼の着席が合図かのように、麗美さんが食事の乗ったワゴンを押して、ゆっくりと入ってくる。彼女は俺たちの間を縫うように順番に料理をセッティングしていった。その光景は映画やドラマでよく見る大金持ちの食卓のようだが、使用人は麗美さんだけで、席に着いているのが五人だけと、極端に人の数が少ない。実に陰気な食事シーンになりそうな予感がする。

 慎ましくも絶妙な味の前菜とスープを食べた後、メインディッシュのステーキが運ばれてきた。断面は食欲をそそる桜色。俺が分厚い肉にかぶりついていると、麗美さんがワインボトルを大事そうに抱えて持ってきた。ラベルには「シャトーマルゴー1990」と書かれている。

 麗美さんはワインを小前田さん、俺の順に注いだ。次に一彩の目の前のワイングラスに注がれそうになると、一彩は片手を顔の前に出してそれを制した。

 「すみません。ぼくはまだ未成年なので遠慮させていただきます」

 「おいおい、俺の選りすぐりだぞ。せっかくなんだから飲めよ」小前田さんが渋い顔をした。

 「法律を破る訳にはいきませんから。その代わり、この翔くんが味わわせていただきます」

 一彩が俺にアイコンタクトを送る。俺は慌てて二、三回すばやく頷いた。

 「一彩さんと翔さんって、お年が離れていらっしゃるんですね?」茉莉さんが聞く。

 「ぼくは早生まれなので。学年は翔くんと変わりません」

 「といっても、俺は先週二十歳になったばかりなんですけどね」

 茉莉さんが「まあ、おめでとうございます」と言って微笑む。俺は照れ臭くなり、頬を掻いた。

 ワインを一口含むと、ブドウを絞ったような濃厚な味と、アルコールがムラっと口内に広がる。先週の飲み会ではビールやサワーなどを数杯飲んだだけなので、正直、ワインの良し悪しなんて分からない。だが、きっと高級なワインなんだろうと思って、よく味わって飲むように心がけた。

 一彩と金子さんにはコーヒーが提供された。金子さんは食事の後、車で出版社に戻らなければならないという。金子さんは胸ポケットに挿した扇子を広げ、だぶついた顎を揺らしながら顔を扇いだ。

 そんな彼の横で、茉莉さんが紫の模様が描かれたティーカップを口に運んでいる。

 「茉莉さんが飲んでるそれは紅茶ですか?」

 「ええ。といってもスミレ紅茶ですけど」

 スミレ紅茶。聞いた事がある。リラックス効果があるお茶だったような。

 「茉莉さん、スミレがお好きなんですね。香水もスミレの香りでしたよね?」

 「そうなんです! 私、スミレが大好きで」

 茉莉さんの表情がぱっと明るくなる。彼女はポケットから、目薬ほどの大きさのビンを取り出した。中には透明な液体が入っていて、ビンのキャップにはスミレをモチーフにした飾りが付いている。「これ、お気に入りなんです。でも、よく香りだけで分かりましたね?」

 「ええ、まあ……。俺、花屋でバイトしてて、花には少し詳しいんですよ。嗅覚にも自信がありますし。……そのイヤリングもスミレの形ですよね! 本当にスミレが大好きなんですね」

 「ええ。大切な人からの贈り物なんです」茉莉さんが顔を赤らめ、俯きながらイヤリングをいじった。その時、金子さんが大きな咳払いをして席から立ち上がったので、俺は驚いた。

 「それでは小前田先生、私はこれで失礼します。一彩くん、翔くん、よろしく頼むね」

 彼が玄関の方に姿を消して少しすると、車のエンジン音と、門を開け閉めするけたたましい音が庭の方から聞こえた。

 静寂が訪れた食堂に、一彩がコーヒーカップをテーブルに置く音だけが鳴る。横目で見ると、一彩はコーヒーを一口も飲んでいない。どうやら香りですら、一彩の好みには合わなかったようだ。

 「ところで小前田さん。一晩中近くで警護させて頂きたいのですが」一彩は手の甲でカップを押し、数センチ遠ざけた。

 小前田さんは喉を鳴らしてワインを飲み込み、大きな溜め息をつく。

 「やむを得んか。最初は、犬飼君と推理小説談議をして時間を潰す気だったんだがな」

 「それでしたら、ぼくにもお相手が務まるかと思います」

 「……ほう。お前も推理小説をよく読むのか?」

 「ええ。先月は五十冊ほど読みました」

 「それは素晴らしい。家にはコレクションが山ほどある訳だな」

 「そうなんですが……。実は、今住んでいる部屋にある本の殆どは、翔くんの元恋人が集めたものなんです」

 「そうなのかね?」小前田さんに睨まれた俺は、緊張して肩を強張らせながら頷いた。

 「え、あぁ、はい。同棲してた俺の彼女が亡くなって、彼女の蔵書の処分に困ってた時に一彩と知り合って。こいつも推理小説が好きだってことで、一緒に住むことになったんです。広い部屋も本も、勿体ないですからね」

 「ぼくも元々は二千冊ほどの推理小説に囲まれて暮らしていたのですが……。不幸にも火事に見舞われまして。翔くんが同居人を探していたのは渡りに船でした」

 「二千冊とはなかなか大したもんだな。ならば今夜は、真理や知識の谷間で夜を明かそうじゃないか」

 「いいですね。お互いの頭の屋根裏部屋に詰め込んだ知識をふんだんに使いましょう」

 一彩は、望むところだとばかりにニヤッと笑った。




 夕食が終わると、小前田さんはコーヒーを淹れるためにキッチンへ向かった。夜が深まるにつれ、俺たちの警戒心も高まる。そのため、俺たちもキッチンに同行することにした。

 小前田さんは雑な手際で豆を挽くと、腕を伸ばして、頭の上の戸棚からコーヒーフィルターが収納されたホルダーケースを取り出した。

 「小前田さん。そのコーヒー豆に毒が混ぜられている可能性はありませんか?」

 「ないな。ここ一週間はこの豆を使っているが、何ともない。何なら、毒見するか?」

 「そうですね。……翔くん、きみが飲ませて貰いなよ」

 「え? 俺かよ」

 「うん。ぼくは特別なコーヒーしか飲まないことにしてるから」一彩は、ポットからお湯を注ぐ小前田さんの手つきを見て怪訝な顔をした。

 「生意気言うな。お前にも毒見をして貰うぞ」小前田さんは嫌がる一彩を余所に、三人分のコーヒーカップにコーヒーを注いだ。本当に偏屈な人だ。

 夜更かしのお供の準備が出来ると、俺たちは階段を上がった。慣れないワインを飲んだため、足が少しふらつく。小前田さんは力を入れて厚い扉を重たそうに開け、書斎の中に俺たちを入れた。

 部屋の中は散らかっていた。机の上には本や資料などが山積みになっていて、机や壁の至るところには付箋が貼られている。小前田さんは今どき珍しく、手書きで執筆しているようで、書きかけの原稿用紙があちこちに散乱していた。本で埋め尽くされている俺たちの自宅も大概だが、ここまで乱雑ではない。

 書斎の奥には、一階と同じ洋窓がある。窓はやけに縦長で、ここも鎧戸がしっかり閉まっていた。

 一彩と俺は小前田さんに勧められ、書き物机の対面に置かれたソファーに腰を下ろした。書類を少し脇にどかせて貰い、空いたスペースにカップを置く。その時、足元に置かれた赤い箱に躓きそうになった。

 「ところで、手紙について何か分かったか?」席に着くなり、小前田さんがギラつく目で言う。

 「いえ、何も。不自然な点ばかりで」

 「不自然な点というと?」

 「犯人が日付を指定していることと、わざわざ手紙を出したことです。そんなことをすれば、相手が警戒して殺人の遂行が難しくなるだけです」

 「そりゃそうだな」小前田さんは腕を組んだ。

 「……で? 誰が手紙を寄越したか、手がかりは掴めないのか」

 一彩がはいと答えると、小前田さんは心から軽蔑したような眼差しを送った。

 「なんだ、何も分からんのか。お前、あの『緑川家殺人事件』を解決したんじゃなかったのか?」

 「はい、解決しました。……ですが、ぼく一人の力で解決したのではありません。ここにいる翔くんがいなければ、奸知に長けた犯罪者の正体と、その計画に辿り着くことは出来なかったでしょう」

 一彩が俺に顔を向けると、それにつられるように小前田さんの目線も俺に向いた。一彩から正式に助手として認定されたようで嬉しくなり、少し口角が上がってしまう。

 「フン、『探偵と助手』ってわけか」小前田さんはそう言うと、コーヒーを一口啜った。

 そう、やはり一彩は探偵で、俺は助手なんだ。謎がなければ探偵が存在し得ないように、助手がいなければ探偵も存在し得ない。俺がいなければ一彩の名探偵ぶりも成り立たない。俺は一人でその結論に至って満足していると、一彩は大きくかぶりを振った。

 「いえ、まったく違います。ぼくは探偵ではありませんし、翔くんも助手ではありません」

 一彩はキッパリと言い切った。俺の中で何かが崩れ落ちる。俺が一彩の助手じゃないとしたら、彼と一緒にいる理由は何なんだ……?

 「ほう。探偵気取りのスカした小僧だと思っていたんだが、それは否定するんだな」

 「ええ。何よりぼくは、小説に登場する『名探偵』が嫌いなんです」

 剣宮一彩は嘘がつけない。その事を忘れていた。「名探偵が嫌いだ」という昨日の言葉が、照れ隠しであるはずがなかった。

 「推理作家として是非聞きたいね。何故、名探偵が嫌いなんだ」

 「ぼくは推理小説を読み漁る内に気づいたんです。探偵と謎は切っても切れない共存関係にあると……。謎があるから探偵が存在し得る。裏を返せば、探偵がいるから謎が発生するんです」

 小前田さんは相変わらず眉間に皺を寄せて、一彩の話を聞いている。

 「つまり、もしもぼくが小説の中の名探偵と同じだとしたら……。緑川家殺人事件も、今回の殺害予告も、ぼくがいるから事件が起こると言えるじゃないですか。ぼくがいるせいで誰かの命が危険にさらされる……。それはとても耐えられたものではありません」

 小前田さんがフンと鼻を鳴らす。一彩は真面目な目で、自身の考えを話した。

 「……だからぼくは、名探偵になんかなりたくはないんです」

 一彩が語気を強める。俺は勝手に彼を名探偵だと思っていたが、それは違ったのだ。

 「だが剣宮。小説と現実は違うだろう」

 「ええ、まあそうですが。小説の名探偵の中には、犯人をみすみす自殺に追い込んでしまう者もありますよね。中には、自ら手を下してしまう者もいる。……まさに貴方の作品も、犯人が自殺したり、主要人物が惨たらしい死に方をしたりしますよね?」

 「ああ、そうだな」

 前に一度、小前田さんの小説を実写化した映画を見たことがある。タイトルは「探偵・芦屋宝海(あしやほうかい)の事件簿」。トリックは本格的で面白いのだが、芦屋の助手役が事件とは関係ないところで死亡する展開にはショックを受けた。芦屋は助手の死がきっかけで厭世家になり、最終的には、自ら暴いた殺人事件の犯人に、自殺を勧めてしまう。

 「なのでぼくは、貴方の作品が嫌いなのです。作品を彩るために命を蔑ろにしているような気がして」

 一彩が爆弾を放った。しかし意外にも、小前田さんは怒りをぶちまけたりしなかった。険しい顔のまま、コーヒーをゆっくり飲み込む喉の音が無音の室内に響く。

 「本人にそこまで言えるなんて、お前は面白い奴だ」

 一彩はすました顔のまま「いえ、そんなことは」と謙遜した。

 「その通りだよ。俺は作品を彩るために命を蔑ろにしている。だが、それが何なんだ? 推理小説というのは、殺人を肴にする娯楽だ。命を蔑ろにしていない作品など在りはしない。……人間というのは不可思議な生き物だ。現実世界では犯罪や事件を忌避する癖に、小説にはそれを求める。お前も無意識下で求めてるんだよ。死を娯楽として消費することをな」

 考え込んだまま黙った一彩を見て、小前田さんはコーヒーを啜った。その顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

 「カフェインと同じだよ。俺たちは小説の中の殺人を、中毒のように欲している」

 「ですがぼくは……」

 「お前もこの中毒に侵されているんだろ? さ、毒見をしてくれ。俺の命を『絶対』守るんだろ」小前田さんは一彩に反論させず、顎をしゃくってコーヒーを勧めた。

 一彩と俺は、同時にマグカップに口をつけた。湯気が鼻を湿らせたあと、芳醇な豆の香りが鼻に入り込み、続いて深みのある味わいが舌に触れる。美味しい。率直にそう思った。しかし……。

 「さあ、どうだ。俺のコーヒーの味は」

 「お、美味しいです、小前田さん」俺がそう言うと、小前田さんは一彩にも味の感想を求めた。……頼む、一彩。美味しいと言ってくれ。

 「ぼくには……美味しいと思えません」

 祈りは虚しく、書斎の中が急速冷凍されたように感じた。

 小前田さんは一瞬のタイムラグの後、みるみる顔色を変えていった。人間の感情がゆっくりと怒りに変わるのが分かる。人形劇ではパッと怒りの表情になるが、実際はグラーデーションなんだな。

 「出ていけ」

 苦虫を噛み潰したような顔の小前田さんは、その一言を絞り出した。「本物の味が分からんようなやつと、一晩中一緒にいるなんてごめんだ。今すぐ出ていけ!」

 俺は躊躇ったが、一彩は何処吹く風といった様子で、「分かりました。では失礼します」とだけ言って、素直に辞去した。

 俺たちの後ろで、厚い扉が閉まる。

 「……おい一彩。お前のせいで締め出されちゃったじゃないか」

 「だって翔くん、仕方ないよ。味の感想を聞かれたから、正直に答えたまでだ」一彩はまったく悪びれた様子を見せない。

 「……それで? 小前田さんを『絶対』に守らないといけない訳だけど、これからどうする?」

 「そうだね。部屋の前で一晩中見張るしかないね。あのコーヒーはぼくたちも口をつけたから、毒が入っていることは無さそうだし。窓もしっかり施錠されていたからね」

 その後、俺たちは書斎に注意を配りつつ、他愛ないことを話して、夜を明かした。




 翌朝、俺は一彩の隣で、目を擦りながら大きな欠伸をしていた。途中何度か睡魔に襲われたが、ずっと一彩と話していたお陰で、寝ずの番を完遂出来た。普段から読書で夜更かしに慣れている一彩は、昼と全く変わらない態度で書斎の扉を見つめている。

 「さあ翔くん、ぼくたちが徹夜して見張った成果を確かめよう。夜の間に、小前田さんは殺害されていないとね!」

 一彩は自信に満ち溢れた顔を輝かせ、声を張った。

 俺たちは一晩中書斎を見張っていた。書斎の扉は目の前のこの一つだけ。窓は鎧戸が閉められているため、外からガラスを割って入ることは出来ない。……つまり、小前田さんは無事であるはずなのだ。

 しかし、俺は内心で嫌な予感に襲われていた。普通なら犯人が殺人を決行することは不可能な状況だ。……しかし、これが小説の中の出来事なら? もしも、一彩が小説の中の『名探偵』のように、謎を呼ぶ体質だとしたら……?

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。その間に一彩が、書斎の扉をコンコンと軽くノックする。

 ……少し待っても応答がない。一彩と俺は顔を見合せた。

 身体中の体温が一気に下がる。まさかと思い、激しく扉を叩いた。

 「小前田さん! 小前田さん……!」

 やはり扉は開く気配がなかった。

 「まさか、犯人がもう……?」

 「とにかく、二人で扉をぶち破ろう!」

 俺たちはせーので扉に体をぶつけた。この時ほど、一彩がもやしっ子なのを恨んだことはないだろう。

 二回目の体当たりを食らわせようと、もう一度せーのと言ったところで、俺たちは体のバランスを崩した。目の前の扉が手前に向かってゆっくり開いたからだ。

 扉の中から顔を出したのは、眠たそうな小前田さんだった。

 「……朝っぱらから何だね」

 小前田さんは顎の無精髭を掻き、空になったコーヒーカップを持ったまま部屋の外に出てきた。

 「小前田さん! 返事がないから心配したんですよ!」

 「新作の構想を練っていたら眠ってしまってな。しかしどうやら、あの手紙は悪戯だったようだな」心配する俺を余所に、小前田さんが大きな欠伸をする。

 一晩経ち、小前田さんの怒りは鎮まったらしい。俺は昨夜の数時間を過ごした書斎の中を覗いたが、小前田さんが「もういいだろ」と言って扉を閉めてしまった。小前田さんは空になったコーヒーカップを満たすため、キッチンがある階下に下りていく。

 「……とにかく、小前田さんが無事で良かったよ。彼の言う通り、悪戯だったんだな。タクシーでも呼んで、とっとと帰ろうぜ」

 俺の言葉に一彩は返事をしなかった。右手の親指と人差し指でシャープな顎を挟み、考えるポーズをとっている。これは彼の癖だ。

 「おい、一彩?」

 「…………何だか、嫌な予感がするんだ。既に事件が起きてしまったかのような……」

 俺たちは書斎の扉の前――つまり、一階に下りる階段の前――に立っていたのだが、不安げな顔をした一彩に俺が反論しようとしたその時、階下で茉莉さんの大声が聞こえた。

 「麗美さんー! どこにいるのー?」

 茉莉さんは麗美さんを呼びながら探し回っているらしく、彼女の声と共に、車椅子の音が一階を移動しながら聞こえる。

 それを聞いた一彩は目を見開いた。不安げな表情から恐怖の表情へと切り替わる。彼の白い肌が、より白くなった気がした。

 「そうか、翔くん……!」

 俺は何のことか分からず、グレーの瞳を見開いた美少年の顔を見た。

 「ぼくたちはとんだ勘違いをしていたのかもしれない……! あの殺害予告には、誰を殺すかまでは書いていなかった!」

 俺は一彩の言葉を聞いた途端、安堵した体から再び体温が奪われていくのを感じた。

 「と、とにかく急いで麗美さんを探そう!」

 俺たちは、転げ落ちるような勢いで階段を降りた。その足音に驚いたのか、一階の奥のキッチンから小前田さんがひょっこり顔を出す。

 「何の騒ぎだ?」

 俺たちは小前田さんの前を通り過ぎ、各部屋を覗き込んで回る茉莉さんに声をかけた。

 「ああ、一彩さん、翔さん。麗美さんがどこにもいなくて。いつもならもう朝食の支度をしているはずなのに……」

 「そういえば、キッチンに何も出ていないな」後ろから小前田さんが言葉を挟んだ。

 「とにかく、皆で探しましょう」

 「放っておけよ。殺害予告は悪戯だったんだから」

 小前田さんを無視し、俺たちの捜索が始まった。俺は二階に上がり、手始めに小前田さんの書斎を覗いたが、昨夜と何も変わらない。次にその反対側の通路にある、金子さんに宛がわれたゲストルームを調べた。最悪の事態も想定し、クローゼットの中やベッドの下まで探したが、異変は特に見られない。続いて、俺たちのゲストルームも見てみたが、ここももぬけの殻だった。俺たちが寝ずの番をしたため用無しになったシーツには、ベッドに腰掛けた時についた二人分のお尻の跡だけが残っている。

 二階を探し終えた俺は、一階に下りた。一彩と茉莉さんも、麗美さんを見つけられたなかったという。応接間を覗くと、小前田氏がソファーに座ってコーヒーを啜っていた。

 「あと調べてないのは……」

 「ワインセラーだ」

 一彩は足を組んで座る小前田さんに近づいた。

 「小前田さん、ワインセラーを開けてください」

 「……何?」小前田さんは一彩を睨んだ。モグが茉莉さんの足元に擦り寄る。

 「まだ探していないのは、一階の奥のワインセラーだけです。ですがあそこは、麗美さんか貴方しか開けられませんので……」

 「放っておけと言っただろう。どうせそこら辺をうろついているだけだ。ワインセラーまで開ける必要は……」そう言う小前田さんの様子はどこか妙だった。まるで、何かに怯えているようだ。

 「外には出ていないようですよ。麗美さんの靴はシューズボックスにありましたし、車も無くなっていませんから」

 さあ、と促す一彩に小前田さんは大きく舌打ちし、重たそうに腰を上げた。

 俺たちはぞろぞろと一階の奥へ歩いて行った。扉の前まで来ると、小前田氏が扉の横の指紋照合機に、右手の人差し指を当てる。すると扉は、俺の予想と反する開き方をした。意外にも扉は自動ドアで、サーッと静かな音を立てて、左にスライドして開いたのだ。

 扉が開き、ワインセラーの冷気が流れ込んでくる。一歩踏み出すと、昨日茉莉さんが説明していた通り、数段の階段があった。

 階段の上で待つ茉莉さんを除いた俺たち三人は、手分けして広いワインセラーの中を歩き回った。しかし麗美さんの姿はどこにも見えない。

 ワインセラー内を一周すると、小前田さんが一彩に言った。「……結局、麗美はいないじゃないか」その言葉には怒気が含まれている。

 一彩は顎に手を当てて考えるポーズをとった。そしてワインセラーの奥に置かれた、大きな木の箱に近付いた。

 「小前田さん、これは何ですか?」

 「シャトー・マルゴーが入っていた箱だよ。空き箱だがな」

 一彩は逡巡した後、箱の蓋に手をかけた。蓋の中央にはスミレ色のカモシカの判子が捺されている。蓋が開いた瞬間、俺は驚きのあまり大声を出してしまった。

 中に入っていたのは、人型の……。いや、紛れもなく人だった。

 箱を覗き込んだ小前田さんも声を失う。それはまさしく、俺たちが探していた麗美さんだった。

 「茉莉さん! すぐに警察と救急車を呼んでください!」

 一彩は扉の横にいる茉莉に向かって大声で指示すると、腕を箱の中に突っ込んだ。

 「だめだ、亡くなっている」脈を図った一彩が、小さく首を振る。

 「そ、そんな……」

 彼女の体は体育座りの恰好で横向きに箱に詰まっていて、ピクリとも動かない。心臓の位置には、ナイフの柄らしきものがスーツに赤黒い染みを作っていた。首元のボタンが一つ外れ、十字架のネックレスがだらりと下がっている。

 「……涙の跡だ」麗美さんの顔を覗き込んだ一彩が、顔を上げて呟いた。

 俺たちは一先ず箱から離れた。小前田さんは箱から少し距離を置き、血の気が引いた顔で爪を噛んでいる。

 「そ、そんなどうして麗美が。……信じられん」

 ひどく狼狽える小前田さんの様子に、俺は違和感を覚えた。今までの自信過剰な態度とのギャップがありすぎる。……いや、遺体を目の前にしたら狼狽えるのは当たり前か……?

 「小前田さん。これに見覚えはありませんか」一彩は冷静に、麗美さんの左胸に刺さった柄を指さした。

 「これは俺のコレクションだな……。一階のコレクションルームに保管していたはずだが」

 「誰でも持ち出せるんですね?」

 「あ、ああ……」一彩は顎に手を当てた。

 俺たちはワインセラーから出て、警察の到着を待つことにした。

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