4. ゲ……なんとかの誤算
数日後。
首尾よくメディナを追い出すことが出来たゲルベルトは上機嫌だった。
あの糾弾の場にいた者たちはすべてゲルベルトの味方であった。なので例え抵抗されていても無駄ではあったが、まさか自分から魔王位を降りてくれるとは。
拍子抜けではあるが、結果が良ければそれでよしと思いなおす。
事前の根回しの通り魔王位には田舎で燻っていた力自慢の男を据えた。何代か前の魔王のいとこの甥っ子という、一応魔王一族と血がつながっていて、何百番目だかの王位継承権は持っている……という男である。
そして物事を深く考えず、気に食わないことがあれば暴れればよい、と思っているただの乱暴者だ。
いくら魔族が腕力信奉文化であるといっても限度がある。
男は周りを従えていたのではなく、ただ相手にされていなかった。そしてそのことに気が付きもしない愚か者。
更にその程度の自慢など、魔王国にはごろごろいる。
つまり、ゲルベルトにとってとても都合の良い、御輿のお飾りにちょうど良い男である。
奴には適当に美食と女をあてがっていればよい。実権はゲルベルト自身が握りさえすれば。
ゲルベルトの頭の中にはバラ色の未来が広がっていた。
自らの政治のもとに魔王国は発展し、やがて神国も、王国も飲み込んでみせる。魔族が長年望み、成し遂げることのできなかった大陸統一を果たし、やがて喪失世界をも手中に収めるのだ……!
その暁にはお飾りの魔王など不要となる。輝かしい功績とともにゲルベルト自身が魔王として即位する事になるだろう。
そしてゲルベルトの名前は魔王国の、いや世界の歴史に燦然とした輝きとともに刻まれることになるのだ。
「ゲルベルトさま、ゲルベルトさま!」
と、彼自身の執務室(やたらと豪華で広く、若干使いにくい)で妄想に耽っていると、官僚の男がやってきた。
「なんだ、騒々しい」
「そ、それが……」
男の報告に、ゲルベルトは跳びあがった。
「な、なんだと!? そんな馬鹿な!」
慌てて執務室を飛び出し、魔王城の宝物庫へと向かう。
そこには代々の魔王たちが略奪したり献上されたりした宝物や財貨が所狭しと収められているはずの場所だ。税として徴収した金貨銀貨も数えきれないほど。
ある、はずだが……
「な。な。な……無い!?」
この棚もあの棚もどの棚も、何もない。
空である。
金銀財宝、一つも、ひとかけらも、何も、ない。いや、床にいくらかの小銭が転がってはいたが。
「どうして、なにもないのだ? なぜ宝物庫が空に!?」
すっからかんの部屋なので音がよく響く。
宝物庫は特別な場所なので、出入りするにはいくつもの認証が必要になる。だから盗んだりできる者などいるはずもなし。まして樽で千でも万でも足りないような量の金貨を全て持ち出すなどいかな盗人でもできるはずが。
「いや、まて」
ゲルベルトは、この宝物庫に入るまでその認証を一つも受けていない。案内する者たちも扉の鍵を開けたりすることもなかった。
その事を問うと、「通りかかったら扉が開いているのを見つけた、恐る恐る奥へと入ってみたらこの有様」という。
この者たちが嘘をついていて、財宝を持ち逃げした?
だとしたらわざわざゲルベルトに報告する理由などない。
犯人は別の者だ。それもいくつもの鍵や認証をすり抜けることができる……しかし、いくつもの警報すら鳴らさず強引に突破できるはずが……?
……強引ではなく、正当な方法で突破したのであれば?
「まさか……」
ちらりと思いつく、わずかな可能性。
メディナならば、あるいは。
メディナは魔王族の正当な統領であり、正当に魔王を継承した人物である。つまり全ての防犯システムを問題なく開けることができる。
そしてメディナの母は使い手の少ない、希少な魔術を数多く修めていた魔術博士であった。巨大な質量を異空間に収めることもできたという空間魔術の使い手としても有名な……。
メディナが、その魔術を受け継いでいるのであれば。(高い能力を誇示する事が誉とする魔族にあるまじき事だが)それを誰にも知らせていないのであれば。
「あ、あ、あの女……ッッ」
ゲルベルトの怒りが頂点に達しようとしたとき、「あのぉ……」という声が耳に届いた。
振り返るとそこにいたのは、ゲルベルトを呼びに来た官僚の男だ。
「なんだ!?」
「……その、宝物庫にお金がないってことは……俺らのお給料はどうなるんでしょう」
「…………!!」
その言葉にゲルベルトは、雷に打たれたかのように硬直する。
魔族の者は力に従う。少なくともその風習が根強く残る。
魔力、腕力といったわかりやすい力。
個人の魅力、カリスマに従うものも多い。
そして権力ーーだが、その権力を支えるのは、
財力である。
城で働く多くの従卒たち。
この男をはじめとした官僚たち。
近衛を始めとする軍団の兵士。
殴り倒し言い聞かせることで一時的に言うことを聞かせることはできるだろう。
一時的ならば。
だが絶対、その埋め合わせの報酬が必要になる。
でなければいずれ不満が噴出し、抑えきれなくなる。
何より、ゲルベルトが引っ張ってきたあの新魔王。
奴にお飾りでいてもらうためには美食と美女が必要で、その美食と美女を用意するのに必要なのが他ならぬーー
金である。
「あ、あ、あ、あンのクソ女----------ッッッッッッ!!!」
ゲルベルトは力いっぱい叫んだ。空っぽの宝物庫なのでいい具合に反響するのが更にゲルベルトを苛立たせた。
彼はのちに魔王国史上最低無能の宰相として歴史に名を遺すことになるのだが、それはもうちょっと先の事である。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ここから間違いなく面白くなっていく物語です。
絶対に損はさせません。是非ともブックマークと評価を頂きますよう、よろしくお願いいたします。




