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21.  ヌユの街 厄ネタ依頼を受けたくない!



 ・・・



「話をする前に、先ずはこちらを」


 冒険者ギルドの奥にある応接室。

 明らかに木っ端冒険者向けではない、調度品の整った部屋だ。壁にはどこかの風景画まで飾ってある。上級冒険者、あるいは有力貴族向けの部屋だ。

 ランバート、と名乗った初老の男とテーブルを挟んで向かい合って座る。

 白髪交じりの髪を丁寧に撫でつけ、眼鏡の下には鋭い光を讃えた目。

 俺の隣にはメディナが座り、反対の右隣にはリンダが座った。ラデさんはメディナの後ろに立っている。


 秘書さんが丁寧に淹れてくれた紅茶で喉を湿らせる。

 美味い。

 淹れ方あると思うが、明らかに高級な茶葉を使ってる。


「ほう、赤鹿紅茶とは」


 ティーカップを置いたメディナが呟く。


「お気づきですか」

「うむ。甘い香りの中にわずかに含まれる柔らかい酸味を感じる。神国北部の険しい山地に住む赤鹿の体毛と混ぜ合わせて発酵させた希少な茶葉でしかこの香りは出ぬからの」


 ランバートの目つきが一瞬鋭くなった。

 うーわー。

 俺は頭を抱えたくなった。

 ただでさえ断りたい依頼だというのに、今のランバートさん、「ほう、どこぞの魔術士が戯れに剣士として冒険者に登録したかと思えばその教養……これはアタリだな」って顔したもん。絶対依頼受けさせたろって気合入れたもん。

 つーかそんな高級品出して来てる時点でガチだろ。絶対ガチだろこの人。


 

「改めて、わたくしランバートと申します。このヌユの街の冒険者ギルドで副ギルド長の職を拝命しておりますれば、以後よろしくお見知りおきを」

「よろしく。リンダっス」

「アレックスだ」

「メディナと申す。こちらはメイドのラデじゃ」


 それぞれが自己紹介すると、ランバートさんが先ず手札を晒す。


「【炎熱の魔剣 炎斧冷矛】のリンダ様、【風の聖剣 颱嵐刀】の新たなる勇者ラデ様、【天神剣】に選ばれたメディナ様、そして【颱嵐刀】の元持ち主であり、【皇魔剣】に選ばれたアレックス様。ふふ、長年ギルドに務めていれば【聖魔八絶】の勇者と会うことはたまにありますが――流石に四人同時は初めてです」


 それも【不動の二振り】の持ち主には。


 ランバートはそう続けた。

 

 訳:神都及び公爵からの報告は届いてますよ

 

「……どうも、ご丁寧に。でも俺、正直そんな御大層な歓迎されるほどの覚えはないんですよね」

「またまた、ご謙遜を」


 にっこりと笑って切り捨てられる。


「初期の混乱ではメディナ様とアレックス様が【不動の二振り】を盗んだと情報の錯綜があったようですが、そんなはずはありません。そんな簡単に盗めたりするなら、不動なんて言われるはずがないのです。もっとも盗まれたなんて話、私は最初から信じておりませんでしたが……そうそう、公爵家はまだそんな戯言を掲げているようですね」


 訳:公爵家がなんかいちゃもんつけて奪い取ろうとしてますけど、ヌユの街冒険者ギルドはあなた達が正当な所有者であると支持します


「……で、仕事の依頼ってなんですか? ご存じでしょうが、こっちの二人は今日たった今さっき冒険者登録したばかりのペーペーですよ。正直冒険者ギルドのNo.2直々に話を持ってくるなど、身に余るといいますか」

「またまたご謙遜を」


 訳:勇者たちの一行だろ逃がすかバーカ

 

 これもう、後ろの窓突き破って逃げた方がよくねぇかなぁ。ダメかな。


「それで、話というのは」

「……今日、街に訪れたばかりの皆様はご存じではないと思いますが、ここひと月、街の地下に存在する地下水脈に異変が発生しておりまして」


 俺はリンダを見た。

 リンダは険しい顔をして、顔をフルフルと振った。

 水脈に異変とか、絶対厄ネタだろ! 絶対に関わりたくねぇよ!


「……異変とはどのような?」

 

 聞きたくないけど聞かなきゃ話が進まない。気も進まないが。


「一部の井戸で、水が黒く濁るのです」

「泥が混じっているだけ……とか。そんなはずねぇよな」

「もちろんです。領主お抱えの魔術士たちの調査によると、その黒い水は呪詛系魔術によるものと」


 うーわー。

 超ド級の厄ネタだったよ!


「待った待った、ちょっと待ってくれ。井戸に呪詛混じりの水が湧くようになって、領主はそれを知ってると。なら俺たちに地下水脈調べろって流れだろ? 原因がなんだか知らないが、地下水脈にその呪詛の大本があるってんだったら、領主がどうにかすべき問題だろ。いくら【聖魔八絶】を所持する勇者だからってそれを差し置いて出しゃばっていい話じゃないだろう」


 言うまでもないが水が安全かどうかは、街の存続に関わる大問題だ。

 自然災害によって水脈が枯れたとかそんなどうしようもない話ならまだしも、呪詛が混じるという明らかに外的な要因によるものだったら、それをどうにかするのは領主の仕事、いや義務だ。

 領主ってのは領地と領民を護り、その生活と生命と財産を保護することを生業とする者だ。その対価として領民は税を課され労役を課されているのである。

 逆に言うならばこの呪詛水問題を解決できないならば領主は領主としての資格を失う事になるし、ポッと出の俺たちが勝手に解決すれば、領主の面子を潰す事になる。 


「もちろん領主である伯爵閣下は直ぐに動きましたとも。井戸の黒い水を調査し、それが呪詛であることを突き止め、街の人々に黒い水を飲んではならないと通達をいたしました。さらに街の警備兵を動員し、下水道の壁の崩落とそこから地下水脈の流れる洞窟を発見するに至りました」


 ああ、領主様ったらやるべき仕事はきちんとしてるのね。


「でもアタシらに話をしようっていうことは……」


 リンダが嫌なことに気が付いたように、ぼそっと尋ねる。


「そう。原因があるだろうと思われる地下水脈の調査でトチりました。調査に向かった兵たちが誰一人として戻ってきません」


 考えうる限り最悪の返答だった。


「この手の調査には、冒険者からも調査員を募り同行させます。未知の洞窟探索なんて冒険者の専売特許みたいなものですからね」

「だろうな。でも俺たちがここでこうして話を聞いているってことは」

「はい。冒険者たちも誰一人戻りませんでした」


 最悪に最悪が重なる返答だ。

 陰鬱な気分になって尋ねる。


「調査隊は何回派遣したんだ? 一回こっきりってことはないだろう」

「計三回。都合五十名が行方知れずです。最後の調査隊は四日前に消息を絶ちました」

「冒険者のランクは?」

「五級、三級、三級の三パーティです。いずれも信頼のおける、実力も実績もあるパーティでした」


 頭を抱えそうになる。

 それだけの戦力を差し向けて、地下水脈に何かがあるということだけしかわかっていないとは。


「そして呪詛水汚染の井戸は増えるばかりで、もう街の井戸の半分が呪詛に犯されています」

「ふむ。その呪詛水、もしも飲んだらどうなるのじゃ?」

「魔術士によると、『界』に穴が開く、と。そのあとどうなるかは不明ですが……」

「むぅ……!」


 メディナが険しい顔をして唸った。

 

「『界』? 『穴が開く』? どういうことだ?」

 

 俺が尋ねると、メディナは答えた。


「つまり、何者かが、この街の住民たちを支配しようとしている……呪詛水はその準備に他ならぬ、そういうことなのじゃろう」

「ええ。領主様も同じ結論です。ですが神都及び近隣の街の領主に助力を求めてもまともに取り合ってもらえず」

「じゃろうな。領主であれば先ずは自らの領地を優先するのは正しい判断じゃ。しかし下手人が水脈を押さえておるというなら、特に下流の街は遅かれ早かれ、という奴じゃぞ」

「待て待て、俺たちにもわかるように話をしてくれ!」


 ランバートとメディナだけで話を進めないでくれ。


「そもそも『界』ってなんだ?」

「うむ。魔術士として学んだことのない者では聞きなれぬ言葉であるじゃろうな。魔術における基礎にして、ある意味で極意である。つまり『界』とは、『世界』のことである」

 

 ブッこんできた。

 いや、そんなドヤ顔されても、わかんないんだって。

 




 





 

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