2. 勇者、勇者パーティを追放される
・・
夜。
「かんっっっぱーい!」
突き上げたジョッキをぶつけ合って、俺たちは依頼達成の打ち上げをしていた。
ゴクゴクとジョッキの中身を半分ほど飲み干す。
強い炭酸が喉を焼くこの感覚は何物にも代えがたい。この喜びの瞬間のために、命を張った冒険者家業をしているといってもいいくらいだ。
「見ろよ、アレックスたちだ」「岩蜥蜴の巣をつぶしたらしいゾ」「相変わらず景気がいいな、さすがは勇者パーティ」
周囲の喧騒からも、俺たちパーティを讃え、あるいは羨むような声が上がる。
「やっぱり依頼達成の酒は最高だな、バイルート!」
「あ、ああ」
「チリカのサポートのおかげで誰もけがをしてねぇ。さすがだぜ」
「そ、そうね。わ、私の手にかかればこ、この程度……問題、ないわよ」
……?
「なんか元気ねぇな、チリカ。風邪でも引いたか? 明日は休暇だからゆっくり休むといい。な、ディラス」
「……そうだな」
ディラスは斥候、罠解除、隠密行動に長けたレンジャーだ。その腕はこの街一番といって過言ではなないだろう。だからというわけではないだろうけれど、本人もどこか物静かで騒々しいタイプではない。
だけどこの、今のディラスの態度はどうにも歯切れが悪いような、変な違和感がある。
違和感といえばチリカも、バイルートもだ。
なーんか妙にノリが悪い。
そこで俺はピンときた。
「どうしたバイルート。全然飲んでねーじゃねぇか」
「あ、ああ。そうだな。いやいただくが……」
「さてはお前、チリカの事、怒らせたろ」
「「ンごぶ!?」」
バイルートとチリカが同時に吹いた。
きったねぇな。ディラスと俺が皿を持ち上げたから、料理は無事だったけど。
「げほっげほっ、な、おま、知って……いつから!?」
「おー。知ってたよ。半年くらい前か、お前らが手ぇ繋いで西町の方を歩いてたの、見たもん」
バイルートとチリカが絶句する。
ちなみに西町というのは、ちょっと大人な宿泊施設がある区域だ。ま、俺には今んとこ用はねぇトコだけどよ……。
「し、知ってて黙っててくれたの?」
「おう。別にうち、パーティ内恋愛禁止してねーし。それで連携がゴタついたりしなければ問題ねーだろ。だったら俺が口出すことじゃないだろよ」
なー、とディラスに水を向ければ、黙って「うむ」と頷くディラス。
つーかやっぱディラスも知ってたんだな。
「そんな、チリカちゃんがバイルートと?」「俺、チリカちゃんに踏まれるのが夢だったのに……」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。
まぁ俺たちは有名だしな。特にチリカなんかは可愛いからファンが多いのは知っていたが、ちょっとアレな奴混じってんな?
「そ、そうだな。今まで気が付いていたのに黙っていてくれたことには感謝する……」
とバイルート。いつも明快なこいつが、どうにも今日は歯切れが悪いな。
そう訝しんでいたら、バイルートが意を決したように口を開いた。
「アレックス、聞いてほしいことがあるんだ」
「おう、なんだ? 金だったら貸さねぇぞ」
そう茶化すも、バイルートの顔は暗いままだ。
どうもマジメな話らしい。
「なんだ。ガチな話か」
「そうだ。ガチな話だ」
じゃあ真面目モードだ。
俺が居住まいをただすと、バイルートはその言葉を口にした。
「アレックス。これはチリカやディラスともよく話し合って決めた事なんだが……」
聖剣『颱嵐刀』に認められし勇者アレックス。
君を、このパーティから追放する。
バイルートのその言葉に、酒場中の声がなくなった。
「えっ追放?」
「そう。追放」
「勇者の俺を?」
「勇者のきみを」
「勇者パーティから追放?」
「そうだ。勇者パーティから追放する」
は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?
意味わかんない!
意味わかんないんですけど!?
どれだけ食い下がっても、三人の意思は固かった。
無理だ、やっていけない、もーダメ我慢の限界、今後のご活躍をお祈り申し上げます。
取り付く島もない、とはこのことだ。
どういうわけかこの俺勇者アレックスは、勇者パーティを追放されることになった。
な、なんでぇ……?
【悲報】シリアス終了のお知らせ【朗報?】
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ここから間違いなく面白くなっていく物語です。
絶対に損はさせません。是非ともブックマークと評価を頂きますよう、よろしくお願いいたします。