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18.  ヌユの街 通行審査


・・・

 


「違う……救援じゃない、冒険者たちだ……」

「隣り街のやつらは何をしているんだ」

「自分たちが助かればいいって思ってるんだろ。次は自分たちの番だってのに」

「しっ! 奴らに聞かれるぞ、四人だけでも居ないよりはましだろう」

「……四人増えたごときでどうしろってんだ……いなくなる順番が多少遅くなったくらいで……」



 ・・・




「……通っていいぞ」


 街への滞在許可は簡単に下りた。

 思った以上にあっけなく。


「なんか変ッスね」

「だよな」


 リンダの言葉に俺は同意した。


「なんじゃ、何か変じゃったか? こういった審査は待たされるものと思っていたが、簡単に通してくれるに越したことはあるまいに」


 一方で小首を傾げるメディナーー偽装魔術のお陰で俺はメディナがバインボインのお貴族様に見えるのだが、さておき。


「メディナさんの空間収納みたいなのは反則として、通行許可証も通商許可証も持たずにこんなデカイ馬車で乗り込んできたら、中身を全部ひっくり返す勢いで審査されるんスよ普通は」

「ふむ? お主らが身構えておったのはそれか。でもそんなのなかったではないか」

「だからおかしいっていって話なんだよ」


 通行許可証や通商許可証ってのは、国のお偉いさんとか貴族のお偉いさんとか、でなきゃ商業ギルドみたいな公的機関が発行するもんだ。

 つまり、「これ持ってる奴の身元や荷物についてはウチんとこが保証しますわ!」という意味合いがある。

 だから許可証持ってる奴の荷物を漁ったり疑ったりするのは、「発行元に対する疑いあり」と宣言するようなものなので結構な火種になりうる。だから軽く浅くチェックする程度で終わらせる訳だ。

 万が一許可証の持ち主が本当に犯罪に関わっていたりしたら発行元は面子を潰されるも同然なわけで発行審査は厳しいし、持ち主が悪用でもしたら冗談抜きで賞金首に掛けられる。

 そう説明してやると、メディナは得心したと頷いて再び首を傾げた。


「であるならば、何の許可証も持たない妾らはもっと疑われてしかるべきではなかろうか」

「そうなんだよ」


 この客車には俺とメディナ、そしてリンダと三人が乗り込んでいるが、それでも十分に余裕がある造りになっている。

 それで荷物もさほど載せていないとなれば、密輸品の有無や犯罪者が隠れていないか疑われて当然なのだが、


「なんか疑われないようにする魔術を使ったんスか?」

「いや、偽装魔術だけじゃ。それ以外はいつでも発動できるよう待機させておいたが使わず仕舞いじゃ」

「じゃあなんで審査官の奴ら、俺たちの顔を見るだけで終わらせたんだ……?」


 俺は馬車の後部にかけてあるカーテンの隙間から、遠ざかる城門の方を伺う。

 審査官やら警備兵やらが数人こちらのほうを見ているようだが、どうにも表情がおかしいように思える。

 期待が裏切られた? 諦め、憐憫……不安。


 ーー怯え?


 ガタゴトと石畳に揺られながら、まだ日が高いというのに妙に人の少ない通りを馬車は走っていく。




 ・・・



「まぁまぁいらっしゃい! 久しぶりのお客様だわ!」


 どこかやつれたような表情の女将が、扉を潜った俺たちを迎えてくれた。

 人気のない通りで馬と馬車を片付けた俺たちは通りから一本裏に入った場所にある宿屋に入った。その途端にこれである。


「あ、ああ。四人分の部屋を頼むよ。三人部屋と一人部屋で。取りあえず二泊」

「お食事はどうします?」

「今夜と明日の朝はお願いするよ。明日の晩は、状況次第かな」

「まぁまぁ。お昼までにおっしゃっていただくようお願いいたします。材料の準備が必要ですからね」

「ああ、それと」


 俺は帳場の周りを物珍しそうに歩き回っているメディナと、それに付き従うラデさんを見た。


「身体を拭きたいからな。たらいに水を三つ、頼むよ」


 俺がそう何気なく頼むと、女将はバツの悪そうな表情で言った。


「水は……水は、無いんですよ」 


 ・・・



 俺たち冒険者が街にたどり着いた時、楽しみにしている物が三つある。

 

 魔獣の警戒をしなくて済む安全な寝床。

 食い飽きた保存食ではない暖かい食事。

 そして、身体を拭くための水。

 

 この三つだ。


「ううむ。道中浄汚魔術(クリーニング)を用いていたとは言え、こう……サッパリできぬというのは」

「水がもらえないとわかった途端、身体のいろんなところがムズムズしてきたっス!」


 メディナとリンダがポリポリと身体を搔いている。

 ラデさんも何も言わないが、リンダと同じように不快感はあるんだろうな。心なしか眉が寄っているような気がする。

 浄汚魔術(クリーニング)は便利だし簡単な魔術なので使える人は多い。だけど物理的に擦っていないから物足りないって意見もよく耳にする。斯く言う俺もその一人だ。


「服ごと汚れを落としてくれるから着替える必要が無いってのはわかるんだけどな。やっぱり着替えたくなるよな」

「うむ、その通りじゃ!」

「全くっス!」

「その通りです」


 長生きする冒険者は綺麗好きでお洒落好き、なんて言葉もある。

 職業柄泥汚れに埃塗れ、何なら魔獣の返り血を浴びたりや不衛生な場所に潜る事だってあるわけで、病気対策として衛生に気を遣うのが冒険者として長くやっていくコツ、そういう意味をちょっと皮肉った言葉だ。


「しかし、大丈夫なんスかね。井戸の水量が少なくなっているなんて、場合によってはこの宿の死活問題ッスよ」

「近々掘り直しをするって話ではあるが……ま、どうなるんだろうな」


 お湯で身体を拭くことはできなかったが、食事や飲み水としてはまだ十分あるらしいから、まぁ俺らがどうこう心配する事でもないよな。

 

「神都や王都のような大きな街では上水道が完備されている場合が多いですから、井戸の枯渇は心配ないのでしょうが……」

「王侯貴族様の御屋敷では、水を生み出す魔道具が備わっているとか聞くッスね」

「羨ましい話だな」


 しかし俺たちは公爵家と神都の警備兵から追われる身である。

 神都の方は別に悪い事したわけじゃないから、事情を説明すればどうにかなるんじゃないかとも思うんだがな。

 公爵家の方はどう転ぶかわからん。


 さておき、今後の予定である。

  

「ええと、先ずは食料品その他消耗品の買い出しだろ」

「あと地図欲しいッスね、【大迷界】までの地図」

「簡単な物なら売っていますでしょうか」

「【大迷界】は南の方じゃろ? 太陽がある方向に向かっていけばなんとかならぬかの」 

「あー、どっかで追手もなんとかしなきゃならんだろうな……もうあれから三日だから、この街も含めて神国内の街はそろそろ出回ってるだろうな」

「あれ? 妾なんか無視されておらぬか」

「小さな村とかならなんとかなるッスかね?」

「微妙なところだな。小さい村だとよそ者自体が警戒されるから、メディナの偽装魔術でゴリ押せるならこれくらいデカイ街の方が……メディナとラデさんはどう思う?」


 俺がメディナに問いかけると、メディナはポケットから何かを取り出した。


「……」


 例の、炎熱完全防御の|護符≪タリスマン≫である。


「これを売るための、お金持ちに何とか渡りをつけることができぬか、と」

「せやった。とはいえなぁ」


 俺はお隣の王国の出身だ。この神国に知り合いは殆どいないし、いるとしても引退した元冒険者だ。そこそこの金は持ってるかもしれんが、さすがにコイツを買い取ることができるとは思えない。

 リンダを見ると、彼女はブンブンと首を振った。


「いないっス。そんなものをポンと換金してくれそうな知り合いなんて……あ、一人だけ」

「ほう! 紹介してもらえぬか!?」

「……すんません、例の公爵閣下ッス……」


 メディナの顔がスンってなった。

 自分から捕まりに行くようなもんだし、そもそもその公爵って神都にいるんだから戻らなきゃなんねーし。

 

「聖剣魔剣まとめて取り上げられて、下手したらその護符のお代も踏み倒されるかもしれませんね」

「さすがに吊るされたりは……ないじゃろうな、リンダよ」

「うーん。あのバカボンが父親になんて泣きついているか次第ッスねー。ある事ない事吹き込んでたらもしかして」 

「はい却下」


 元から考えるまでもないけど。え? 最悪そこまでありえるの?

 マジか。無いわー。あのボンボン、マジ無いわー。

 うーむと腕組みして考える。


「金が無いときに売るモノがないなら、あとは二つしか方法がないっスね」


 リンダが言った。


「おう、それは一体!?」

「それはもちろん、真っ当な労働ッス」


 しごく真っ当なご意見でござった。


「ちなみにもう一つの方法とは?」


 ラデさんの言葉に、リンダはニッと笑顔を浮かべる。


「それはもちろん、真っ当ではない労働っス」

「はい却下ア!」


 仕事を探しに行きますよ!!

 

 

 


 


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