11. 勇者 is なに?
「どこに行った!? あっちか!」
「手分けして探すぞ。一班と二班はついて来い! 三班と四班は大通り側だ」
ピィーピィーと笛の音が幾重にも重なって聞こえる。
周囲を行きかう人々は殺気立ち走り回る警備兵たちに何事かと興味深々、噂話に興じている。
「なんだ? 何事なんだ?」
「なんでも大聖堂の聖剣が盗まれたらしいぞ」
「いや、俺が聞いたのはあの大岩が爆破されたって話なんだが」
「わたしもそう聞いたわ。なんでも斧の勇者が突如現れて、前庭全部を消し飛ばしたって……」
うーむ。
根も葉もない噂話の独り歩き。
俺はそんな行きかう人々の話を聞き終えると、窓とカーテンを閉めた。
「……どうじゃ?」
部屋に設えられたベッドの上に寝転がるメディナが訊いてくる。
「無理だなこりゃ。警備兵総出で俺たちの事を探し回ってる」
「となると、このままここに隠れているというのは難しいですね……」
ポットから人数分のティーカップに紅茶を淹れてくれたラデさんが困ったような顔をした。
「だろうな。三人組の旅人風の余所者、通りを探し回って見つからないとなったら次は宿を探して回るだろう」
「その次は住民たちへの聞き込み、じゃろうなぁ。迷惑をかけるわけにもいかぬ。それまでにここを出ねば」
「だな」
そんな話をしていると、「どうだい、お前さんたち」と言いながらこの家の主が部屋に入ってきた。
串焼きの屋台をやっていた店主のおっちゃんである。
警備兵を撒くために走り回っていた俺たち三人は、早く店仕舞いとなって街をぶらついていたこの、クルッツのおっちゃんと偶然にも再会した。
慌てている俺たちの様子を面白がったクルッツのおっちゃんは事情を聞くと、自分の家に案内してくれたのである。
「でも良いのかクルッツどの。誤解とはいえ、妾らはお尋ね者じゃぞ。しかも魔族。それを匿うなど……」
「あー良いんだ良いんだ。最近衛生対策がどうのこうので、俺たち露店やってる商人に風当たりが強くてよ。特に警備兵たちは居丈高に振舞うもんだから嫌われてるんだよ」
もちろん俺も嫌いでな、とおっちゃん。
「奴らの鼻をあかせるってんなら、あんたらを匿うくらいどうって事ねぇよ。それに……」
と、おっちゃんは俺とメディナの方を見た。
いや、正確には俺たち二人が持つ、二振りの武器を。
「俺だって男だし、この街に生まれたんだ。当然挑んで、ダメで、ため息をついたクチさ。それがなんだ、【天神剣】も【皇魔剣】も、同時に持ち主が現れるなんてこれを歴史的快挙と言わずになんという! それを盗んだだなんて、全くふざけた連中だぜ」
「歴史的快挙……のう。そう言われても全く実感が湧かぬが」
ベッドの上に胡坐をかくメディナが、鞘ごと膝に乗せていた【天神剣】を見る。
「そもそも、この剣は一体何なんじゃろうなぁ」
「さあな。実のところ俺たち神都の住民だってよくわかってねぇんだよ」
そうおっちゃんが言った。
「他の六振りの武器と違って【天神剣】と【皇魔剣】だけは史上初めて持ち主が現れたんだからな。つまり、どんな機能を持っているのかさえ分かっていないんだよ」
「伝説によると、【天神剣】を持つものは人々を導く真の勇者であるとか、【皇魔剣】を持つ者は人類を破滅に導く真の魔王であるとか言われているそうですが」
ラデさんの言葉に、おっちゃんは肩を竦めた。
「そう言われてるな。……で」
ちらり、とおっちゃんが俺を見る。
「行き倒れに串焼き山ほど奢ってくれるにぃちゃんは人類を滅ぼしたりする予定があるのかい?」
「いやなんでだよ。そりゃぬっ頃したいくらい嫌いな奴の一人や二人くらいはいるけどさ。見ず知らずの人たちまでどうこうしようなんて思うほど傲慢でも暇でもないよ」
「だよな」
ラデさんが淹れた紅茶を飲み干した店主が、「ちょっと馴染みに会ってくる」と言った。
俺が店主をちらりと見ると、ニッと笑って手を振った。
「もしかしたらアンタラを外に連れて行ってくれるかもしれん奴でな。ちょいと貸しがあるからそれ使って脅して来らぁ」
おっちゃんが出て行った室内に、探るような沈黙が下りる。
それを破ったのはラデさんだった。
「……信用できるのでしょうか」
「さぁのう」
メディナがベッドに転がって言った。
「クルッツどのが戻ってきた時兵士と一緒でないとは言えぬし、その貸しがある者とやらが信用できるとも妾たちにはわからぬし」
「とは言えこう外を警備兵たちがうろつき回っているんじゃ、土地勘のない俺たちが外に出たところでまた当てもなく逃げ回るだけだぜ」
「街の外壁周辺は封鎖されている事でしょうね。となると前庭から逃げた時のような手は使えませんか……」
ラデさんが立てかけておい颱嵐刀を見て、ふと考え込んだような仕草を見せた。
そして俺の方を見る。
「……なぜ、【風の聖剣 颱嵐刀】がアレックス様から離れて私の元にやってきたのでしょうか……いえ、そもそも」
ーーそもそも、伝説の武器に選ばれるとそう呼ばれる【勇者】とは一体ーー
「いったい、何を成す者の事を言うのでしょうか?」
「…………ッ」
彼女の言葉に、【風の聖剣】の勇者であった俺は答える事ができない。
「かつて勇者とは、魔王を打ち倒した者の事を言ったそうじゃ」
俺が動揺していると、メディナがおもむろにそんな事を言い出した。
「魔王を、ですか」
「と、言っても古いお伽噺にあるような、『人々を苦しめる悪い魔物の王様を懲らしめました』とか、そんな内容の話なのじゃが」
ベッドに身を起こしてメディナが続ける。
「何百年だかの昔魔王国が神国と王国を相手取って戦争ばっかりしていた時代には、【聖魔八絶】を手にした勇者たちが軍団の先頭にたち、魔王国軍と戦ったという記録が残っておる故、あながち童話やらなんやらのお話ばかりという訳でもない」
「魔王国と戦争……種族間戦争という側面もあったと聞いていますが」
「そうじゃの。我ら魔族は白い肌に黒い髪、それに尖った耳。中には獣の因子を持つ者もいる故、人族たちにとっては畏怖と差別の対象じゃったのじゃろう。魔族にとっても人族は数が多いばかりで寿命が短いし、魔力も腕力も大したことない者ばかりじゃからの。弱者と侮っておった」
「それで戦争が起きた、のか」
「どっちの言い分が正しかった、など言う気はないぞ。魔族の文化にはその根底に、強者は弱者を保護するべきであるという考えがある。それが悪い方向に出ると、強者は弱者を従えるべきだし、弱者は強者に逆らってはならない、という考えになる」
「人族からしてみたら大きなお世話だよな」
「さよう。もっとも人族は人族で、したたかに魔族側をやり込めたりしておる。何百年も昔の事、今更その原因を蒸し返した所でなんの益もない。それよりも、じゃ」
メディナが俺を見た。
そして手にしている【天神剣】を突き出す。
「無事にこの街を出る事ができたらどうするか、じゃよ」
「別行動、ってわけにはいかねぇよな」
俺がその言葉を口にした瞬間、背負っている【皇魔剣】が反応した。
ぐいぐい引っ張るようにベッドの方に俺を引っ張ろうとする。
「あーよしよし。口にしただけだってもー」
「ペットの犬に引っ張られているみたいですね」
「全くだ。で、別行動が無理なら、しばらくは一緒にいるしかねぇんだが……どうする? 俺は元々、【大迷界】に挑むつもりだったんだけど」
そう言った瞬間。
「!!?」
この場にある三本の【聖魔八絶】が反応した。
細かい音を立てて小さく振動し、魔力さえ発している。
「な、なんですかこれは!?」
驚くラデさんに、メディナが言った。
「どうやらこやつらは、【大迷界】に用事があるらしいの。……どうじゃアレックス。元々妾らも【大迷界】を目指しておった。旅は道連れなんとやら、同道いかがかの」
「いかがも何も、この様子じゃ他に選択肢も無いだろ」
「ならば決まりじゃな」
こうして俺は、思いもよらず愛刀を失い新しい武器を得て、二人の同行者を得る事になった。
あと、お尋ね者という新しい肩書も。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ここから間違いなく面白くなっていく物語です。
絶対に損はさせません。是非ともブックマークと評価を頂きますよう、よろしくお願いいたします。




