40ママの反撃(メリンダ)
私達が全員座るとママが口を開いた。
「あなたが偉そうに貴族が何たるかを言うなんて笑えるわ」
「おい、何を言ってるんだ?イリーネ」
「さっきから聞いていれば…どの口がそんな偉そうなことを言うのかと思ってたのよ。あなたがどんな人間か私は知ってるのよ。今までずっと我慢して来た。でも、もう限界だわ。私はメリンダとガストン侯爵令息の結婚だって反対したわよね。うまく行かないって言ったはずよ。でも、あなたはそんな事は関係ないって結婚は形式的なものでそこにあるのは家同士の繋がりだけだからって無理を通した」
「当たり前だ。私とお前だってそうじゃないか。お互いに恋愛感情などなかった。でもうまくやって来れた」
「はッ?どの口がそんなふざけたことを?ええ、あなたは良かったわよ。私はずっと我慢だけだった。あなたの愛人関係の事も見て見ないふりをして来た。香水の匂いをぷんぷんさせて帰って来ても、ベッドであなたの手に触れられることも我慢したわ。子供の事もすべて丸投げだったし、おまけに違法賭博にはまって高額な借金まで背負っている事も知らないふりをして来たわ。でも、もう限界。私はあなたと離縁する。メリンダにも、あの子の思うようにさせるわ」
「おい、何を言ってる。そんな勝手許されるとでも?」
「ええ、もちろん許されるわ。あなたが宰相と言う身分を利用して他の貴族からお金を巻き上げている事も違法賭博に出入りしていることもすべて調べはついてるの。これを国王に見せればあなたはどうなると思う?楽しみね。あなたはおしまいよ。これからどうなるか…楽しみね。うふっ」
「イリーネ。そんな事を王が信じるはずがない」
パパは狼狽えてママを見つめる。
「あら、私は今の国王といとこなのよ。母の姉が王妃だったことを忘れた訳ではないんでしょう?私がこうだと言ったらみんな信じるわ」
「頼む。ばかな真似はやめろ!」
「いいから私と離縁して。メリンダあなたはネイトと話をしなくてはいけないわ。誠心誠意彼に謝らないと」
「もちろんわかってるわママ」
「そんなことが許されるとでも…」パパが口をはさむ。
「あなたは黙ってて!」ママに一喝された。
「……」
パパはさっきまでの偉そうな態度は消えてソファーに小さくうずくまっている。
ママは立ち上がるとサイドチェストから書類を出した。
離縁届だった。
「これにサインしてちょうだい。いつかはこうするつもりだったの。メリンダたちの爆弾発言はいいチャンスだったわ」
「イリーネ。君は今まともな考えが出来ないんだ。いいから落ち着け。よく考えてみろ。私と離縁など出来るはずがない。もし離縁したとしてこの後どうするつもりなんだ?」
「もちろんあなたから慰謝料をたっぷり頂くわ。あなたが反対してずっとできなかったことをするのよ。やっと」
「ママがずっと話してたって?」
ローリッシュ公爵家は食べ物や繊維、雑貨などたくさんの品物を海外と取引している。
ちなみにガストン侯爵家は主に綿花の栽培と生地の生産をしている。
だからガストン侯爵家とは切っても切れない関係だった。
「ええ、香水や化粧品なんかを取り扱う商会を始めるの。そのために今までたくさんの貴族の奥様達と関係を築いて来たわ。趣味と偽って色々な商品を作って来た。香水や化粧品のサンプルはみんなに試してもらって発売を待っている奥様達がたくさんいるの。メリンダ。あなたのその敏感な鼻はこれからすごく役に立つはずなの。香水の微妙な配合や違いは敏感に匂いをかぎ分ける特殊な技能よ。あなたは潔癖はその敏感な鼻のおかげなのよ。だから自分が人より劣っているんじゃないの。あなたは特別なの。だから自信を持ってほしいの。だってあなたは私の自慢の娘なんだもの」
ママが私を見て嬉しそうにほほ笑んだ。
私はずっと自分が人より劣っていると思って来た。
だからこそ強がったり人を近づけないようにして来た。
でも、ママはそんな私の事を自慢だって言ってくれた。うれしい。
「ママ、ありがとう。そんな風に思ってくれてたなんて…」
「あら?もう一人忘れてるわよ。デュークもそうなんでしょう?そうそうパミラもよね?」
「もちろんだメリンダ。君は素晴らしい人だ。君が必要なんだ。愛してるんだ。きちんと決着をつけて改めて結婚を申し込むよ」
「メリンダ様。ネイト様にすべてを話しましょう。罰は私が受けます。心配しないで下さい」
「パミラ。罰は私が受けるべきよ。あなたはずっと私のそばにいてくれた恩人なのよ。そんな事言わないで。いい?」
「メリンダ様…」
パミラは泣き崩れた。
「パミラほんとにありがとう」
パミラは私が幼いころからずっとそばにいてくれた。いつも私を守ってくれたんだから。




