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38デュークにばれる(メリンダ)


 部屋に入るとデュークに話があると言って引き留めた。

 彼はいつになく他人行儀だった。

 「メリンダ様体調はいかがですか。だいぶお腹も目立ってきましたね。お元気そうで何よりです」

 「そんな事よりデュークお見合いしたの?」

 私がこんな事を言える権利もないくせに…でも、どうしても聞かずにはいられない。


 デュークが私を見て紺碧色の瞳が泳いだ。

 「はい、父から見合いをしろと言われて…メリンダ様には子供が生まれます。私もそろそろ気持ちを切り替えるべきだと思いまして」

 「そんな…デューク私を捨てるの?」

 「捨てるって?でも、メリンダ様は人妻で子供も生まれるんですよ。いくら私が貴方を慕っているからってもう無理でしょう?いつまでもこんな気持ちを持っていてはいけないんです」

 私はデュークの手をぎゅっと掴んだ。

 真実を話したい。でも、もしそれが夫に、家族に知られたら?

 私が浮気をしていたとばれたら?

 ううん、私はいい。どんな罰でも受け入れる。

 デュークはこの家からも追い出されるかもしれない。

 私達は永遠に引き裂かれるかもしれない。


「でも、デューク…」

 デュークの瞳が私を食い入るように見つめる。私は動揺した。

 デュークがこの手から去ってしまうと思うと…

 デュークと離れたくない。

 でも真実を告げればふたりは引き離されるかもしれないのだと…

 自分勝手だ。

 抑えきれない感情が溢れる。


 私の瞳から涙の雫がこぼれた。

 「メリンダ様…まさか、お腹の子は俺の?」

 デュークが何かに気づいたのか眉間にぎゅっとしわを寄せた。

 デュークは私の手を痛いほど握り返した。

 「まさか…まさか…メリンダ?いいから本当の事を話してくれ!」

 デュークの顔はまるで地獄の悪魔にでも出会ったかのように引きつれている。

 私は俯いて何も言えない。

 「……」

 喉の奥が何かに絡みつくように締め付けられどうしても本当の事が言葉にならない。

 「メリンダ。いいから言うんだ!」

 「デューク…わたし…わたし…あなたの子供を妊娠したの」

 「あの日の子か?」

 私はこくんとうなずく。

 「どうしてもっと早く言わなかった。俺が逃げ出すとでも?」

 「ううん、そんな事よりあなたが責められると思って…だってここでの仕事も失うわ。騎士団にだっていられなくなるかもしれない。私はあなたの人生をめちゃくちゃにするのよ。だから…ぐすっ、ううっ、うっうっ…」

 とうとうこらえていた涙は決壊した。

 デュークは私を腕の中に抱きしめた。

 「ばか!そんなのどうだっていい。俺は君を愛してるんだ。ネイトと離縁して俺と結婚してくれ」

 「ぐすん…そんな事をすればあなたはどうなるの?」

 「何を言ってるんだメリンダ。子供の父でもない男とこのまま結婚をつづける気か?そんなの俺は許さない!」

 「だって…デューク」

 「俺が悪い。いいからメリンダは何も心配するな。騎士団もやめる。ここを首になってもいい。だからメリンダは俺の子供を産むことだけ考えて」


 

 「メリンダ様、こうなったら若旦那様に本当の事を話しましょう。すべて私が仕組んだことです。悪いのは私です。それに若旦那様はメリンダ様と離縁したいのです。きっと離縁はすぐに出来るはずです。それに慰謝料の話もうまく行けば穏便に済ませることが出来るかも知れませんし…」そうパミラが声を上げた。


 「パミラったらそんなにうまく行くはずがないわ。私が浮気したのよ。私が悪いのよ。ネイトだってパパだって許してくれないわ」

 デュークは私の真横で私を抱き寄せたまま話をする。

 「ちょっと待ってくれ。パミラが仕組んだってどういう事だ?」

 パミラははっとして俯く。

 「違うのデューク。パミラは悪くないの。私はネイトと関係を持っていなかった。妊娠が分かって何とかしなくてはと思ったの。それでネイトを誘って」

 「それであいつと寝たのか?」

 デュークの顔が歪む。

 私はデュークの頬に手を添える。

 「ううん、違うの。誘ったのは私。でも、事をしたのはパミラなの。私達は真っ暗にした寝室で入れ替わった。パミラがベッドの中に入って私はベッドの端にいて問いかけには私が応えた。だからネイトは私と事を成したと思ってる」

 「なんてことを…」

 「だって、そうでもしなければ私が妊娠したことをどう説明できる?だから」

 デュークは驚くと困惑した顔をして私を見つめた。

 「メリンダ聞いて。こうなったらきれいごとは言わない。俺達は悪いことをした。本当の事を話そう。すべてが片付いたらふたりとも平民になるかも知れない。もし許してくれないってなったら駆け落ちしよう。メリンダ、俺は一生懸命仕事をする。そして君と子供を養うって約束する。決して贅沢は出来ないかもしれない。でも、嘘で誤魔化して生きて行くよりいいだろう?君は潔癖症なんだろう?心がどす黒い潔癖症なんておかしいだろう」

 美しい紺碧色の瞳には嘘はないとはっきりわかった。

 でも…

 私は不安を言葉にする。

 「デューク。私にそんな生活出来ると思う?」

 「ああ、メリンダなら出来ると思う。だってこんな博打が出来たんだぞ。俺を信じてくれ」

 デュークは私の頬を撫ぜ上げる。

 「ええ、デュークあなたを信じてるわ」

 そしてデュークは嬉しそうに私にキスをした。


 「じゃあ、今から公爵に話をしよう」

 「待って、待ってよ。今から?すぐに?まだ気持ちの整理もついてないのよ」

 「メリンダ。もう、すべてを明らかにする覚悟をして。こうなったら一日でも早い方がいいと思う」

 「そんな…パパ。相当荒れると思うわ…」

 「ああ、俺は殴られるだろうな。でも、それは俺達のせいだろう?」

 「わかってるわ。ネイトにも悪い事をしたって思ってる。早く別れれば良かったのに…私は周りの目ばかり気にしてあの人を苦しめてた。ううん、私を守るためにばかな事をした。こんな結婚最初から無理だったのに」

 「まあ、それは公爵にも少しは責任がある。貴族でもそんなやり方に順応できない人間もいるって事だ。まあ、そんな奴ははみだし者って事になるけど」

 「私は間違いなくはみだし者よ」

 「だったらはみだし者同士だ」

 「そうね。私みたいな人間は貴族社会の中では生きていけないって思うわ」


 「メリンダ様私も一緒に謝ります。どうか勇気を出して」

 パミラが最後の背中を押してくれた。

 私達はパパの書斎に行く事にした。




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