37実家に帰りました(メリンダ)
私は怒りに任せて実家に帰った。
義理母様は一方的に私が悪いと言った。
ふん、だからどうだと言うのよ。私はネイトの妻なのよ。
ミーシャは妾じゃない。それなのにみんなミーシャ、ミーシャって。
そんな暇があるなら私の心配でもするべきなのに…
私は潔癖症のせいで使用人からも嫌われていたし侯爵邸で出される料理も嫌いだった。
だから嫌われても仕方ないと理解はしているつもりよ。
でも、あからさまな態度はやめてほしいわよ。
それにネイトだってそうよ。私は嫌なのに我慢したのよ。
こっちは悪阻が終わったと思ったら今度はお腹が張るし…ああ、もうイライラすることばかりなのに私の癪に障ることばかりするんだから。
ああ、ミーシャが妊娠したせいですべてが台無しだわ。
でも、まあいいわ。実家に帰ればデュークと会える。
私にはやっぱりデュークしかいないもの。
デュークの子を身ごもったと分かった時ものすごくうれしかった。
でも、本当の事は絶対に言えない。
一度妊娠が分かって実家に帰った時のあのデュークの顔が忘れられない。
最初に顔が強張って…でも、それは一瞬で消えた。
あの時の言いようのない苦しみは私の心をずっとずっとずっと押しつぶして行った。
デュークに嘘が押し通せるか私にはもう自身がない。
それでもデュークのそばにいられると思うとほっとする自分がいる。
私は酷い女だと思う。ううん、そんな事ずっと前から分かっていた。
これから先の事を考えると頭痛がして来る。
私はこの後どうするつもりなんだろう。
今はそこまで考えたくない。
それにあのミーシャの子供はどうするの?
私はそこまで考えると背筋に震えが走り考える事をやめた。
私は実家に帰るとママに言った。
「ママ、私、子供が生まれるまでここにいるから」
「まあ、ガストン侯爵家はどう仰ってるの?」
「義理母様が実家に帰れって仰ったのよ。だから問題ないわよ」
「それならいいけど…まあ、一度ご挨拶に行こうと思ってたのよ。後で手紙を書いておくわ。それで調子はいいの?」
「まあまあよ」
「それなら良かった。少しお腹が膨らんで来たわね。悪阻はもうよくなったんでしょう?少しは食欲も出た?」
「ええ、やっと食事もできるようになったの。今まではフルーツばかりだったのよ。それよりデュークはどこ?」
「デュークはしばらく騎士団の定期練習でいないのよ」
「ああ、年に一回更新試験の…なんだ。つまらないわ」
そう言いながらもほっとする。
「メリンダ。あなたは夫がいるのよ。デュークは独身の男性。あまり親しくするのはやめなさい。それにデュークはお見合いをしたって言ってたわ。もう25歳になるんだものやっと結婚する気になったのよ」
「うそ…デュークが結婚するなんてあり得ないわ。だってデュークは私を…」
「メリンダ様、その辺で少し休めれた方がよろしいかと」
そう声をかけたのはパミラだった。
「あっ、そうね。パミラ。少し疲れたわ。ママ少し休むから」
「ええ、無理しないで…夕食は何がいい?メリンダの好きな物にしましょう」
「そうね…エビグラタンがいいわ」
「じゃあ料理長に頼んでおくわ」
「ええ、ママありがとう。やっぱり家はいいわぁ」
私は息が詰まりそうな侯爵邸から実家に帰ったしほんとはデュークに会うのが恐かったから少し気分が良くなった。
私は部屋に入るとパメラに話を振った。
「パメラはどう思う?デュークがお見合いなんて…あり得ないわよね」
「さあ、それはわかりません。奥様に何か言われてそう仰ったのかもしれませんし、とにかくデューク様がお帰りになって確かめられたらよろしいではありませんか。それまではゆっくり過ごされたらよろしいのでは?」
「ええ、そうね。疲れたわ。少し横になるから」
デュークがお見合いなんて…まさかね。あるはずがないわ。
そして夕食にはパパもデュークも帰っていた。
「パパ、しばらくお世話になります」
「ああ、体調はどうだ?少しお腹が出て来たな。お前もやっと一人前だなメリンダ」
パパは子供が出来て私たちがうまく言っていると思ったらしく嬉しそうに話をした。
「もう、パパ。私はとっくに大人なのよ」
「何を言ってるんだ。あれは嫌だこれも嫌だってわがままばかり言ってるじゃないか。子供が生まれたらそんなわがままは言ってはいられないんだからな。これからは潔癖症だなんて言っていられないんだぞ。わかってるだろう?それにネイトとも仲良くしないと、子供が生まれるんだ」
パパに見透かされたみたいで気分が悪くなる。
「わかってるわよ!」
私はそれ以上聞きたくないとばかりに席に着いた。
頼んでおいたエビグラタンは絶品で完食してさっさと部屋に帰ることにした。
「じゃあ、パパ、ママ、私は先に休みます。デューク部屋まで連れて行って」
ダイニングルームの外で控えていたデュークを呼んだ。
彼は声が聞こえるとすぐにダイニングルームまで入って来て私の手を取ってくれた。
「失礼しますメリンダ様」
「ありがとうデューク」
私はいつものわがままなメリンダを演じる。




