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第51話 義妹は初音さんみたいになりたい。

 俺は真雪と一緒に、商業施設内にあるフルーツパーラーにやってきた。

 一等地のデパートにも出店しているとかいう、お高い店だ。

 俺たちは二人用のテーブル席に座っていた。

 

「んー、幸せ……!」


 向かい側に座る真雪は、満ち足りた表情でフルーツパフェを頬張っている。

 メロンが惜しげもなく飾るように盛り付けられたそのパフェの値段を見た時は驚愕した。

 お礼とは言え、痛い出費だ。

 さっき買った俺のシャツに近いお値段だったからな。

 おかげで俺は一番安いコーヒーしか頼む余裕がなかった。


「お兄ちゃんのお金で食べるスイーツはおいしいなあ。こんなことならもっと早くから奢ってもらえば良かった」


 もっと早く、とは俺が失踪して戻ってくる前からという意味だろう。

 真雪が俺と日常的に会話するようになったのも、甘いものを奢るようねだってくるようになったのも、俺が異世界から帰ってきて以降の話だ。


「真雪って、最近は話してくれるようになったよな」

「……嬉しい?」

「もちろん、無視されるよりはね。出費が痛いのも確かだけど」

「ふーん、そうなんだ」


 真雪は小さく笑みをのぞかせながら、クリームとメロンが載ったスプーンを口に運んだ。

 高くてなかなか手が出なかったスイーツを食べているからか、真雪の機嫌は良さそうだ。

 

「私ね、お兄ちゃんが失踪した時に後悔したんだ」

「後悔?」

「うん。私が中学に入った頃から、反抗期……みたいな感じでお兄ちゃんを無視してたけど、もっと話しておけばよかったって。別に、その……嫌いになったわけじゃないし」

「そうだったのか」


 嫌いじゃないという言葉を妹から直接聞けたのは嬉しいな。

 それにしても、今日の真雪はやけに自分のことを素直に話してくれる気がする。

 

「だからもしお兄ちゃんが帰ってきたら、後悔しないように行動しようと思ったんだけど……」

「けど?」

「結局、お兄ちゃんにとって私は妹でしかないんだなって分かった」

「……? ああ、真雪は俺の妹だよ」


 たとえ生みの親が違ったとしても、俺と真雪は兄妹だ……という思いを込めて、俺はそう口にする。

 が、真雪の反応は微妙だった。


「うーん、そういう意味じゃないんだけど」

「じゃあどういう意味だ」

「ねえお兄ちゃん。私が初音さんみたいになりたいって言ったらどう思う?」


 真雪はおもむろにそんなことを聞いてきた。

 話が少し噛み合っていないというか、謎かけのようだ。


「まあ……真雪が初音さんに憧れるのは分かる。初音さんはとんでもなく美少女だし、頭もいいからな」

「あ、そこでのろけるんだ……」


 真雪は俺を呆れたような目で見てきた。

 どうやら求めていた答えとは違ったらしい。

 真雪はやがて、ため息をついた。


「はあ……うん。今は妹でいいや。私、初音さんのことも好きだし」


 真雪はどこか脱力したような笑みを浮かべた。


「よく分からないけど、初音さんと真雪の仲が良さそうで何よりだ」

「あ、そう言えば最近はラインで雑談したり、受験勉強中に分からない問題のことを教えてもらったりもしてる」

「へえ、そうなんだ」


 相槌を打つ俺に対し、真雪はパフェを食べ進めながら語る。


「はむ……うん。代わりにお礼もしてるけど」

「お礼って?」

「お兄ちゃんの昔の写真を送ってる」

「え? 昔の写真って、俺が子供の時の……?」

「そうだけど」


 真雪は、何か問題でもあるのかとでも言いたげな顔をしている。


「いつの間にそんな写真を手に入れたんだ」

「お父さんが撮った写真のデータを回収した」

「そんな話、初めて聞いたんだけど……」

「まあ、言ってないから」

「初音さんからも知らされてない」

「ってことは……私と初音さんの、二人だけの秘密ってやつ?」


 真雪はドヤ顔を見せた。


「……でも俺は、毎日のように初音さんと会ってるけどね」

「む……」


 つい張り合ってみたら、真雪の表情が不満そうに変わった。


「……私も初音さんと遊びたい」

「いや、真雪は受験生だから遊ぶ余裕はないでしょ。夏期講習も忙しいだろうし」

「今日みたいに、午後が空いてる日はあるし」


 真雪はそう言って食い下がってくる。

 

「だったら、初音さんを誘ってみたらいいんじゃないか?」

「えっと、それは……」


 真雪は言いにくそうに目を逸らす。


「……?」

「初音さんと二人きりだと照れるから、お兄ちゃんも一緒がいい」


 真雪は俯きながらボソリと呟いた。

 なるほど。

 やっぱり今日の真雪はいつもより素直な気がする。

 でも……カップルに妹がついてくるって気まずくないんだろうか。

 そんな考えが一瞬頭をよぎってから、思い直す。

 初音さんは、真雪も一緒がいいと言ったら普通に喜ぶだろうな。

 夏休み中のどこかで、初音さんを誘ってみよう。

この兄、初音さんの前だと察しがいいのに妹の前だと鈍感だ……。

やっぱり相手が妹だからなのか。

それはそれとして、次回からは以前予告した通り、旅行編に入ります!

基本は楽しい旅行ですがトラブルも……?

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