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第46話 高校一の美少女は家庭的な一面をアピールする。

 ホームルームが終わった。

 いよいよ夏休みの始まりだ。

 帰り支度を整えて、初音さんに話しかけようかと思っていた時。


「市ヶ谷さん、この後カラオケに行かない?」


 初音さんが背の高い女子に話しかけられていた。

 普通科であるこのクラスに属していながらバスケ部でレギュラーを務める、汐留さんだ。

 球技大会の時に初音さんが仲良くなったクラスメイトの一人だ。

 汐留さんのそばには委員長や他の女子もいた。


「うーん……楽しそうだけど、今日は遠慮しておくね。八雲くんと一緒にお昼を食べる予定があるから」 

「あー、それじゃあ仕方ないか」


 汐留さんは少し残念そうにしながらも、納得する。

 近くに立つ委員長が、初音さんとその隣の席で成り行きを見守っていた俺を交互に見た。


「お二人でどこかに食べにいくんですか?」

「ううん。私の家で一緒にご飯を作るんだ」


 初音さんが得意げに胸を張ると、その話を聞いた女子たちの視線が俺の方に向いた。

 二人で一緒に料理するとか、めちゃくちゃ仲良いじゃん、とか言われている。 


「やはりお二人は仲が良いですね……私も予定変更して椎名くんと過ごすという手も」

「えーっ、今更それは無しだよ委員長」


 思案する委員長に、汐留さんが抗議の声をあげた。

 

「……まあ、先約を優先するべきですよね」

「そうそう。でも良いなー、二人とも彼氏がいて。私も誰かいい人いないかな」


 汐留さんが何気なく呟いた、その時。

 初音さんは、汐留さんから俺への視線を遮るような位置に割って入った。


「や、八雲くんはダメだよ……?」

「あはは、いやいや。心配しなくても市ヶ谷さんの彼氏を取ったりしないって」 


 汐留さんは陽気な笑みを浮かべた。

 すると初音さんは元の姿勢に座り直した。


「む……それならいいけど」

「それにしても……市ヶ谷さんって、話す前はもっとツンツンした感じの人かと思ってたけど、本当はかわいい性格してるね」

「そうなんだ……? それって褒められてる?」

「まあ、どちらかと言えばね。それじゃ、市ヶ谷さんは彼氏くんと仲良くね!」


 そう言って、初音さんの友人たちは別の女子の元へ声をかけに行った。


「良かったの? カラオケ行かなくて」

「今日は八雲くんとの予定が優先! みんなとは、また違う時に遊びに行けばいいし」


 俺の問いに、初音さんははっきりとした口調で答えた。

 それにしても……この一学期で、初音さんはすっかりクラスに馴染んだな。

 初音さんは憧れていた青春を手に入れつつある。

 そう思うと、なんだか自分のことのように嬉しいな。



 俺と初音さんは学校を出た後、近所のスーパーに向かった。

 初音さんいわく、オムライスを作るための食材が不足しているとのことだ。

 自動ドアを通り抜けて、どこかで聞いた覚えのある音楽が流れる賑やかな店内に入る。

 買い物かごを手に取って、俺は初音さんに聞いた。


「さて。今日は何を買いに来たの?」

「うーん、卵とか玉ねぎとか。あとは鶏肉もほしいかな」


 初音さんは慣れた様子で、野菜売り場の方に向かっていく。

 店内を歩きながら必要な材料を次々とかごに入れていく初音さんの後を、俺はただついていくだけだ。

 途中、初音さんがふと足を止めた。


「あ、サラダ油が安い。確かちょうど切れかけだったから、買い溜めておこうかな……ってお一人様ひとつ限りだった!」


 サラダ油が陳列された棚の前で足を止めた初音さんは独り言を呟いた後、肩を落とした。


「今日は俺もいるから、二つ買えるんじゃない?」

「あ、そっか。今まではぼっちだったから、その考えが抜けてたよ」


 初音さんはぽんと手を叩いてからサラダ油を二つ手に取ると、俺が持っている買い物かごに入れた。


「八雲くんがいると良いことがあるね?」

「良かったら、これからも買い物の頭数くらいにはなるよ。荷物持ちもするし」


 機嫌の良さそうな初音さんに、俺はそう申し出た。

 

「良いの?」

「もちろん、それくらいのことは任せて」

「ふふ、八雲くんは家計の味方だねえ」


 初音さんからよく分からない褒め方をされたけど、喜んでいるので良しとしよう。

 

 その後、俺たちはレジに向かって会計を済ませた。

 

「ごめんね八雲くん、払ってもらっちゃって」

「いつもお世話になってるし、今日もご馳走してもらうわけだし。当然のことをしたまでだよ」

「ご馳走してもらうって、今日は二人で作るんでしょ?」

「それでも、場所は初音さんの部屋のキッチンを借りるわけだから」


 俺と初音さんは会話を交えながら、袋詰めをする台の方に移動する。


「色々とありがとう、八雲くん」

「どういたしまして」


 俺は返事をしながら、かごを台に置く。

 すると初音さんは、鞄から布製の買い物袋を取り出した。


「買い物している時から思っていたけど、初音さんって家庭的だよね」

「そうかな? 八雲くんにアピールできてる?」

「アピールって……まあ、うん」

「へへ、良かった」


 はにかむ初音さんの言動は、威力絶大だった。

 いつまで経っても慣れない笑顔を見ていて、俺は思う。

 家庭的な一面をアピールして、初音さんは俺に何を求めているんだろう。

 色々と想像してしまうのは、俺の考えすぎだろうか。

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