第41話 高校一の美少女は彼氏に満足させてほしい。
朝に更新できなくてすみません!
無言でベンチに座ったまま、しばらく景色を眺めていると。
「そう言えば、異世界の話を聞いていて思ったんだけど」
初音さんが沈黙を破った。
「もしかして私のお父さんとお母さんも、八雲くんみたいに異世界に転移した可能性はないのかな?」
「どうだろう……異世界にいた時には、俺以外の転移者の話は聞いたことがなかったけど、可能性はゼロじゃないかな」
俺という実例が存在している以上、あり得ない話じゃない。
しかし、普通に考えたら他の理由で失踪している可能性の方が高いように思える。
そして、仮に初音さんの両親が異世界に転移していたとして、今も生きている保証はない。
だから俺は、その可能性に気づいていても自分から口に出さなかった。
「そっか。実は異世界で八雲くんと会ったりしていたら……なんて思ったりしたけど、そんなことはないか」
「期待に添えなくてごめん」
「八雲くんが謝るようなことじゃないよ」
「そうかな」
「うん、私が勝手に期待しただけだし。それに……どこにいたとしても、二人が幸せに暮らしていたら、また会えることだってあると思うから」
初音さんは希望的な言葉を口にする。
再会できる日を望んでいるけど、過度な期待はしていない。
初音さんの口ぶりからは、そんな様子が窺えた。
「俺もできる限りのことはしてみるよ」
「できる限りのことかー……そういうことなら、これからも一緒にいてくれると嬉しいな」
「それは、うん。もちろんだけど」
初音さんが求めてきたことは、俺が考えていた内容とは少し方向性が違った。
知り合いに二つの世界を渡り歩く情報屋がいるから、初音さんの両親について何か知らないか聞いてみるつもりだったんだけど。
まあ……それはそれでやるとして、有力な情報が得られたらその時に伝えたらいいか。
その前に話して、ぬか喜びさせることになったら申し訳ないし。
「へへ、ありがとう。じゃあくっついてもいい?」
初音さんは嬉しそうに言うや否や、俺の腕に抱きついてきた。
こうして初音さんがスキンシップを取る理由はいくつかあるけど、今は甘えたい時だ。
「まだ返事をしてないんだけど」
「八雲くんはかわいい彼女を拒んだりしないでしょ?」
「まあ、うん」
正直、初音さんにくっつかれるのは俺にとって役得でしかないので大歓迎だ。
「八雲くんにくっついていると、私は一人じゃないんだって実感できて、安心するなあ……八雲くんって実は、私に安らぎを与えるスキルを異世界で手に入れてきたとか?」
「そんなスキルは持ってないけど……初音さんが安心できるなら、満足するまで好きにしていいよ」
大好きな彼女に甘えられて気を良くした俺は、ちょっと調子のいいことを言ってみた。
すると初音さんは、俺の顔を見て目を瞬かせる。
そしてすぐに、初音さんの顔が真っ赤になった。
いや、全身が火照っている気配すら感じた。
どうしたんだ……?
疑問に思っていると、初音さんが口を開いた。
「八雲くん、気前がいいね? そういうことなら、宣言通り私を満足させてくれると嬉しい……かな」
初音さんはじっと俺の目を見て、視線を交えようとしてくる。
これは。
完全にその気になっている時の初音さんだ。
どうしてこうなった。
あ、俺のさっきの発言のせいか……?
初音さんはあの言葉を、俺からの誘いだと捉えた……とか。
「八雲くん……?」
逡巡する俺を催促するように、初音さんは腕に抱きつく力を少しだけ強くした。
柔らかい二つの温もりの感触が、より鮮明になる。
「……どこか、二人きりになれる場所を探そうか」
初音さんにここまでされて、チョロい彼氏である俺が今更引き下がれるはずもなかった。
制服姿で外泊するのは難しいだろうし、程々のところで切り上げる必要がある気がするけど……初音さんは満足してくれるだろうか。
夜の話はまたどこかで番外編的な形で公開するかもしれません。
次回から新章に入っていきます。