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第37話 高校一の美少女は席替えを望まない。

 週明け。

 俺は今日も初音さんと登校した。

 下駄箱の前でいつものように靴を履き替えていると。


「おはようございます。市ヶ谷さん、上野くん」

「おはよう」


 背後から挨拶された。

 委員長と椎名だ。


「おはよー。今日は二人も一緒なんだね」


 初音さんが振り返って挨拶する。


「あ、はい……おかげさまで、付き合うことになりまして」


 委員長と椎名は目を合わせようとして、パッと逸らした。

 付き合いたてのカップルって、本来こんな感じだよな。

 俺と初音さんは、ちょっと特殊だった気がする。

 まあ、お互い満足していればそれでいいと思うけど。


「ありがとう。二人のおかげでただの幼馴染を脱却することができたよ」


 椎名がお礼を言ってきた。


「いや、別に俺たちは何も……」

「うんうん。ある意味、いつも通りに振る舞っていただけだし」


 俺と初音さんは揃って否定する。

 謙遜ってわけじゃない。

 結局こういうのは、当人たちの気持ちの問題だからな。

 

「はは、そうか。だとしても……よければその内、四人でどこか行かないかい?」


 椎名がそんな提案をしてきた。

 それはつまり、ダブルデートってやつだろうか。

 初音さんと二人で行けないような場所に行きたい時は、うってつけかもしれない。


「二人きりもいいけど、たまにはそういうのもアリだね?」

「うん、そうだね」


 初音さんの言葉に、俺はうなずく。


「それはよかった。じゃあ上野くん、その時のためにラインを交換しておかないか?」

「あ、うん」


 俺は言われるがままスマホを取り出し、椎名と連絡先を交換した。

 

「似た境遇の友達がいるとやっぱり心強いな。これからよろしく」


 椎名が気さくにそう言ってくる。

 あれ。

 今更気づいたけど。

 俺って、初音さん以外のクラスメイトと連絡先を交換するのは初めてだ。

 初音さんが遅咲きの高校デビューを果たした傍らで、俺は友達いなかったんだよな。

 なんだろう。

 クラスの片隅で過ごす陰キャから、また一歩前進した気分だ。



 その後。

 2年3組の教室に到着してから、少しして。

 教室内は椎名と委員長が付き合い始めたことについての話題で持ちきりだった。


(始業前に用を足しておくか……)


 自分の席に座っていた俺は立ち上がった。

 賑やかな教室の狭い通路を縫うようにして、俺は出入り口の方へ向かう。

 その中で、陽キャの男子グループに質問責めにあう椎名の前を通りがかった。


「ああ、そうだ。実は上野くんにも協力してもらったんだよ。な、上野くん」


 自分の席に座る椎名は、周囲に立つクラスメイトの合間から俺に話しかけてきた。


「また上野か」

「上野くん自身もかわいい彼女がいるし、何かコツがあるんじゃないか……?」

「もしかしたら、上野と仲良くしておいたら美少女と付き合えるかもしれないぞ」


 クラスの男子たちが、不純な動機で俺に注目した。

 さっきまで椎名を囲っていたのに、今度は俺に詰め寄ってくる。

 調子のいい連中だ。


「なあ上野くん、連絡先教えてくれよ。それと彼氏募集中の美少女を紹介してくれ」

「連絡先は別にいいけど……そんな知り合いはいないよ」

「本当か? 美少女の2人や3人くらい囲っているんじゃないか?」


 彼らは一体俺に何を期待しているんだ。

 とりあえず俺は、トイレを理由に教室を出て、その場をやり過ごした。



 その後。

 午前の授業は、テストの返却や解説に時間が割かれた。 

 一時間目は現代文の時間だ。

 教師から名前を呼ばれた俺は教卓に答案用紙を取りに行き、点数を確認する。

 86点。

 現代文は暗記系の科目ではないので完全記憶スキルの恩恵は少なかった。

 その割にはかなり上出来だと思う。


「八雲くん、結果はどうだった?」

 

 席に戻ると、初音さんに話しかけられた。

 答案用紙が返却され、クラス中が一喜一憂している中なので、今なら多少会話していても目立たない。


「86点だから、俺としてはかなりいい方だった。初音さんは?」


 俺は席に座ってから答える。


「私は100点だったよ!」


 初音さんは自慢げに答案用紙を見せてきた。

 見事に正解を示す○しかついていない。

 さすが毎回学年1位を取るだけのことはあるな。


「お互い調子が良さそうだね」

「うん。このままだと、お互いの秘密を話すことになりそうだね?」


 初音さんが不敵に微笑みかけてくる。

 その時、会話を聞きつけた委員長が振り向いた。


「二人とも、授業中なのに随分といちゃついていますね」

「へへ」


 初音さんは特に否定するそぶりを見せない。


「む……私も椎名くんと近くの席だったら良かったんですが……」

「そういえば、席替えって次はいつするんだっけ」

「特に決まってはいませんが……あ」


 委員長は何か思いついたらしい。


「クラス委員長の権限で、席替えを実行してしまいましょう」

「え、私はできればこのままがいいなあ」


 委員長の案に、初音さんは否定的な態度を示した。


「八雲くんもそう思うよね?」

「まあ、うん」


 同意を求められたので、俺はうなずいた。

 窓側の最後尾、しかも隣に初音さんという彼女が座っているこの状況を手放したいと思うわけがない。


「自分たちばかりおいしい思いを……こうなったら、私は心を鬼にします。近い内に決行するので、覚悟しておいてください」


 俺と初音さんの意見も構わず、委員長は職権濫用することを心に決めていた。

日常的な場面を描いていたらそれだけで1話終わってました。

前回予告していた内容まで到達しませんでしたが、次回こそはテストの順位が判明しつつ、ついでに席替えしたりもします。

初音さんの謎……というか生い立ちについて、次回から少しずつ触れていきます。

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