表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/52

第35話 恋人たちは今更初めてのキスをした、そのあとで。

 駅前のショッピングモールから少し歩いて、初音さんの部屋に来た。

 テスト期間中は来ていなかったとはいえ、前回から2週間程度しか経っていないのに久々の気分だ。

 初音さんは部屋の明かりをつけると、はっきりとした足取りでベッドの方に向かう。

 その縁に腰を下ろした。


「ほら、八雲くんはここに座ってね」


 初音さんはぽんぽんとベッドを叩いて、自分の隣を示す。

 俺は促されるまま、少しだけ初音さんと間を空けて座った。

 

(この状況であまり近くにいすぎると、すぐに理性が保てなくなるからな……)


 そう考えていた俺の思惑は外れた。

 初音さんがすかさず俺の方に距離を詰めてきたからだ。

 肩と肩、腕と腕とが触れ合った。


「さて。二人きり、恋人の部屋でベッドに座っているこの状況。八雲くんは私に何をするべきだと思う?」


 初音さんは俺の太ももに手を置いて、真剣な眼差しで問いかけてきた。

 以前の俺と初音さんだったら、どちらかが我慢できなくなって押し倒している頃合いだ。

 今までだったらそれで二人とも満足していたんだろうけど、この場では正しい答えじゃない。

 それくらいは、俺でも分かる。


「キスをしろ……ってこと?」

「正解!」


 初音さんは満足そうにうなずいた。


「私たちは、その……色々順番がめちゃくちゃだったから、お互い違和感を持ってなかったかもしれないけど。多分普通のカップルはこういう時、まずはキスからすると思うんだよ」

「まあ……一般的にはそうかもね」

「うん。だから、その……」


 初音さんは俺の太ももに置かれた手を、どこかもどかしそうに擦らせてくる。


「俺たちもしてみよう……ってことだよね」

「う、うん……! というわけで、八雲くん。さっそくお願いします」


 初音さんは背筋を正して、前髪を弄り始める。

 やけに緊張している様子だ。

 これ以上初音さんの準備が整うのを待っていると俺の方まで緊張してきそうだ。

 俺は言われた通り、さっそく行動に移すことにした。

 初音さんの腰に、手を回す。


「わ……!」


 初音さんの身体がびくりと跳ねた。

 すっかり顔を赤くした初音さんが、驚きと期待の入り混じった視線を向けてくる。

 なんだろう。

 もっと先のことは既に何度もしたはずなのに、新鮮な気分だ。

 俺は初音さんを抱き寄せる。

 お互いの顔を近づけて、目の前から改めて初音さんを正面から見た。

 改めて、とんでもない美少女だと思う。

 アイドルか何かだと言われても納得できる。

 実際、高校で一番の美少女と称されているし。

 そんな女の子が自分の恋人で。

 なぜかこの部屋で一人暮らしをしている。

 いじめっ子に反撃するために飛び降りてみようとしたり、俺をいきなり押し倒してみたり。

 色々掴み所がないのは相変わらずな気もするけど。

 いつの間にかすっかり彼女に惚れ込んでいて。

 初音さんのことを考えない日はないほどになっていた。


(俺って、初音さんのこと好き過ぎるな……)


 初音さんの潤んだ桜色の唇が、やけに魅惑的に見える。

 そのまま俺は、吸い寄せられるように口づけをした。

 触れ合わせるだけのキスだ。

 しかしそれでも、他のことでは得難い満足感に包まれた。


「……キスって、思ったよりもドキドキするね?」


 照れた様子で口元に手を当てる初音さんだけど、それでもニヤニヤが隠し切れていない。


「あー……うん」


 初音さんのこんな表情を独り占めできるなんて、俺は贅沢な人間だと思う。


「ねえ、八雲くん」


 見惚れていた俺の名を、初音さんは呼びかけてくる。


「どうしたの、初音さん」 

「八雲くんとキスできて嬉しいし、幸せだけど……」


 初音さんは言葉の割に物足りなさそうな様子だ。


「けど?」

「……もっと大人のキスもしてみたい、です」


 初音さんはなぜか、かしこまった口調でねだってきた。

 正直、俺もしてみたい。

 一度してしまったらもう、躊躇はない。

 なので俺は、もう一度初音さんにキスをした。

 

「……!」


 初音さんの舌が俺の唇をなぞってくる。

 俺はそれに答えるように、自分の舌を初音さんの舌に触れさせた。

 お互い探りを入れるように、ゆっくりと舌を絡め、深く口づけをする。


「ふぁ……やくもくん……」


 吐息交じりに、初音さんが俺の名を呼ぶ。

 それを境に、俺たちはより深く、混ざり合うようなキスをした。


(最初にしたのとは、段違いの快感だ……)


 やがて息継ぎが必要になった俺たちは、そこでようやく互いの唇を離した。

 息がかかるほどの距離で、初音さんと視線を交わす。

 火照った顔の初音さんは、少し呼吸を乱していた。

 そんな表情が艶かしくて、普段のかわいらしさとのギャップに、惹きつけられてしまう。

 俺が魅入られている中。

 初音さんは息を整えてから、言葉を発した。


「ふー……これ、頭がふわふわするね?」

「確かに。まだボーッとしてるかも」


 俺は初音さんに同意した。


「それにしても、すごいなあ……」


 初音さんはポツリと呟く。


「すごいって、何が?」

「だって……普通のカップルはこんなに気持ちいいことをしながら、さらにこの先のこともしちゃうんでしょ……?」


 この先のこと。

 それ自体は、初音さんと何度も経験した。

 でも、今交わしたようなキスをしながらは、まだ経験していない。

 だから、してみたらどうなるのか、想像する。


「それは……確かにすごいね」

「うん。だから、八雲くんもしてみたいと思うよね?」


 初音さんはそっと、両腕を俺の首に回してきた。

 抱きつくような姿勢で、囁きかけてくる。

 お互いにテスト期間中ずっと我慢してきたのでいい加減、限界だった。

 初音さんに誘われるまま、俺は約2週間ぶりの行為に及んだ。

次回は事後のいちゃいちゃがメインです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ