第32話 高校一の美少女は委員長と作戦を実行する。
翌週、金曜日。
週明けの月曜日から始まった期末テストはもう最終日だ。
2年3組の教室にある自分の席で、俺は最後の科目を受験している。
一通り問題を解き終えた俺は、最後に答案用紙を見直していた。
程なくして、テストの終了を告げるチャイムが鳴った。
「よーし、そこまで。答案用紙を回収するぞ」
試験官を務める男性教師が、教卓の方からそう告げてくる。
(まずまずの手応えだったな……)
裏向きにした答案用紙を前の席に座る委員長に手渡しながら、俺はそう振り返る。
答案用紙の回収が終わり、教師が教室から出ていく。
途端に教室内が騒がしくなった。
クラスメイトたちが、近くの友人とテストの結果やこの後の予定について話し始めた。
「八雲くん、今回のテストはどうだった?」
隣に座る初音さんも、さっそく話しかけてきた。
「今までで一番良かった自信があるよ」
完全記憶のスキルを使用したから当然だけど、理由はそれだけじゃない。
初音さんと一緒に勉強していたおかげでモチベーションがいつもより高かった。
「ふーん。そんなに私のことが知りたかったんだ?」
初音さんは異なる解釈をしていた。
「まあ、確かにそれもあるね」
目標が落第の回避から50位以内に変わったことで、テスト直前に猛烈な追い上げをしたのも事実だ。
「へー、八雲くんは私のために頑張ったんだ」
「なんだか気になる言い回しだけど、そうだね。元々、補習漬けを回避して初音さんと楽しい夏休みを過ごすために勉強してたから」
俺はテスト勉強を頑張ることにした当初の動機を話す。
初音さんは目を丸くした後。
「そっかー……へへ」
初音さんは頬をほのかに赤く染めて、しおらしくしていた。
基本的に大胆でぐいぐい来ることが多い初音さんだけど、こうやって照れるのもかわいい。
そんなことを考えながら初音さんを眺めていると、おもむろに委員長が振り向いた。
「市ヶ谷さん。お楽しみ中のところすみませんが、上野くんに例の話を」
委員長は初音さんに何やら思わせぶりなことを言った。
「あ、そうだった」
「例の話?」
気になった俺は初音さんに尋ねる。
「八雲くん、今日はこの後予定あったりする?」
「もちろんないけど」
「じゃあテストの打ち上げってことで、みんなでご飯食べたり遊びに行ったりしない?」
初音さんがそんな提案をしてきた。
あの、コミュ障ぼっちだったはずの初音さんが。
複数人で遊びにいく誘いをしてくるなんて……。
俺は初音さんの成長ぶりに軽く感動を覚えていた。
「わかった、俺も行くよ。ちなみにみんなって?」
「委員長と椎名くん」
クラスの中でも俺が話す機会の多い二人だ。
「良かったです。さすがに男子が一人もいないと、あの男を呼ぶのは難しそうでしたからね」
俺の答えを聞いていた委員長は安堵していた。
あの男、とは椎名のことだろう。
委員長と椎名は幼馴染なので、こんな風に気安く呼んでいるのだ。
「で、では椎名くんを呼んできます……!」
席を立つ委員長の声は、妙に上ずっていた。
○
俺たちは四人で駅前のショッピングモール内にあるファミレスにやってきた。
以前もこのメンツで来たことがある場所だ。
高校生の懐にも優しい価格帯のランチを食べ終えた俺たちは、和気藹々と話していた。
と言っても、会話の中心は初音さんと委員長だ。
「あ、椎名くん。ジュースがなくなってしまったので、ドリンクバーから取ってきてもらえますか?」
会話の最中、委員長は椎名にそんなことを頼んだ。
「いいよ。ちょうど俺のもなくなったし」
こういう時、椎名が嫌な顔一つしないのはさすがイケメンだと思う。
「ありがとうございます」
委員長はお礼を言いながら、初音さんに目配せをした。
どうしたんだ……?
と思っていると。
「あ、じゃあ私の分も頼んでもいい? それと八雲くんの分も」
初音さんが便乗して椎名にジュースを持ってくるよう頼んでいた。
「分かった。ついでだし全員分持ってくるよ」
椎名はうなずいて席を立った。
すると委員長と初音さんの雰囲気が変わる。
「さて、人払いはできました。さっそくですが上野くんには、協力してもらいたい作戦があるんです」
委員長がそう切り出した。
俺の隣では、やけに楽しそうな様子で初音さんがこっちを見ている。
どうやら、椎名には聞かれたら困る話がしたいらしい。
次回は打ち上げという名のダブルデートっぽいことをしつつ、クラスメイトの恋を応援するなどします。
ちょっと寄り道と見せかけて八雲と初音もしっかりいちゃいちゃしますのでお楽しみに!