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第30話 義妹は高校一の美少女に攻略される。

 真雪の希望により、俺たちは3人で勉強することになった。

 真雪は勉強用具を俺の部屋に持ってきて、またしても俺と初音さんの間を占拠するように座っている。

 

「その問題はそっちじゃなくてこの公式を使うと簡単に解けるよ」

「なるほど……」


 真雪は初音さんの解説を聞いてふむふむと納得した様子でうなずいていた。

 先ほどからずっと二人はこんな調子だ。

 真雪が時折質問をして、初音さんが的確に答えるというやり取りを繰り返していた。


「最初はお兄ちゃんを監視するために来たのに、普通に勉強になる……」


 真雪は特にはばかることもなくそう呟いた。


「監視ってなんだよ」

「言葉の通り、お兄ちゃんが恋人と二人きりになったら変なことしそうだから、そうならないように見張ってるだけ」


 俺の疑問に対し、真雪は何食わぬ顔で答える。

 俺をなんだと思っているんだ……と言いかけて、冷静になる。

 過去のことを振り返ると、何も言い返せなかった。

 初音さんの部屋で二人きりになる度にしてきたことや、その後朝帰りしたことが具体例だ。


「真雪ちゃんはお兄ちゃんっ子なんだねえ」 


 俺と真雪のやりとりを見て、初音さんはなぜかそんなことを言った。


「べ、別にお兄ちゃんのことなんてなんとも思ってません」 

「俺としても、いつも雑に扱われてる気がするな」


 否定する真雪に、俺も同調する。


「えー。でもお兄ちゃん思いじゃなかったら、帰りが遅い時に頻繁に連絡したりはしない気がするよ」

「確かに、心配されてはいる……のか?」


 俺は初音さんの主張に納得しかける。


「私はこんなお兄ちゃんのことなんか、心配してません……!」


 その横で、真雪は妙にムキになって否定していた。


「ふふ。照れる真雪ちゃんもかわいいねえ」

「かわいいなんて言われても嬉しくないです……!」

「えー、その割には顔が赤いよ?」


 初音さんはよほど真雪のことを気に入ったらしい。

 いきいきとした表情でからかっていた。

 

「あ、赤くないです!」

「うーん、こんなにかわいくていい子を心配させるなんて、八雲くんは罪なお兄ちゃんだ……まあ、私も共犯だけど」

「だから私は、お兄ちゃんのことを心配なんて……共犯?」


 真雪は初音さんの言葉に疑問を抱いた様子だったが、その詳細が返ってくることはなかった。


「うん。だからお詫びってことで、抱きしめてみてもいいかな」


 初音さんがそう言って、両手を広げながら真雪に接近しようとしたからだ。


「だ、ダメです……! しかもそれ、お詫びじゃなくて初音さんがそうしたいだけでしょう!」


 初音さんから距離を取ろうとした真雪は、反対側に下がった。

 そう、俺のいる方に。

 ただでさえ近くに座っていた真雪が、さらに俺の方に移動した結果。

 真雪の背中が俺の胴体にぶつかる。

 小柄な妹は俺にもたれかかって、腕の中にすっぽり収まって座るような体勢になった。


「あー、真雪?」


 俺が真雪を見下ろすと、目が合った。

 なるほど。

 先ほどまでは俺の方からだと表情がよく見えなかったけど、確かに今の真雪は顔が真っ赤だった。


「あ、えっと……あうぅ……」


 こうなることは予想していなかったのか、真雪は言葉を失っていた。

 

「あー、なるほど。私じゃなくて八雲くんに抱きしめて欲しかったんだ」

「ち、違います……!」


 少しだけ落ち着きを取り戻した真雪は、初音さんの言葉をまた否定する。

 そのまま、きっと睨むような視線を俺に向けながら続けた。


「お兄ちゃん……! 今もたれかかってるのはただの事故だし、帰りが遅いと頻繁に連絡することにも特別な意味はないからね!」


 真雪は俺にくっついたまま、念を押すように言ってくる。

 俺を突き放すような言葉を畳みかけてくる義妹だけど、これでも異世界に行く以前の全く会話がなかった頃よりは態度が軟化している。

 だから初音さんの言う通り、真雪なりに俺のことを心配してくれているんだろう。


「真雪、いつも心配してくれてありがとう。それとごめん」

「……そう思うなら、ちゃんと早く帰ってくるか、せめて連絡はして」

 

 真雪は先ほどまで見上げていた顔を俯かせると、それ以上否定はせずに答えた。


「気をつけます……」 


 いい加減、俺もちゃんと反省しないとな。


「私も真雪ちゃんのことをからかいすぎちゃった。ごめんね?」


 俺に続いて、初音さんも真雪に謝った。


「……結果的においしい思いができたので不問にします」


 真雪は相変わらず俯いたまま答えるが、怒ってはいないらしい。

 初音さんにそう答えると、俺の方に体重をかけてきた。



 気を取り直して、俺たちはその後も勉強を続けた。

 真雪は初音さんに質問することでかなり有意義な受験勉強ができたようだ。


「昨日まで分からなかったことがどんどん理解できるようになっていく……初音さんって、頭いいんですね」

「へへ、ありがとう」

「初音さんはいつもテストで学年トップだからな。頭良くて当然だ」

「おお……」


 真雪は素直に感嘆の声をあげていた。


「学力の話なら、真雪ちゃんもかなりのものだと思うよ? この調子で勉強していれば、私たちの高校だって余裕で合格できるよ」

「そうですか……?」

「うん。だから来年は一緒の高校に行けるようにがんばろうね。またいつでも教えてあげるから」

「……ありがとうございます」 

 

 真雪はすんなりお礼を言った。


「意外と素直だな」

「だって、初音さんってなんだかんだで優しいし頭いい上に、かわいくていい匂いもするもん」


 真雪はなぜか少しだけ悔しそうな口調で、初音さんのことをべた褒めした。

 初音さんにぐいぐい来られて辟易しているのかと思っていたけど、案外高評価を得ているようだ。

 甘い物で懐柔したり、勉強を教えたのが良かったんだろうか……?


「へへ。真雪ちゃん、私のことそんなふうに思ってくれてたんだ」

「やけにからかってくるのは気になりますけどね」


 にやにやと嬉しそうにする初音さんに対し、真雪はすました顔で一言付け加えた。



 そこからは3人で黙々と集中して勉強をし、気づけば夕方になっていた。

 そろそろ初音さんが帰る時間だ。

 俺は初音さんを駅まで送ることにした。

 真雪も玄関まで見送りに来ている。


「初音さん……また来てくださいね」

「……! うん!」


 真雪の言葉に、初音さんは満面の笑みで答えた。


「あ、そうだ。真雪ちゃん、連絡先交換しようよ」

「はい、そうしましょう」


 すっかり素直になった真雪は、初音さんに言われてスマホを取り出す。

 二人はラインの連絡先を交換した。


「じゃあお兄ちゃん、ちゃんと初音さんを送り届けてね」

「言われなくてもわかってるよ」

「初音さんみたいないい人、お兄ちゃんにはもったいないんだから。しっかりしないとダメだからね」


 初音さんがこの家に来た時にはどちらかと言えば反抗的だった気がするのに。

 今やすっかり真逆の態度を取るようになっていた。

 どうやら俺と真雪は、兄妹そろって初音さんに攻略されてしまったらしい。

次回は駅までの道でいちゃいちゃしたり、大事なことを話したりします。

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