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第28話 高校一の美少女が家にやってきた。

 週明けにテスト本番を控えた土曜日、お昼過ぎ。

 今日は初音さんが俺の家にやってくる日だ。

 家族には彼女とは言わず、「クラスメイトが来る」とだけ伝えている。

 俺は家の最寄り駅に初音さんを迎えに行った。

 改札口前で初音さんが出てくるのを待つ。

 数分後に電車が駅に到着した。

 程なくして、改札から人がちらほらと出てくる。

 

「あ」


 俺はその中にいた初音さんをすぐに発見した。

 さすがは美少女、人混みの中でもよく目立つな。

 初音さんも俺のことに気づいた。

 笑顔で右手を振って俺の方に向かってくる。

 左手には何やら白い手提げの箱を携えていた。


「あ、八雲くんだ」


 今日の初音さんは私服姿だ。

 部屋着は何度か見たけど、お洒落をしている姿を見るのは初めてだな。

 6月下旬で気温が上がってきたこともあり、初音さんの着る水色のワンピースは半袖だ。

 全体的に落ち着いた雰囲気に見えるけど、肩の部分は少し肌が出ていてどこか大人っぽい。

 

「どうしたの……?」

「すごく似合ってるなと思って」

「そう? 八雲くんが気に入ってくれたみたいで良かった」


 初音さんは嬉しそうだ。


「どころで八雲くんは、なんだか見覚えのある格好をしているね?」 


 そう。

 俺は俺で、いつもより気合の入った服装をしていた。

 以前初音さんに色々着せ替えられた時と同系統の服を買っておいたのだ。

 こういう時のためにまともな服が一揃いは必要だと思ったので、せっかくなら初音さんが褒めてくれた服を選んだ。


「前に初音さんがこういう感じの服装を気に入ってたみたいだから、そのまま着てみた」

「へへー、そうなんだ」

「初音さん、自分の格好が褒められた時よりも嬉しそうにしてない?」

「八雲くんが私の色に染まっているなと思うと、なんか良いなーと思って。もっと頑張って染め上げてみようかな?」


 初音さんはそう言って、悪戯っぽく笑う。


「……」


 俺はその笑顔が眩しすぎて反応できなかった。

 俺はちょろいぼっちなので、初音さんのような美少女がその気になったら簡単にどうとでもできると思う。


「お、これは一本取った! って感じかな?」


 俺の反応を見て、初音さんはますます得意げにしていた。


「そ、それより……その箱は?」


 これ以上からかわれると心臓が持たないので、俺は話題を逸らした。


「八雲くんの妹さんが甘いもの好きって聞いたから、お土産にと思って」

「わざわざありがとう。多分喜ぶんじゃないかな」


 俺と初音さんはそんなやりとりを交わした後、俺の家へ向かった。

 駅から家までは5分ほどだ。

 すぐに到着して玄関のドアを開けると、義妹の真雪がいた。

 

(こいつ……ここで待ってたのか?)


 家族と鉢合わせる前に自室まで連れて行きたかった俺の目論見は外れた。


「お帰りお兄ちゃん。それと隣の人ははじめまして。私は妹の上野真雪です。妹と言っても義理で、お兄ちゃんとはずっと一緒に暮らしてきました」


 真雪は初音さんに対して妙に刺々しい態度で挨拶するついでによくわからないことを言っていた。

 初音さんのことを隣の人呼ばわりはどうなんだ。

 ここは兄として一言注意をしよう、と思ったら。

 初音さんはにこにこしていた。


「はじめまして。私は市ヶ谷初音です。真雪ちゃん……って呼んでもいい?」


 初音さんはツンツンした真雪に対し、親しげに接する。

 少し前までコミュ障ぼっちだったはずなのに、意外だ。


「む……お好きにどうぞ」


 真雪は憮然とした顔をしながらもうなずいた。

 そうしていると、リビングの方から別の人物が顔を出した。


「あらあら!」


 俺の母だ。


「確かに八雲はクラスメイトを連れてくるとは言っていたけど……まさかこんなにかわいい女の子だなんて思わなかったわ」


 年齢の割に若いと言われる俺の母は玄関の方にやってくると、まじまじと初音さんを見ていた。

 同性の友達すら連れてきたことがない俺がいきなり美少女を連れてきたら驚くのも無理はない。

 けど、恥ずかしいからやめてほしい。


「あ、八雲くんのお母さんですか。私は市ヶ谷初音と言います。クラスメイトなのは間違いないですけど、最近は八雲くんとお付き合いさせてもらってます」

「あら、そうだったの! 八雲にもついにそんな人が……だったら最初から言ってくれたらおもてなしの準備をしたのに」


 おおげさに驚く母は、どこか俺を責めるような調子で言ってくる。


「騒がれるのが嫌だから細かい説明しなかったんだよ」


 俺はそう言い返した。

 とはいえ、初音さんをどうやって紹介するか悩んでいた問題は解決したからよしとするか。


「ふふ。おもてなしだなんて、お気持ちだけでも嬉しいです。お礼と言ってはなんですけど、これをどうぞ」


 俺の母のお節介に笑顔で応じた初音さんは、手にしていた白い箱を手渡した。


「まあ、気が利く良い子ね。これは何かしら」

「さっきからもしかしてと思ってたけど、それってあの有名パティシエが経営しているケーキ屋の……!?」


 受け取った母よりも、真雪の方が興味を示していた。


「うん。真雪ちゃんが甘いもの好きって聞いたから、そのケーキ屋で一番有名なチーズケーキを買ってきたんだ」

「チーズケーキって……並ばないと買えない、あの1日限定50個の!?」

「そうそう」

「は、初音さんって良い人なんですね……!」


 真雪は初音さんの手土産に興奮していた……と思ったら。


「はっ! 私は甘いものをもらったくらいじゃ懐柔されませんからねっ!」


 目を見開くと、また初音さんにツンツンとした態度を取った。

 懐柔って、真雪は小姑にでもなったつもりなのか?

 その割には、チーズケーキで簡単に心が揺らいでいた気がしたけど。


「今日はテスト勉強を一緒にするために来てもらったから、そろそろ良い?」


 挨拶をして手土産も渡し終えたところで、俺はそう切り出す。


「いつまでもお客さんに玄関で立ち話させるのは良くないものね。じゃあ初音さん、ごゆっくり」

「お兄ちゃん、変なことしたらダメだからね」


 そう言って母と真雪はチーズケーキを持ってリビングの方に行った。


「やっぱりかわいい妹ちゃんがいて羨ましいなあ」


 どちらかと言えば反抗的だった気がする真雪の後ろ姿を、初音さんは優しげに見ていた。

次回は八雲と初音を二人きりにさせたくない真雪が部屋に入り込んでくるお話です。

果たして真雪は初音に懐柔されずに済むのか……?

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