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第24話 陰キャは高校一の美少女にお持ち帰りされる。

 球技大会において、俺たち2年3組は男子サッカーで優勝した。

 俺は一応ドッジボールにも出場していたけど、そちらでは何もしなかった。

 俺の身体能力で人に向かってボールを投げたら凶器でしかないからだ。

 おかげで特に番狂わせは起きず敗退したが、サッカーの方で大殊勲を立てたので、誰もドッジボールの結果は気にしていなかった。


 その日の夕方。

 クラスの誰かが「球技大会の打ち上げをしよう」と言い出したので、放課後に高校の最寄り駅近くにある焼肉屋に来ていた。

 四人がけの掘りごたつがいくつも並ぶ団体向けの広い個室に、俺や初音さんを含めクラスメイトが多く集まっている。

 かつての俺だったら、学校行事の打ち上げなんて絶対参加していなかった。

 今回は初音さんが行きたがっていたのと、他のクラスメイトたちからも声をかけてもらったので「せっかくなら」と参加することにしたのだ。

 こういう場でも、なんだかんだで俺は初音さんの隣に座っていた。


「球技大会での健闘を称えて、乾杯!」


 委員長のそんな声に合わせてソフトドリンクで乾杯すると、一気に室内が賑やかな雰囲気になる。

 まずは今日の勝利の立役者として、俺のことが話題に上がった。


「いやー、上野がサッカー部をまとめて抜き去ったのは爽快だったな」


 お調子者の新橋が俺の席の近くにやってきて、話しかけてきた。

 片手にはソフトドリンクを持って、もう片方で肩を組んでくる。

 

「まぐれじゃないかな。またやれって言ってもできないと思う」

「まぐれでもすごいって」


 謙遜している感じではぐらかそうとする俺のことを、他のクラスメイトが持ち上げてきた。


「はは」

「なんだよ上野。あんなに活躍したのに覇気がないな。疲れてるのか?」

「そうかもね。今日は結構試合数が多かったし」


 俺は新橋に話を合わせておく。


「言われてみれば、俺も結構疲れたかもな……」


 新橋は俺の肩から手を離し、ため息をついた。


「じゃ、俺は自分の席で肉食って体力回復してくるわ」

「ああ、分かった」


 新橋が手をひらひらと振って戻っていった。

 あの疲労の原因は、試合数が多かったことだけではない。 

 俺の強化スキルの反動で、通常よりも疲労が溜まっているはずだ。

 しかし幸いにも今日は金曜日。

 土日にゆっくり休んだら週明けには回復しているだろう。


「そう言えば、上野にまとめて抜き去られたサッカー部のエースが怪我をして試合後に揉めていたよな」


 近くの席から、そんな声が聞こえてきた。


「あの人……川崎先輩って、なんであんなに必死だったんだろ」

「どうやら市ヶ谷さんにご執心だったらしいよ」

「なんか私、上野くんと市ヶ谷さんがで二人きりでいる時に、川崎先輩が邪魔しているのを見たって隣のクラスの友達から聞いた」

「そうなの? 市ヶ谷さん?」


 すぐ後ろの席に座っていた女子が、俺の隣に座っていた初音さんに話しかけた。


「え? あ、うん」

「わー、やっぱ市ヶ谷さんってモテるんだ」


 質問した女子が楽しそうな反応を見せる。

 別の女子がまた問いを投げかけた。


「ちなみに、サッカー部のエースである川崎先輩から迫られてどう思ったの?」

「どう思ったって……うーん、特に何も?」


 初音さんはきょとんとした顔で答える。

 しかしその後すぐ「あ」と何かを思い返したような声を発した。


「頭を撫でようとするのはやめて欲しかったかも」

「わあ、興味なさそうだ」

「市ヶ谷さんって上野くん好き好きオーラを常に放ってるから、当然かもね」

「確かに。前はあんまり笑わない人だと思ってたけど、最近はいろんな顔をするよね。特に上野くんの前だと」


 初音さんの話を聞いて、女子たちが盛り上がっている。


「わ、私ってそんなにわかりやすい……?」


 そう言う初音さんは平静を装おうとしている。

 けど、言動から照れている様子が隠し切れていない。


(横から見ると耳も赤くなってるし)


 クラスメイトたちは、俺たちが付き合っているという以前ついた嘘を今も信じている。

 まあ訂正しなかったし、こうして今もしれっと隣に座っているから無理もないか。


「でも私、川崎先輩ってかっこいいと思ってたけど残念だなあ」 

「ストーカーっぽいのは確かに微妙かも」

「あの人怪我したみたいだし、これから大変そうだよね」


 女子たちはそのまま、川崎について話していた。

 それを聞いた俺は、ふと思う。

 川崎が怪我をしていたようだけど、自分に治癒スキルがあったら治していたのかな、と。


(多分、微妙なところだなあ……)


 俺は誰彼構わず助けるほどお人好しじゃない……と思う。


(まあ、そもそも治癒スキルは持ってないから無意味な仮定だな)


 治癒は異世界でも特に心が清らかな人にしか適性がない特別なスキルとして扱われていた。

 そんな感じで、他にも俺に適性がないスキルはいくつかある。

 転移や時間遡行などはその代表例だ。

 俺の持つチートスキルは便利で色々できるが、万能ではない。




 考え事をしている間に、クラスメイトたちは各々のグループでまとまって盛り上がっていた。

 俺のいる席は四人がけだ。

 隣に初音さんがいる。

 向かい側には最初だけ椎名と委員長が座っていたけど、気づいたらどこかへ行っていた。 


「八雲くん、考えごと?」


 初音さんがじーっとこちらを見ている。


「大したことじゃないけど、ちょっとね」

「ふーん。そっか、はいお肉」


 初音さんはお肉を焼いてくれていたらしく、俺の皿に載せてきた。


「ありがとう」


 お礼を言っていて、俺は気づく。

 初音さんの皿には、肉が載っていなかった。


「初音さんは食べないの?」

「私は先にちょっと食べたんだ。あんまり食べると太るから、残りは八雲くんに食べてもらおうと思って」

「なるほど……でも初音さんってけっこう痩せてない?」

「む。それとこれとは別問題なので」


 初音さんは敏感に反応してきた。

 これは触れない方がいい話題に触れてしまったか?


「ごめん、そういうものなんだ」

「別に謝る必要はないけど……」


 初音さんは首を横に振った。

 その後、少し迷うようなそぶりを見せたかと思ったら。

 ゆっくりと、俺の耳元に顔を近づけてきた。


「私が体型を維持しているのは、いつ直接見られても問題ない状態を保つためだから。そのことは覚えておいてね?」


 ぼそり、と吐息が混じった声で初音さんがそんなことを言ってきた。

 くすぐったい感触に襲われて、俺は思わず距離を取る。


「見られてもいいように、って……」

「もちろん見られる相手は八雲くんなので、その辺もよろしく」


 俺が距離を取った分、初音さんはにじり寄ってきた。


「よろしく、って言われても」

「む……これでもダメかあ」


 戸惑う俺に対し、初音さんは少しだけ不満そうな顔を見せたかと思ったら。 


「あ、そうだ。八雲くん、今日のお昼に『近い内にお礼をする』って言ってくれたよね」

「言ったというか、要望されたから首を縦に振ったって感じだけど」

「とにかく、お礼はしてくれるんだよね?」


 初音さんは念を押すように再度聞いてくる。

 なんだろう、ちょっと怖いけど。


「まあ、うん。今更取り消したりはしないよ」  

「そっか、良かった」


 初音さんは嬉しそうに笑った。


「もしかして、今から何か俺にお礼をしてほしいとか?」

「うん。今から行きたい場所があるんだ」

「今からって、急に二人で抜け出したら変に思われない?」

「そこはこっそり行けば大丈夫だよ、多分」


 初音さんの提案どおり、俺たちは気づかれないよう一人ずつ席を立って店を出た。

 誰にも告げずに出てきたけど、料金は先に徴収されていたから問題ないだろう。




 焼肉屋を抜け出して向かった先は。

 見覚えのあるマンションだった。


「行きたい場所って……ここ?」

「そうだよ?」


 初音さんは何食わぬ顔で首を傾げている。


「初音さんの家だよね」

「うん」

「いや、うんじゃなくて。これはつまり」

「そう。八雲くんは私にお持ち帰りされちゃったってことだよ」

 

 不敵な笑みを浮かべる初音さんは、どこか色っぽく見えた。

次回はひたすらいちゃいちゃする回です。

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