第17話 美少女からちょっとエッチな自撮り写真が送られてきた。
数十分後。
初音さんに連れてこられた美容院にて。
「おお……」
俺は鏡を見て軽く感動を覚えていた。
「前髪を切ったらさっぱりしましたねー」
椅子に座る俺の背後から、美容師さんが声をかけてくる。
「確かに……」
髪で隠れていない自分の顔をはっきり見るのは久しぶりだ。
前髪以外も伸びていた箇所を短くしてもらったので、美容師さんの言うとおりさっぱりしている。
まあ、客に対しての言葉だから、多少は営業トークも含まれていそうだけど。
「これなら初音ちゃんも惚れ直しますよ!」
「……」
だから俺は初音さんの彼氏じゃなくて友達です、と訂正するのはもう面倒なのでやめた。
慣れない美容院でずっと気を張っていたから、少し疲れたな。
○
美容院を出ると、初音さんが待っていた。
買い物をしてきたらしく、手には紙袋を携えている。
「おおー……やっぱりだいぶ印象変わったね」
初音さんは目を見開いて、俺をじっくり見ていた。
「髪を切ったくらいで、おおげさじゃない?」
「いやいや、こっちの方が断然いいよ! 今まで隠れていた八雲くんの魅力が露わになった感じがする」
美容師に何か言われてもピンとこなかったけど、初音さんに褒めちぎられると満更でもない気分になる。
「まあ……初音さんがそこまで言ってくれるなら、慣れない美容院に入ってみた甲斐があったよ」
「へへ。私のわがままでお金を使わせちゃった気がするから、八雲くん自身が満足してくれたなら何よりかな」
「わがままって……別にそんなことはないよ。近い内に髪を切ろうとは思ってたし、いい機会だった」
何より、初音さんに褒められたので満足した。
「そう? だとしても、なんだか申し訳ない気がしたから、私もちょっと奮発してこれを買ってきたんだ」
初音さんは手にしていた紙袋を掲げる。
「何を買ったの?」
「うーん。私たち二人の今後を盛り上げるためのアイテム……みたいな?」
「……? 何それ」
「まだ秘密。あとで写真を送ってあげるね」
初音さんはそうはぐらかすと、思わせぶりな笑みを浮かべた。
○
その後、俺は初音さんを彼女の家まで送り届けることにした。
ショッピングモールから初音さんの住むマンションまでは、歩いて5分ほどの距離にあるので、すぐに到着してしまった。
俺たちはマンションの前で立ち止まって、向かい合う。
「八雲くん、今日は楽しかったよ」
「俺も……楽しかった」
陰キャにとって、自分の気持ちを言葉にするのは慣れない行為だ。
けど初音さんの前だと、意外にもすんなり口から出てきた。
「ふふ。八雲くんも同じで良かった……」
初音さんはそんなことを呟くと、いきなり抱きついてきた。
力強くくっついて、顔を俺の胸板に埋めてくる。
「は、初音さん……?」
当然俺は困惑する。
部屋の中で二人きりの時ならまだしも、誰が見ているか分からない場所で、急にどうしたんだろう。
「私、委員長とか他の人と話すのは楽しかったけど、ちょっと疲れたりもしたんだ」
「まあ、気持ちはわかるよ」
俺自身も陰キャぼっちだから、他人と関わると気疲れする気持ちは理解できる。
初音さんとこうして接していると、それ以上にドキドキさせられるけど。
「でも、八雲くんとくっついてるとすごく安心する」
初音さんの声色は、確かにとても穏やかだ。
「よく分からないけど、こんなことで初音さんが安心できるなら、いくらでもどうぞ」
「本当に? いくらでも?」
初音さんは埋めていた顔を上げた。
あ、やっぱり安請け合いしたかも。
こんなことを無限にされたら、心臓が持たない気がする。
「まあ、程々になら」
「程々かー……少し残念だけど、ここは八雲くんの意見に素直に従っておくべきかな」
「意外と素直に引き下がるんだね?」
「うん。だって、その……」
俺の問いに対し、初音さんはなぜか頬を赤く染めていた。
「あんまりくっついてばかりいると、すぐ我慢できなくなりそうだし」
「我慢って……あ」
俺の脳内に、数日前にした初音さんとの2回目の行為が思い起こされる。
「でも、歯止めがきかないって言ってから少ししか経ってないのにまたしちゃうのは、さすがに節操がなさすぎるから……今日は我慢する」
初音さんはそんなことを言う割に、ギュッと抱きつく力を強めてくる。
我慢したいなら、柔らかい胸を押し当ててこないで欲しい。
いろいろと思い出して、俺の方が耐えられなくなる。
(だからって、離れる気にはなれないんだよなあ……)
こうして触れ合っていることで安心を得ているのは、初音さんだけじゃない。
俺も同じだ。
俺自身、こうして初音さんとくっついていることで、自信をもらっている気がする。
初音さんとした2回の行為は、もしかしたらその究極的なところに位置したのかもしれない。
「……よし!」
少しして、初音さんが元気のいい声を発しながら、俺から離れた。
「八雲くんから充分なエネルギーをもらったから、この辺にしておくね」
「あ、ああ。うん」
上の空になっていた俺は、空返事する。
散々焦らされて、お預けされたような気分だ。
もちろん、初音さんにはそんなつもりはないんだろうけど。
「じゃあ八雲くん、また明日」
「また明日」
俺が返事をすると、初音さんは手を振ってマンションの中へと入っていった。
さて、俺も帰るか。
○
帰宅すると、今日も玄関に義妹の真雪が待ち受けていた。
「お、お兄ちゃん……どうしたのその髪」
「いろいろあって、切ってきた」
「……いろいろって、何」
「別に。ちょっと人から勧められたから、思い切って髪を短くしてみただけだよ」
俺は靴を脱ぐと、呆然とする真雪の横を通り抜ける。
「お兄ちゃんが、人に勧められてイメチェン……? やっぱり、お兄ちゃんから他の女の気配がするよ……!」
後ろで真雪が何か言っていたが、俺は構わず階段を上がっていく。
そう言えば結局、真雪には初音さんのことを話していなかった気がする。
(説明するのも面倒だし、このままごまかしていればいいか……)
そんなことを考えながら自室に入ると、スマホからラインの通知音が鳴った。
制服のポケットからスマホを取り出して確認すると、初音さんからメッセージが届いていた。
『実は八雲くんが美容院で髪を切っている間に、こんなのを買ってました』
そんなメッセージと一緒に、一枚の画像が送られてきた。
初音さんの自撮り写真だ。
ベッドの上で黒い下着だけを身につけた初音さんの姿が写っている。
少し大人っぽいデザインだ。
「なんて画像を送ってくるんだ……」
初音さんの自撮り写真を見た俺の脳内に、いろいろな思考がよぎる。
初音さんが持っていた紙袋の中身はこれだったのか、とか。
やっぱり初音さんは俺のことを焦らしてたんじゃないのか、とか。
スマホの画面に俺の目が釘付けになっていると、初音さんから追加でメッセージが送られてきた。
『次するときは、これを着てみるね』
は。
これってつまり。
次がある……のか?
次回からは球技大会で打倒サッカー部に向けて物語のテンポが上がっていきます。