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第15話 高校一の美少女に同性の友達ができた。

帰りのホームルームが終わった後。

 前の席に座る委員長が振り向いた。


「ではお二人とも、行きましょうか。もう一人は用事があるとのことで、少し遅れてくるみたいです」

「そうなんだ。分かった」

 

 俺が答えていると、隣から制服の袖の辺りを引っ張られた。


「ショッピングモールに行くのって、委員長も一緒なんだ……?」


 初音さんが、俺だけに聞こえるように小声で話しかけてきた。


「うん。それともう一人来るらしい」

「二人きりじゃないんだ……」

 

 初音さんはどこか恨めしげな目で俺を見てきた。



 俺たちは駅前のショッピングモール内にあるファミレスに来た。

 この辺の高校生にとって、放課後に友達と駄弁る定番スポットの一つらしい。

 陰キャぼっちだった俺は当然、ここに来たのは初めてだ。

 一緒にいるのは初音さんと委員長、そして男子がもう一人。

 ファミレスのテーブル席に四人で座っている。


「俺は椎名恭弥。同じクラスだから、顔と名前くらいは知ってると思うけど、改めてよろしく」


 俺の向かいに座る椎名が自己紹介した。

 委員長が連れてきたクラスメイトだ。

 クラスの陽キャグループの中心的な男子で、生徒会役員を務める知的なイケメンでもある。


「……よろしく」

「よ、よろしく」


 隣に並んで座る俺と初音はつねさんは、揃ってぎこちない挨拶をする。

 初音さんは最初、二人きりじゃないことにどこか不満げだった。

 でもクラスメイトと放課後にどこかへ出かける機会なんて初めてなので、青春っぽいことに憧れる初音さんは結局ついてきた。


「実はわたし、椎名くんとは腐れ縁みたいな関係なんですよ。だから今日はここに連れてきました」


 椎名の隣に座る委員長が、そんなことを言う。


「腐れ縁って?」

「腐れ縁というか、幼馴染だな」


 俺の疑問に、椎名が答えた。


「どっちでもいいでしょう。小学生の頃から付き合いがあるというだけです」

「そうなんだ」


 詳しい事情は知らないが、二人は昔から仲が良いらしい。


「そんなことより、椎名くんもサッカーに出場するはずなのに、初日から練習をサボるとは何事ですか」

「サボったんじゃなくて、俺は生徒会の仕事があったんだよ。他のみんなが何もしてないとは思わなかったけど……」


 委員長に問い詰められて、椎名は事情を説明する。


「ふーむ……それなら仕方ないですが」

「まあ、練習する気になれない気持ちもわかるけど……せっかくの球技大会なんだし、上野うえのくんみたいに頑張った方が楽しいし思い出にもなるよな」


 椎名は明るい笑顔で、俺に共感するような言葉を口にした。

 けど、俺が球技大会を頑張りたいのはそんな眩しい動機じゃない。

 さすが陽キャ……思考回路が違うな。


「さすが椎名くん、話がわかりますね」


 委員長はうんうんと椎名の言葉に同意していた。

 この人も陽キャ側だった。


「そこで椎名くんには、上野くん以外のサッカーに出場する人たちに、練習するよう声をかけて欲しいんですよ」 

「分かった、任せてくれ」


 委員長の頼みを、椎名は快諾した。


「この人、こんなでも意外と人望がありますから。声をかけたら他のみんなも集まりますよ」


 委員長は俺を見て、得意げに言ってきた。


「そうなんだ、助かるよ」


 返事をしながら、俺は別のことを思う。

 川崎たちサッカー部に勝つためにはクラスメイトの協力が不可欠だけど、参加を強要するのも何か違う。

 陰キャで球技大会にやる気がなかった頃の俺が強引に練習に誘われたら、とても面倒な気分になった経験がある。


(得られる物が何もないイベントに対して努力させられるとか、苦痛でしかないからな……)


 あ、でも待てよ。

 逆に言うと得られる物があればやる気が出るのか……?

 協力してもらう以上、クラスメイトたちにも楽しさと成功体験を提供すれば良い。

 異世界で手に入れたチートスキルは、別に俺自身にしか使えないわけじゃないからな。

 やり方は色々ある。


「よし、じゃあ決まりだな。でも上野くん、なんでそこまでして勝ちたいんだ?」

「それはちょっと、訳ありで」

「訳あり?」


 明言しない俺を前に、椎名は疑問を口にする。


「えーっと……」

「本人が訳ありと言っているんですから、それ以上言及するべきではないでしょう。デリカシーがないですね椎名くんは」

「それもそうだな……すまない、上野くん」

「いや、別に」


 答えあぐねている俺に、委員長が助けを差し伸べてくれた。

 感謝の意を込めて俺が小さく頭を下げると、委員長は微笑みで返してきた。

 俺が川崎に挑まれた勝負の件をこの場で口にしなかったのは、初音さんの耳に入れたくないと思ったからだ。

 聞いても気分のいい話じゃないだろうからな。

 だったら、初音さんの知らない所で、全て決着をつけてしまえばいい。

 ちらりと初音さんの方を見ると、ストローでジュースを啜りながら、不思議そうに見返してきた。


「まあ、事情はともかく、球技大会は頑張ろう!」


 椎名は改めて意気込んだ。

 話が一段落したところで、委員長が初音さんを見た。


「さて。球技大会の話は済みましたし、ここからが本題です」

「本題……?」


 初音さんはきょとんとした顔をしている。


「市ヶ谷さん、『正直この話に自分は必要なかったのでは』と思っていませんでしたか?」

「正直に言うと、うん」

「ですが市ヶ谷さんに今日来てもらったのには理由があるんです」

「そうなんだ……?」

「はい。その理由とは、単純にわたしが市ヶ谷さんと仲良くなりたかったからです」

「委員長が、私と?」


 初音さんは少し驚いたような反応をしていた。


「はい! 同じクラスで席も近いですから、もっとお話ししましょうよ」

「え、あの」


 周囲から孤高の美少女と認識されていた市ヶ谷初音の正体は、ただのぼっちだ。

 故に初音さんはコミュ障ぶりを発揮して戸惑っていた。

 俺とは普通に話しているから、珍しい光景に感じてしまう。

 横目で見守っていると、初音さんが俺に助けを求めるような視線を向けてきた。


「せっかくの機会だし、話してみたら?」

「うん……!」


 初音さんの表情が和らいだ。


「それじゃあ……よろしくね、委員長」

「はい」


 まだぎこちない様子の初音さんを前に、委員長は優しい声で答える。


「ではさっそく、恋愛の先輩として上野くんとの話をいろいろ聞かせてくださいよ」

「え、ええ?」


 俺がいる隣でその話をするのか……。

 普通そういう話って、女子しかいない時にするんじゃないのか?


「明日葉って恋愛に興味あったんだな」


 委員長の幼馴染である椎名も反応した。

 みんな委員長って呼ぶから、千川明日葉という名前なのを忘れがちだ。


「誰かさんが鈍感なおかげで、わたしが頑張らないといけない気がしているので」


 委員長がどこか刺のある調子で言い返していた。

 ああ、なるほど。

 俺は二人の関係性をなんとなく察した。

 美男美女で陽キャの幼馴染、友達以上恋人未満の関係……って感じだろう、多分。


「さあこんな男は放っておいて、お話ししましょうよ市ヶ谷さん」


 俺が一人で予想している間にも、委員長は初音さんと話していた。



 その後、なんだかんだで会話が弾んだ初音さんと委員長はすっかり打ち解けていた。


「いやー、とても参考になりました。ありがとうございます、市ヶ谷さん」

「私も話せて楽しかった」


 ファミレスを出た店先でも二人で話している。


「あ、そうだ。せっかくなのでラインを交換しましょうよ」

「え、うん……!」


 二人はスマホを取り出して、ラインの連絡先を交換していた。


「見てください椎名くん、あの学校で一番かわいいと有名な市ヶ谷さんの連絡先を手に入れましたよ!」

「お、大袈裟だよ委員長……」


 スマホを掲げて幼馴染に自慢する委員長の前で、初音さんは苦笑していた。

 

「嬉しいのは分かったけど、そろそろ塾に行く時間だぞ」

「ああ、もうこんな時間ですか」


 椎名に言われて、委員長はスマホの画面に表示された時刻を見る。


「では市ヶ谷さん、上野くん、あとはお二人でごゆっくり! また明日!」

「明日から練習よろしくな」


 委員長と椎名はそう言って俺たちの前から去っていった。

 初音さんと、二人きりになる。


「どうだった?」

「うーん……女の子の友達ができたのは、嬉しかった」

「それは何よりだったね」


 初音さんに来てもらった甲斐があった、と思っていると。


「でもやっぱり、八雲やくもくんと二人きりが一番いいな」

「そ、そうなんだ……」 


 俺は嬉しさと少しの照れ臭さを感じると同時に、別の思いを抱いた。

 もっと、二人きりの時間を過ごしたい。


「初音さん、このあとまだ時間ある?」

「もちろん!」


 初音さんは今日一番の笑顔を浮かべた。

次回は初音さんと二人きりを満喫します。

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