表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/52

第10話 入浴中の美少女とビデオ通話をした。

 夜。

 帰宅すると、やはり玄関に妹が待ち構えていた。

 大変ご立腹の様子だ。

 上野真雪。

 現在中学三年生で、俺より頭二つ分くらい小柄な女の子だ。

 ショートボブの銀髪と碧眼が特徴的で、俺と実の兄妹でないことは一目で分かる。

 元々、真雪は俺の従妹だった。

 10年前に彼女の実の両親が事故で亡くなった際に、上野家に養子として引き取られてきたのだ。

 以来、真雪は俺の妹だ。


「た、ただいま」

「おかえり、お兄ちゃん。今日も遅かったね」


 部屋着のジャージを着た真雪はむすっとした顔で返事をする。

 俺が異世界に失踪した一ヶ月後に帰ってきてから、やけに構ってくるようになった。


「別に、心配するようなことはないよ」 

 

 俺は靴を脱いで、真雪の横を通り過ぎる。


「ちょっと、どこ行くの!」

「どこって、自分の部屋だよ」


 真雪はツンツンした態度の割に心配してくれるけど、最近は少し度が過ぎているような気もする。

 ちょっと帰りが遅いと1分おきにラインで連絡してくるし。

 まあ、異世界に行く前、反抗期のど真ん中でまったく会話がなかった頃よりは良好な関係だと納得しておこう。


「まだ話が終わってない! この前も今日も、なんでこんなに遅かったの! ラインも無視するし!」


 二階にある自室へ向かうため階段を上がる俺の後ろを、真雪がついてくる。


「ちょっと人と会ってたんだよ。連絡を無視したのは悪かった」

「人と会う? お兄ちゃんが……?」


 真雪はあり得ないとでも言いたげだ。

 無理もない。

 俺が陰キャぼっちであることは家族にも知れ渡っているからな。


「俺にだって、たまにはそういうこともあるんだ」


 階段を上がり終えたところで、俺は振り向いた。

 すると真雪が、すんすんと鼻を鳴らした。


「お兄ちゃん、なんか石鹸の匂いがしない?」

「あー、気のせいだと思う」


 初音さんの部屋でシャワーを浴びてから帰ってきたから、そのせいだろう。


「いや、この前遅く帰ってきた時も同じ匂いがしたから、気のせいじゃないと思う」


 考え込んでいた真雪は、ハッとした顔をした。


「お兄ちゃん……人と会ったって、もしかして女の子が相手なの!?」

「さて……着替えないと」


 嫌な予感がした俺は、まともに答えず自室へと歩き始めた。 

  

「ちょっと待ってよ! 今日あった人とはどんな関係なの! まさか彼女? でも私のお兄ちゃんに限ってそんなことは……」


 俺の後を追いながら問い詰めてきた真雪だったが、途中から独り言のような呟きに変わった。

 彼女じゃない女の子と体の関係を持っていましたなんて、そのまま伝えたら絶対面倒なことになる。

 俺は立ち止まる真雪を置いて、歩き続ける。


「あ、待ってってば」


 真雪が再び俺を追いかけようとしたその時。

 俺のズボンのポケットに入ったスマホから、音が鳴った。


「……?」


 耳慣れない音だ。

 疑問に思いながらスマホをポケットから取り出して、俺は理解する。


「あ、なるほど」 


 これはラインで通話がかかってきた時の着信音だ。

 交友関係がなさすぎて、ラインで通話なんてほぼしたことがないから気づけなかった。

 通話をかけてきた相手はやはり、先ほど連絡先を交換したばかりの初音さんだ。


「お、お兄ちゃんに通話をかけてくる相手が……? お兄ちゃんの魅力に気づいていたのは私だけのはずだったのに、一体どこの女が……」

「じゃあ、俺は今から人と話すから。邪魔はしないでくれ」


 真雪から逃げる大義名分を得た俺は、一言そう告げて自室に逃げ込んで鍵をかけた。


「だから、逃げないでよ! もう……通話が終わったら色々聞かせてもらうからね!」


 部屋の外からそんな声が聞こえてきた。

 あとで真雪と話すまでに言い訳を考えておこう。

 俺は窓際の勉強机に座ると、初音さんからの着信に応答した。


『あ、出てくれた。さっきぶりだね八雲くん。こんばんは』

「こんばんは。初音さん」


 かかってきたのはビデオ通話だった。

 応答すると、スマホの画面に初音さんの顔が表示される。

 画面越しでもかわいいのはさすが高校一の美少女……だけど何か違和感がある。


「なんか画面が少し曇ってない?」

『あー、やっぱり? 私、今お風呂に入ってるから』


 初音さんはそう言って微笑んだ。


「そう、なんだ……」


 言われてみれば、初音さんの綺麗な黒髪が湿っているし、画面際には白い肩が露わになっている。

 そこから下は画角の関係で見えないが、俺のスマホには入浴中の初音さんが映し出されていた。

 ほんのつい先ほどまで体を交えていた相手ではあるけど、「そういうこと」をしていない時の無防備な姿というのは、また違った良さがあるような……。


『八雲くんは見た感じ、家に帰ってきたばかり?』

「あ、うん」


 画面の向こうの初音さんに見惚れていた俺は、話しかけられて我に返った。


『もしかして迷惑だった?』

「むしろ完璧なタイミングだった」

『そうなんだ……?』 


 俺が義妹に問い詰められていたことなど知る由もない初音さんは、画面の向こうで首を傾げている。


「それよりさ。わざわざお風呂から連絡してきて、何か急ぎの用でもあった?」

『別に、用があるわけじゃないんだけどね。せっかく友達ができて連絡先を交換したんだから、話してみたいなと思って』

「つまり気まぐれ?」

『気まぐれ……というよりは憧れかな』


 初音さんは長い黒髪の先を指で摘んで、くるくると回している。


「憧れ?」

『うん。私って高校デビューに挑戦するくらいだからさ。本当は私も友達とか欲しかったし、他にも色々青春的なことがしたいって憧れがあったんだよ』

「青春的なことって?」

『例えば今みたいに友達と夜中に通話したりとか、学校行事で盛り上がったりとか。あと……いずれは恋人を作ったりとか?』


 初音さんは画面の向こうからじっと俺を見てくる。

 なんだその視線は。

 俺は友達と認定されたばかりの男だぞ。


「なるほど……初音さんがそういうことをしてみたいなら、俺も協力するよ。陰キャぼっちだからあまり力になれない可能性が高いけど」

『協力って、なんか他人事みたいな言い方だね』

「え」


 確かに、青春なんて俺とは縁遠い概念だとは認識しているけど、何か問題があっただろうか。


『私は、八雲くんと一緒がいい』

「俺と……?」

『そう。八雲くんが協力してくれるのは嬉しいけど、後ろから見守る感じじゃなくて当事者でいてほしい』

「俺が青春か……正直ほとんど諦めてたんだけどなあ」


 異世界で他人と関わる機会は以前よりも多かったので、昔よりは多少コミュニケーション能力は向上した。

 けどチートスキルを手に入れて大活躍したのに、まったくリア充イベントがないままこっちの世界に帰ってきたから、俺は一生日陰者だと思い込んでいた。


『そんなの私だって一緒だよ。見た目は変えてみたけどぼっち気質は変わらないし、逆に見た目が良くなったせいでイジメられたりしたから、後悔もしていたけど……八雲くんと会ってから、色々変わったから。今ならやり直せるんじゃないかなって思ってる』


 初音さんは嬉しそうに笑っていた。


「確かに、俺も初音さんと会ってから色々変わってきたかもな……」


 まずは何より童貞を卒業したし、こっちの世界でかなり久々に家族以外の人間と会話をしている。

 その他にも、色々。


『ってことで八雲くん。明日から私と一緒に、青春を取り戻していこう!』


 ああ、そうか。

 帰る前に初音さんが言っていた「ちゃんとした関係」ってこういうことか。

 体だけの関係ではなく、友達として仲良くして、一緒に青春を体験していく関係になりたい……ってことだろう、多分。


「分かった。やってみるよ」


 正直、陰キャぼっちである現状を脱却して、俺自身の青春を取り戻したいという実感はまだわいていなかったけど。

 初音さんと一緒にいられるのだったら、なんでもいいかと思う自分がいた。

次回はクラスでのお話です。少しずつ青春っぽいこともしていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ