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目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。【web版】  作者: 猫石
活動開始! でも記憶あんまり役に立たない!

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49・謀と、年の功?

「奥様、ドンティス隊長より奥様の深い愛情と慈悲の御心、伺いました。」


「は、はぁ……。」


「まさに……まさに奥様こそ辺境伯家夫人にふさわしい御器と存じ上げます! われら辺境伯家使用人一同、心より奥様にお仕えするとお約束申し上げます!」


(わぉ、デジャヴ……。)


 本日二度目の本気泣きからの忠誠の誓いに、私はちょっとげっぷがでそうで口元を押さえた。


(集団幻想も、忠誠の誓いも、お腹いっぱいだわ……。)







 少しだけ時を戻して。


 力いっぱいの欠伸と伸びの瞬間を見られた私は、あっけにとられてる家令、侍女長、料理長と思しき細マッチョの優男3人より先に思考が復帰したため、慌てて椅子から立ち上がり、姿勢を正して微笑んだ。


「まぁ、来てくれたのね。 皆さん忙しいところ、本当にありがとう。」


 と、デキル奥様風に微笑んだ。


 その言葉に正気を取り戻した3人は、先ほどの事は気のせい? 的な……なかったことになったらしい。 しっかり腰を折り、挨拶を返してくれた。


 ちょうどそこでアルジが下りてきたため、アルジに1時間ほど下を任せて執務室へ上がってきたわけであるが……ソファに座ってもらったところでの、この忠誠のご挨拶である。 


 何度も言うが記憶が戻ってまだたったの2日、実質30時間ちょっとなのに、みんな忠誠を誓うとか、本当に大げさだ。


「王命に近い政略結婚とはいえ、私はこの辺境伯家に嫁いだ身です。 辺境伯夫人としての役割はわかっておりますし、その役割は務めると話したはずです。 孤児院などの慈善事業も、先の奥様のお仕事を引き継いだまでの事。 そんなことで後々までの忠誠を誓うなんて、みんな大げさです。」


 はぁ~とため息をつきながら、私は侍女長の淹れてくれたお茶に、砂糖とミルクをたっぷり入れて口につける。


(は~、甘い、美味しい。)


 しみじみとみんなの重苦しいまでの期待のまなざしは厳しい。序盤で良い事? をやらかしすぎたかもしれない。


(辺境伯家の使用人は、引きこもり奥様的悪印象からの好印象もあるだろうけど、騎士団はいいイメージでストップ高だから、これを維持しなきゃいけないの、胃痛しかしない。 胃潰瘍になったらどうしてくれるの? h2ブロッカー薬、この世界にあるの?)


 なんてことを考えつつ、ティカップを置いた私は、男泣きとは言わないまでも、目頭を手布で押さえる家令と侍女長を放っておいて、私は料理長を見た。


「今日のスープ、本当にありがとう。 患者の物も、隊員の物も、本当によく考えられていて、美味しくて栄養もあって。 特に患者用。 丁寧にスープを作ってくれたのね。 私の思ったものと遜色なくてびっくりしたわ。」


「奥様よりそのようなお言葉、もったいないことです。 しかし、お褒め頂きありがとうございます。」


 私の言葉に頭を下げた料理長は、実は、と私に教えてくれた。


「私には小さな娘がおりましてね。 その娘の赤子の時に考え付いたスープなのです。 大人のスープを大量に作り、味付け前に必要な分だけをとりわけ、肉は小さく刻み込み、野菜は丁寧に何度か裏ごしをし、薄めに味付けした物なのです。」


「あぁ、なるほど! ではスープの事は私が心配することも、口出しすることもないわ。 後は作る場所の問題なんだけど……。」


「そのことで奥様私からお願いが。 辺境伯家の料理人は、夜会に対応する人数を雇っているのではありますが、なかなか大人数の食事を作る事がありません、 ですので、修行の一環で、当家の料理人と見習いにこれを任せたいのでございますがいかがでしょうか?」


 料理長の申し出に、私は現実問題を整理して答える。


「人手としては貴方の弟子だもの、腕も申し分ないでしょうし、申し出としては本当にありがたいわ。 けれどねぇ……この建物には調理場がないの。 隣にある、同じく譲り受けた建物にしてもそうなの。 きっと調理場は、兵舎の食堂の厨房だけではないかしら。 そこをお借りするのは厳しいと思うわ。」


「では、ブルー隊長殿にお願いし、医療棟の空いている一棟に、医療院専用の調理場を作る、というのはどうでしょうか? 厨房をお借りすることもございませんし、お屋敷から運ぶのも限度がございますので、許していただけるかと。」


 と、別の案を提示してくれたのは家令だ。


 なるほど、と私も考える。


「建物自体は医療班の管轄下だから私的にはとてもいいけれど、騎士団の方で決済が下りる……。 あっ。」


 そこまで言った私は、辺境伯領の会計係である9番隊隊長の顔を思い浮かべた。


 あの熱量で私への忠義を誓ってくれた彼だから、これくらいのお願いなら簡単に通りそうな気がする。 が、また泣かれたりするのは嫌だし、あの人の商人的会話術に私は勝てる気がしない。


 正直、自分で交渉したくない。 と、言う事で。


「……ジョゼフ。 申し訳ないけれど、ドンティス隊長と相談してくれると嬉しいわ……。 それと、患者とは言え騎士様。 食材費が騎士団から出るか交渉を。」


「かしこまりました。 お任せください。」


(わーい、まかせちゃった。 昼間の話の一件を聞いたというくらいだもの、交流もあるみたいだし、適材適所って事で、今度からドンティス隊長との交渉には、申し訳ないけれどジョゼフに仲介に入ってもらいましょう。)


 よしよし、と考えながら、食事の事はどうにかなったな、と、次の話に進める。


「では、私から、バザーの事に関して皆に御願いがあるのだけれど。」


 そう言って料理長には私は3枚のレシピを、家令と侍女長には教会で行うバザーの草案を渡した。


「1つは傷病人用のレシピで、もう2つは教会バザー用の商品なのだけれども、試作品を作ってみてくれないかしら?」


「拝見いたします。」


 私が渡したレシピを見た料理人は、真剣にそれらを見ている。


「これは、初めて見る料理でございますが……プディングと、パウンドケーキ、酒のケーキ、でございますか?」


「えぇ、そうなの。 出来そうかしら?」


「詳細に記載がありますので、試作をするのは大丈夫です。」


「そう!? よかったわ!」


 にっこりと笑った私は、料理長に説明する。


「プディングは、冷たさとフルフルとした食感がとても美味しいと思うの。 それに材料も砂糖とミルクと卵だから栄養価も高いでしょう? 傷病者も口に運びやすいと思うの。」


「なるほど、よく考えられた菓子でございますね。 して、こちらのパウンドケーキ、という物は?」


「小麦粉と乳油、砂糖からできる焼き菓子よ。 教会のバザーで売るときは、カットしたものを個包装で売るわ。」


「なるほど。 ブランデーケーキ、というのはパウンドケーキによく似ておりますが……?」


「簡単に言えばパウンドケーキに酒をしみこませる、男性にも食べていただける大人のケーキね。」


「初めて聞くものばかりですが、なにやら大人のケーキ、など、面白そうですね。 しかも男性向けとは。」


 ものすごく感心して料理長はレシピにメモを取りながら、質問をしてくれる。


「そうね。 私が昔、隣国の本で読んだ中に載っていたような気がするだけのものを形にしてみたの。 一度作ってみてもらえないかしら。」


「かしこまりました。」


 料理長が見ているレシピをどれどれ、と借りて目を通す家令と侍女長。


「これは、珍しい菓子ですね。」


「そうね、此方では見たことがないかもしれないわ。 私も本の中の想像のお菓子を、形にしてみただけだから。」


(そりゃ前世のお菓子だもん、見たことないと思う!)


 などという事も出来ず、笑顔で濁して、それから、と、もう一枚の紙を渡す。


「これは……飾りですか?」


「えぇ。 できればそれを習得できる、菓子専門の料理人も育てたいと思っているの。」


「アイシングのデコレーション……ですか。 なるほど、少々難しそうですね。 まず、私がやってみてもよろしいですか?」


「えぇ。 ぜひ。」


「こちらは何に使うものなのですか?」


 そのレシピを見て首を傾げた家令に、私はふふっと笑う。


「きっと、私の行う慈善事業は、教会を通じて周辺の領主の耳にも入ると思うの。 慈善事業は社交の場でもあるでしょう? きっとつながりを求めてバザーにやってくるわ。 その時に、流石に領民と同じものをお渡しするわけにはいかないでしょう?」


「なるほど。 貴族用のパウンドケーキとブランデーケーキ、という事ですか。」


「あまり分けるのはいいとは思わないのだけど、お貴族様は気位が高いから、ね。」


 にっこり笑った私が渡したのは、前世で動画配信などで見たことのある、アイシングクッキーのつくり方や、よくあったデザインカットされたフルーツの絵を書いた紙の束だ。


 この世界にある菓子は、小麦粉の多い硬いクッキーやそれに砂糖衣をつけた菓子、しっかりした食べ応えのある焼き菓子と、それに砂糖衣を乗せた物だけ、というのは私の経験からしっかりとわかっている。


 それらは美味しいけれど、前世の味を知ってる私には物凄く物足りない。


 前世の菓子はうまいんだから、この世界でも絶対に流行るのはわかっている。が、もしかしたらそれは、私は前世を思い出したからだけで、此方では受け入れられない可能性もあった。


 そこで、あえて材料の品数が少なく、素朴で絶対美味しいプリンとパウンドケーキを、販売窓口を辺境伯領の教会バザーだけにして世に出して、この世界の人にも通用するのか、皆の反応を見るのだ。


 まずは、辺境伯領と、その周辺の領内でこれが受け入れられればいい。


 初回の客は領民だけ、庶民だけだと願いたいが、もしかしたら、がある。


 公爵家の娘であり、現辺境伯夫人が前面に名前を出して行われる慈善事業という事で、隣り合うくらいの周辺領の貴族は、その慈善事業がどういう物かも気になるだろうし、辺境伯家、公爵家とのつながりを求めて社交辞令の挨拶と共に、探りを入れに来るかもしれないのだ。


 その際の寄付の額は、庶民とは額が違うだろう。


 だから、特別なケーキという、もしものための保険もかけた(残ったら私が食べるから大丈夫!)。


 寄進をしてくださった貴族の方には同じパウンドケーキでも、1人分にカットしたものではなく、果物とアイシングで美しくデコレーションした特別なパウンドケーキを1本と、ハーフカットのブランデーケーキをお渡しするのだ。


 家に帰って箱を開けた時には、さぞ吃驚するだろう。


(そうして、人に話したくなるでしょう。 私は辺境伯夫人に、珍しいものをいただいた、ってね。)


 パウンドケーキが口伝いに貴族に周知されるのも、また狙いの一つである。


 準備もあるため、2~3か月に一度しか開かれないバザーでしか出されない珍しい菓子のことは、少しずつ社交界でも噂となって広がるはずだ。


 女の戦場である社交界は新しいもの、美味しいもの、話題のものが大好きで、美味しければ美味しいほど、珍しければ珍しいほど、それを自分でも手に入れて自慢したいと思うものも多い。


 菓子は噂が噂を呼んでも、辺境伯領のバザーまで行かないと手に入らない、という希少性を高めるのだ。


 まだ誰も模倣できないだろうし、菓子は長持ちしない。


 保存方法も、物流も未発達のこの世界では、菓子を王都に持って行く術もない。


 辺境伯領周辺でしか味わえない、極上の菓子。


 この噂が王都に広まるのが半年後の社交シーズンにぶつかりでもすれば……後はもう、こちらのものだ。


 元々の身分と辺境伯夫人という地位を持った私は、きっと様々な茶会に招待されるだろうが、家令たちの話では参加は最低限でいいと言われている。


(最低限とは、王家、もしくは同格の家で、家令たちのチェックを合格した優良な家門だわ。)


 その家に、招待された私は、アイシングやフルーツで飾りつけをした特別な一品をもって、にっこり笑って茶会に出ればいいのである。


(で、そこで別の目玉の菓子を出す「高級菓子店」や「喫茶店」を王都に造りたいのって言っとけば、王都に商売の地盤が出来るから、私名義の商売が出来るし、あの守銭奴からも身が守れると……。)


 こちらで頑張って菓子専門の職人を育てなければならないし、出来れば王都に住む弟妹にその技を覚えてもらって商家で執事をしている兄に店を任せて皆の生活基盤を盤石にしてあげたい……と思っているのは、自分だけの損得勘定のため黙っておくが……。


 それに、そこに行くまでにかなりの寄進も集まるだろうから、医療院と孤児院、学校の建設も同時進行で進んでいけるだろう。 そうなれば辺境伯領の教会の名声は上がる。 私に何かあった時、教会は中立の立場を、とはいえ、倫理に反する事でもない限り、何かあればこっちの味方をしてくれるだろう。


(あとはなぁ~……温泉とか出る場所があったら完璧なのよね。)


 新しい事業も考えながら、さて、そろそろ仕事に戻ろうかしら? と皆に声を掛けようとした時だった。


「皆様のお話が終わられましたようですね。 それでは奥様、私にお時間を少々いただけますでしょうか?」


「えぇ、どうぞ?」


 頷いた私に、侍女長は小さな籠を取り出した。


「それは?」


「明後日、旦那様と辺境伯領の視察に参られる、と伺いましたので、奥様をお磨きをする道具を一式、お持ちいたしました。 これは今晩の最低限のお肌のお手入れをする分ですが、明日の夜は泊まり込みで、奥様のお磨きをさせていただきます。」


 にっこり笑う侍女長に、私は首をかしげた。


「待って頂戴? 騎士団の隊長としていくのよ? 化粧や支度は必要ないわ! それに、物価の調査や本屋にも行く予定だから、ドレスなども着るつもりはないし……。」


「存じ上げておりますよ、奥様。」


 にっこりと笑っているが、目の奥が笑っていない。


「隊服でお出かけとのこと、十分存じ上げております。 しかし、辺境伯夫人であることに、変わりはありません。 それに、隊服とはいえ、奥様にふさわしい美しいお姿でなければ、結婚式で輝くばかりの花嫁姿を見た領民は、奥様があのような扱いをされているのかと驚き、嘆きます! それでもよろしいのですか!?」


「よろしくは……ないのかしら……?」


 目を泳がせ、家令と料理長を見たが、二人は手に持つ紙の束に視線を移し、私とは目を合わせてくれない。


(裏切者め!)


 舌打ちしそうになりながらも、顔を上げると、侍女長と目が合ってしまった。


「では、御分かりですね? 奥様。」


「……はい……。」


 目が笑っていない侍女長の笑顔の問いかけに、私は首を縦に振る事しかできなかった。

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― 新着の感想 ―
いつぞやの慈悲深い(笑) 伯爵令嬢とやらは、殺鼠剤を自分で入れて親切面して子供を甚振って陰でほくそ笑むのが趣味なサイコ女だとばかり思ってたけど、社交の場って程、必須な事なら他勢力からの嫌がらせだったり…
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