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33・夜明けと朝ごはん

 彼が眠りについたのを確認したのち、その場を離れ、手早く眠る騎士様の様子を見、記録を残すを繰り返し、自分が眠っていた椅子に戻ったのは、太陽が昇り、少したった頃だった。


「23人分は、さすがに少し疲れるわね。」


 両手を組んで、う~ん、とおおきくしっかり体を伸ばし、はぁ~っと大きく息を吐いて体を戻した私の気配に気が付いたのか、隣にあるベッドの上のシーツの山がごそっと動いた。


「……ん……。 あれ? ここ、は……。」


 ムクッと起き上がり、その拍子にずり落ちたシーツからは、金茶色の子猫の様な癖っ毛がのぞき、その後、普段よりもやや幼さを感じさせる、見知った顔が出て来た。


「おはよう、アルジ。」


「……ふ……誰で…… っ! あぁ、奥様、も、申し訳ございません! おはようございます!」


 シーツから飛び出し、ベッドから転がり落ちるように床に降り、しっかり腰を折って深々とお辞儀をした、ぼさぼさ頭にシュミーズ姿のアルジに、私は噴き出してしまった。


「まだ騎士様が寝ていらっしゃるから静かに、ね。 それにしても、いつもきっちりまとめ髪でお化粧している時と違って、アルジは少し童顔さんなのね。 さ、その衝立の陰で着替えて、顔を洗ってきて頂戴。 朝の仕事の前に、ブルー第三騎士隊長殿が持ってきてくださった朝ごはんを食べましょう。」


「は、はい、奥様!」


 私と同じ、シャツとトラウザーズ、それから庭師のワークエプロンをもって衝立の向こうに隠れたアルジの姿を笑いながら、私は静かに小さなテーブルの上にナプキンを広げ、サンドイッチの籠を用意した。







「美味しいですね、奥様。」


「本当ね。 とても美味しいわ。」


 二人でテーブルにつき、神への祈りを捧げて食事を始めた。


 持ってきてあった魔道具のポットを使い湯を沸かすと、そのお湯を使ってアルジは暖かいお茶を上手に淹れてくれる。


 それにお砂糖をたっぷり入れて飲みながら、アルジと一緒にブルー第三騎士隊長がくれたサンドイッチに舌鼓を打つ。


 主人と同じテーブルにつくなど、と、最初は遠慮していたアルジだが、これからの事を考えたら、そうも言ってられないわよ? というと、渋々であるが応じてくれたのだ。


 そして今は、私の目の前で、とても美味しそうにサンドイッチを食べている。


 先程も思ったけれど、彼女は思っていたより幼い雰囲気だ。 緊張が解けていること、化粧気のない顔もそうだが、ふとした仕草が少し年下の妹によく似ている。


 仕事の時のように緊張されたままでは彼女が疲れ果ててしまうので、これくらいの方が断然、私も働きやすくていいけれど、そういえば彼女の事をあまり知らないな、と私はサンドイッチを食べ進めながら聞いてみた。


「アルジは今、何歳なの?」


「20歳になったところですわ、奥様。」


 突然の私の問いに驚いた顔をした彼女は、口に入っている物をきちんと飲み込んでから、手を止めて答えてくれた。


「あぁ、ごめんなさいね。 かしこまらず、食べ進めながらでいいのよ? それにしても、20歳……アルジは私より2つ年上なのね。 ご家族は? たしかお兄様が騎士様をしていらっしゃるんだったわね?」


「覚えておいででしたか! 嬉しいです。 兄が一人、こちらの騎士団の第5部隊? に配属されているそうです。  それから、父は元騎士団の隊員でしたが、私が5歳の時の魔物の強襲で戦死しました。 それからは、母が頑張って私たちを育ててくれましたが、その母も3年前に病で亡くなりましたので、今は兄妹2人です。」


 私はサンドイッチを食べていた手を止め、少しだけ頭を下げた。


「……ごめんなさいね、変なことを聞いて……。」


「やめてくださいませ、奥様。 母の看病も、それからお葬式もちゃんとできましたし、兄もうんと手伝ってくれたので、こうして笑ってお話しできるくらいには、大丈夫なのですよ。」


「それでも、辛いことを思い出させてしまったわ。 ごめんなさい。」


 私はもう一度、謝った。


(騎士団にいらして魔物の強襲で戦死……そしてお兄様は現役でいらっしゃると言う。 アルジには、昨日の光景はつらかったでしょうね……。)


 だから、手助けをしてくれたのだろうかと、その心中を慮っていると、困ったように笑いながら、アルジは私に話しかけて来た。


「そんなに謝らないでくださいませ、奥様。 お紅茶が冷めてしまいますわ。 私と兄の事は、本当に大丈夫ですよ。 そもそもはハウスメイドとしてお屋敷に奉公に入りましたのに、侍女にしていただけて、今はこうして奥様と朝ごはんを一緒に食べる事が許されているんですもの、私、大出世ですわ。 兄に会えたらさっそく自慢します!」


 嬉しそうにそう言うアルジに、私もつられて笑った。


「ふふ。 こんなこと、自慢にもならないわよ?。 さ、しっかり腹ごしらえをしたら、お昼のお仕事の準備を始めましょうね。」


「はい、奥様!」


 明るくそう話してくれる彼女の話題転換に乗るように笑い、サンドイッチを手に取った私に安心したように、アルジも新しくサンドイッチを手にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がとても魅力的です。 本人は看護技術その他に関して不勉強だったと言ってますが、足りないところを自覚して、今自分に出来ることをやっていく姿勢が素敵。 また足りないところを、周りと交渉し…
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