2・ネオン・テ・トーラこと、私の事(この回は胸糞回想なので読み飛ばしてもらって結構!)
私の名前はネオン・テ・トーラ。
トロピカナフィシュ王国3大公爵のうちの一つ、テ・トーラ公爵家の血を引く男の作った、4人の子供の、最初の子だった。
その男は、何度も王女が降嫁、または娘が王家へ嫁いだことのあるらしい、名門テ・トーラ公爵家の嫡男だったが、人として、本当に最低な奴だった。
博打に女に借金は当たり前。 王家と自分の家族以外の人間は人間とも思わない、そんな横柄極まりないクソ阿呆。
祖父母はそんなクソでも嫡男で可愛く大切だったようで、表面上怒るものの、結局は甘やかして尻拭いばっかりしてた。
そんなのだから、男は悪行を悪と思わず、したがって反省することもなく、家格で逆らえる者がいないうえ、何をしても親が尻拭いしてくれると理解していたから、幼い頃からわがまま放題好き放題だったようだ。
貴族が通う学園を何とか卒業し、花形と言われる王立騎士団に(コネで)入ったはいいものの、結局は厳しさから3か月持たず脱走したクソを、怒りもせず匿った祖父母は、息子の経歴に傷が付いたら可哀想、と、在籍していた事実すら、金と権力でもみ消した。
その後も、祖父母のコネで就職しても、こんな仕事は俺がやる仕事じゃないとか、あの上司が生意気だと言っては長続きもせず、親に小遣いをせびっては、ぶらぶらしていたところ、何の因果か私の母と出会った。
男爵令嬢だった母は、恋愛結婚した同じく男爵家の次男と、庶民として真面目に穏やかに暮らしていた。
息子にも恵まれたが、街中で貴族の馬車に巻き込まれて夫を失った後は、私の異父兄となるその子供と二人、夫の遺産で買った小さな家で、静かに慎ましやかに暮らしていた。
そんな二人は、市井の市場で出会った。
生来のものに加え、甘やかされまくったせいでダメ人間に拍車がかかり、そろそろ当主としてしっかりしろ、と、口うるさく言い始めた祖父母や、その場しのぎで金を借りた借金取りから逃げていた父は、子を抱えて慎ましく暮らしていた母を、手八丁口八丁で騙し、母の家に住み着いた。
業を煮やした祖父母が父を見つけた時には、母の胎には私がいた。本当であれば母体もろとも殺されていたのかもしれないが、家族を持てばしっかりすると思った祖父母によって、そのまま二人は結婚した。
男は、結婚を機に、しっかり今までの遅れを取り戻せとばかりに、祖父母によって公爵家を継ぐものとして厳しい教育を、遅すぎながらも始められた。
一方、異父兄を連れて公爵家に嫁に入った母は、私を産んだ後、妹2人と嫡男となる弟を産んだが、祖父母や親戚、使用人からも、公爵夫人として認められず、散々いびられて体を壊した。
今まで甘かった両親からの厳しい教育と、気鬱になり寝込みがちな母が嫌になった男は、年若い子爵令嬢を騙して恋愛関係となり、公爵家から金目の物をもってとんずらした。 5年は持った、と評価する奴もいるが、本当に最低である。
そして、ここでようやく父を見限った祖父母は、テ・トーラ公爵家を次男に継がせる決意をし、手に余る男を、共に逃げた子爵令嬢とその家に金で押し付け縁を切った。
そして母は、婚姻関係すら無効とされ、子供5人と共に公爵家を身一つで追い出されたのだ。
ここまでが、私が8才の時の話。
当面の生活費とされた小銭だけで、住む場所すら与えられなかった母は、友人を頼り、雨風の凌げる家に移り住むことが出来た。
しかし、病のために働く事もままならず、そんな母を助けるため、異父兄は読み書き作法が出来たため、大きな商家に執事見習として奉公に出、私は、母の友達の経営する飲み屋兼宿屋で、毎日必死に働き、食べ物を買い、母を医者に見せ、妹たちを庶民の通う学校に進ませて、と頑張った。
そんな生活はつらかったけれど、物だけが溢れた冷たい公爵家にいるよりは、断然にましだった。
お貴族様は大嫌い。
あの男のような、祖父母のような、親戚たちのような、人でなしの、青い血の生き物は大嫌い。
この先、何があってもかかわり合うなんて真っ平御免だ。
そう思って生きてきたのに、私が18になったある日、美しい身なりの男が私たちの住む家にやってきた。
彼は父の弟だった。
彼は私を見ると、満足そうに笑って言った。
『テ・トーラ家のために、嫁に行け』 と。
叔父には子供がたった一人、家を継ぐための男子しかいなかったためだ。
むかついた。
何故私達ばかり、奪われ、貪られ続けるのかと。
だが相手は青い血の生き物。
逆らったところでどうにもならない。
私は、母や他の兄弟達には絶対手を出さない事、月100万マキエ(1マキエ=1円。庶民の平均年収は約400万マキエ)を、今から20年間、母への慰謝料と、父の血を引く下3人の子への養育費として母に支払うこと、そして他の兄妹には金輪際、決してかかわりを持たない事を約束させ、魔導司法士を通じて、魔法契約を交わさせた上で承諾した。
他の妹弟にも利用価値を求めたかったであろう彼は、数瞬躊躇する様子を見せたけれど、それでも了承し、契約は結ばれた。
契約後は、半年ほど公爵家の離れで高位貴族としてのマナーなどを叩きこまれ、結婚式まで旦那様になる人の顔も知らないまま、私は辺境伯家へ嫁いだのだ。