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目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。【web版】  作者: 猫石
記憶が戻った! けどそれどころじゃない!

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27・医療院の運営会議(2)

「さて、後は人手なのですが。 ……できれば今の時点では、夜お任せする方2~3人、日中をお任せする方を4人、それに休日を取っていただく方……という事も考えると、8人以上は欲しいところです。 もちろん、怪我人が増えればこちらの手も多く必要になりますが。 それと傷病者専門の食事を作ってくださる方と、日々に使用するものの洗濯や体を拭いたりするためのお湯を沸かしてくださる、メイドのような役割の方も欲しいですわ。」


 そう考えながら言うと、ブルー第三騎士隊長が隣の部屋から騎士団の名簿を持ってきてくれた。


「医療班は現在6人ほどおります。 しかし皆、今日のように若い見習い騎士なので、鍛錬の時間もありますので、その6人が交代で一日中というわけには……。」


「もちろん。 騎士たるもの、身体の鍛錬は大切ですからそちらを優先に。 それに、旦那様が仰られた通り、無理強いもいけません。 ……正直、志願してくれる者は少ないでしょう。 それからお給金の問題もあります。 今から新たに雇うにしても、騎士団の砦内に出入りという事は身元調査も必要となるでしょうから、すぐに人員補充というわけにはいかないでしょうね。 ……やはりここが一番の問題だわ。」


「おっしゃる通りです。」


「当家の使用人を当番で向かわせるのはいかがでしょうか?」


 私とブルー第三騎士団隊長が頷きあうところに、家令が問うてくるが、それにははっきり駄目だ、と言う。


「雇用契約の契約外の仕事になります。 それに、屋敷の管理をおろそかにしてはいけません。 そちらは今まで通りに。 あぁ、料理長にはお力をお借りしたいわ。」


「料理長ですか?」


 このような場で協力を仰ぐ相手としては場違い、と思ったのであろう。 不思議そうな顔をした皆に、私は頷く。


「そう。 大事ですよ。 先ほど頂いたサンドイッチ。 大変美味しく頂きましたが、騎士団のお食事は、食欲を増進させるために、香辛料をしっかり効かせ、味を濃くし、量も多いと想像します。 それが決して悪いと言っているわけではありません。 むしろ体を張って働いてくださっている騎士様にはそれくらいでなければなりません。 体を作るうえで大切ですからね。 しかしそれは傷病者も一緒です。

 ただ、元気な時にはそれでいいでしょうが、体が弱っているときにそういったものは喉を通りにくい。 私も一通りは作れるけれど、レパートリーが少ないので、料理長に教えを乞いたいのよ。 辺境伯家で朝食の時に一度頂いた、素朴で温かい、けれどとても優しくておいしい野菜のスープ。 あぁいう物の方が病気の方が飲みやすいわ。 ほかに、ポタージュやスープ、パンのおかゆなどがいいわね。 それから、怪我や体調の度合いによって、お食事を食べやすいように変えたいの。」


 そう説明すると、家令は頷いた。


「なるほど。 確かに私共も、風邪をひいた時はそういったものの方がありがたいですね。 さっそく、明日にでも料理長と相談し、ご報告いたしましょう。」


「ありがとう。」


 家令が頭を下げるのを待って口を開いたのはブルー第三騎士隊長殿だ。


「残った問題はやはり、人手、ですね。」


「そうなるわね」


 前世でも悩んだ人手不足。


 まさか今世でも悩む羽目になるとは思わなかった。 師長が勤務表や週間予定表を作るときに、いつも頭を悩ませ、唸ってたのを思い出す。


(あの時はそんな苦労がわからなかったけれど、今になってわかります。 わがまま言ったり、休み希望をいっぱい出したりしてごめんなさい。)


 何かいい案はないかしら、と、ため息をつきながら、ティーカップに手を伸ばした時だった。


「……あの、奥様。」


「どうかなさいましたか? 神父様。」


 ここまで、黙って聞いていただけの神父様が、おずおずと手を挙げられた。


「はい、奥様。 我ら神職の人間は、神に仕える身。 人を傷つける武具などの手入れや教会を離れ、掃除や騎士様のお世話をすることは無理なのですが……衣類や包帯などの洗濯などを、私どもが請け負うのはいかがでしょうか? 私は教会から、こちらに派遣されておる身ですが、私が所属するふもとの教会には、20ほど、修道士たちや見習い者がおります。 子細を説明すれば、賛同を得られるでしょう。」


(教会でお洗濯?)


「いえ、それは、教会のお仕事はよろしいのですか?」


 逆に私が問う。


 市井暮らしの時、貧困層で流行病が出た時に手伝いに駆り出された事があるが、神父様や修道士様、修道女様達は、朝晩のお務め以外にもいろいろとお忙しいのだと感じていたのだ。


 言わんとしたことが分かったのだろう、神父様は困ったように笑われた。


「日々のお勤めや労働は確かにございます。 しかし、わたくしどもを守るために戦ってくださる騎士様のためですのでそれくらいであれば。 ただ、教会には荷馬車などがございません。 使用済みの物、洗い終わった物など、運んでくださると助かります。」


「洗濯物の移送、ですか……。」


 そう提案いただいて、私は考える。


 教会の位置を知らないが、辺境伯騎士団の本部砦から辺境伯の屋敷までは馬車で一時間程度。 屋敷から領地までも一時間程度かかるはずだ。 つまり、合計2時間、往復だと4時間は、毎日、馬車でリネンを運ぶという事になる。


(4時間か……これは運搬に時間がかかりすぎる。 それに……)


 前世の勤務していた病院の事を思い出す。


 病院で交換した病衣やシーツは、リネン庫で管理、決められた曜日に業者が回収していたが、血や排泄物で汚れた物は、その部分を消毒薬に浸け置きし、その後洗浄し、綺麗にすすいでからマジックで大きく『感染物』と明記して出していた。 しかも、ナイロン袋で二重に密閉して。


 すっごいめんどくさかったけど、なんでだっけ? と考えて思い出す。


 あれは……汚染、それから感染症があった場合に、それを飛散させたり、拡大させないようにするためだ。


 この世界に、菌やウィルスが媒介になっておこる感染症があるだろうが、実際はまだよくわからない。 傷が化膿したり、幼い頃に風邪のような病気に罹ったことがあったりするという事は、おそらくはあるのだろう。


(前世の知識だけで動いた時、土の上に寝ている騎士様で心配したのも、まずはそこだったわ。)


 ではどうすればよいのか、と、考える。


 汚染した物を密閉できる技術がなく、感染に対する防御すら出来るか分からない状態で、その原因となる物を長距離で持ち出すのは……運ぶ人、その経路に住む人、そして教会にお勤めする方の事を考えても……。


(避けるべき、ね。 せっかく手を上げてくださったのに、それは結構です、と言うのは申し訳なさすぎるわ。)


 人手がないのは事実で、申し出は大変に有難い。


 泥船同然の医療班のために、何かをしてくれると言ってくださるのだ。


(教会で、神職の方が出来る範囲で。 血なまぐさくなくて、騎士団にも、教会にも利のあるお仕事。 神父様や修道者様方にお願いの出来そうな……。 ついでに教会にも人を呼べれば、教えも庶民へ広げられ……。)


 はた、と、前世の記憶とこちらの知識が符合してひらめいた。

いいね、ブックマークありがとうございます。

誤字脱字報告もあわせて、お礼申し上げます!

一日目もあと一話。

明日には視線が変わり、旦那様のターンになります(^^;

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