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17・策士、集まる。

 私はどうやら嵌められた、らしい。


 どのように嵌められたかはわからないが、私の立場を考えれば、嵌められたことに怒り、突っぱねる事もできる。 しかし、あれだけ旦那様に対し大口を叩いた事や、病床につく騎士様、そして救護室で待っていただいている亡き騎士様たちも大変に失礼だろう。


(嵌められたことは悔しいしムカつくけれど、話は聞いて損はないだろう。 それに、嵌められた事柄自体は、今後、彼らへの交渉の際のこちらに有利な材料の一つになる……わよね。)


 そう結論付け、私は了承を示した。


「お伺いしましょう。 しかしその前にまず、こちらの、私を手伝ってくれた3人を休ませてあげてください。 それから、南の地の初夏とはいえ、夜はまだ冷えます。 この部屋の暖炉に火を入れ、今日の午後位の温度で部屋を暖めてください。 それとお怪我をなさっている騎士様の中で、何かを食べられる方にはお食事……消化の良い病人食を差し上げ、また起きることの出来ない皆様には、お水を……布に含ませて少しずつ、むせないようにして飲ませて差し上げてほしいのですが、すべてお願いできますか? 」


 とりあえずできることを考えながら言うと、ブルー第三騎士隊長様は力強く頷いた。


「それはもちろん。 お話を聞いていただく間、此方には医療班の団員を手配します。 今のように、何をすればよいのか、ご指示いただけますか?」


「えぇ、もちろん。」


 こうしてお話をしている感じからしても、ブルー第三騎士隊長は旦那様よりも断然、柔軟に話を聞いてくださる方のようです。


 まずは先ほどまで手伝ってくださった2人の騎士様は兵舎に戻り休んでいただき、代わりにやって来た、私と同じ年頃の医療班の騎士様へ、水分補給、保温、食事の介助の方法を説明した。


 ブルー第三騎士隊長様には、旧救護室に残してきた騎士様の亡骸を、此方で亡くなられた方にしたように、丁寧に洗い清め、外傷などは見えぬよう布で綺麗に保護した上で、清潔な衣服を着ていただいて、ご家族のもとに帰して欲しいと伝えた。


 そうしたところ、彼は元よりそのつもりであると告げた。


(では今までの境遇は何なの?)


 と、目の前にいる彼の反応にそう疑問を持つが、それはこの後の話で聞けるだろうと切り替えると、私はこの間もずっと傍にいたアルジに、再度、屋敷に戻るように言った。


 のだがしかし。


「いいえ。 奥様がお屋敷にお戻りにならないのであれば、私もこちらへ残ります。 奥様一人、こちらに置いていくわけにはまいりません。」


 と、断固として動かない。


(こんなに頑固な面があったのね?)


 戸惑いながらも、彼女が帰ってくれるようにと言葉を探す。


「それならば明日も来て手伝ってくれると嬉しいわ。 それにお願いしたものも持ってきてほしいの。 だから今日は帰って休んで頂戴。」


「お疲れなのは奥様も一緒です。 ですから私も奥様とご一緒します!」


 と、どのように頼んでも手伝うと言ってくれる彼女の言葉はとても嬉しい。


 だからこそ休んでもらいたい。


(それに、正直時間がもったいないのよね。 さっさとブルー第三騎士隊長殿と神父様の話も聞いてしまって、次の行動を考えたいのだけど……。)


 頑迷って、こういうことを言うのかと、そろそろ使いたくない『命令』という言葉を使うかと迷った時だった。


「使用人たるもの、奥様を困らせるものではありません。」


 不意に聞こえた声に、私とアルジは視線を声のする扉の方へ移した。


 扉の所に立っていたのは今朝、私をここに来るように仕向けた辺境伯家の家令。


「ジョゼフさん。」


 アルジが頭を下げると、彼はこちらに近づいてきて静かにアルジに告げる。


「アルジ、奥様のお言葉に従い、屋敷へ戻りなさい。」


「ですが。」


 まだ食い下がるアルジに、家令は静かに首を振った。


「奥様は、皆様とのお話が終わった後で私がお屋敷へお連れします。 お前は屋敷へ帰りなさい。 馬車の従者には話をしてあります。」


(なるほど……。 彼もお仲間なのね。)


 そのやり取りを見ていた私の心の中で、今回の謀には彼も関わっているのかと確信を持ちながら、家令に諭され、私を見たアルジに微笑みながら頷いた。


 そこでようやく納得したのだろう彼女は、それから深く頭を下げて私に言った。


「奥様、お帰りをお待ちしております。」


 それでは意味がない、と私は首を振り、最後まで使わなかった『強い』言葉を選んだ。


「いいえ、先に休んでいて頂戴。 これは命令です。 彼が何と言おうと、私は屋敷に帰る予定がありません。 そのかわり、明日も日中はここにきて、私の手伝いをしてくれると嬉しいわ。」


「奥さま……っ。 はい……かしこまりました。」


 このままだと本当に堂々巡りで帰りそうにないので、あえて強く告げると、驚いた顔をした後、泣きそうな顔のまま、私たちに深く頭を下げて、ようやく兵舎を出て行った。


(ごめんね、アルジ。)


 強い言葉を使った事に少し後悔しながらも、そう思いながらも、私の隣に立つ辺境伯家・家令ジョゼフに、私は貴族の淑女の仮面をつけて、静かに視線を移した。


「さて。 なぜあなたが今日、私にこちらへ来るように進言したのか、それから屋敷の主が不在時には家を守る立場の家令である貴方が主人がここにいるのにもかかわらずここにいるのかも含め、お話を聞かねばなりませんね。」


「はい、奥様。 もちろんでございます。 すべてをお話しさせていただきます。」


 しっかり腰を折り頭を下げた家令は、ブルー第三騎士隊長、神父様と申し合わせるように視線を交わす。


 そして私は、そんな彼らに促され、兵舎を後にした。

お読みいただきありがとうございます。

創作の励みになりますので、いいね、お気に入り、ブックマークしていただけると嬉しいです!


★まだ記憶を取り戻してから半日もたっていないですね、長くてすみません。

 旦那様との絡みはないですが、旦那様の話が続きます。

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