【閑話】心からの贈り物
☆★☆ Merry Xmas ☆★☆
クリスマスですので、読んでくださる皆様へ、感謝の気持ちを込め閑話を公開させていただきます。
本編ではもう少し七転八倒が続くので、気分転換になればいいなと、閑話は穏やかなお話しです。
時間軸は本編の2~3か月後です。
作業するためのテーブルの上には、先日裁縫士と親方が一緒に考えてくれ、試作品として作られた様々な色の小指の爪の大きさほどのビーズがある。
淡い黄色、赤、褐色、青、茶色、新緑……。
貴族用のお飾りを作った際に出る、捨てられていた切れ端の宝石だけを集め、丁寧に研磨してもらって作られたそれは、さすが、屑とはいえ一級品の宝石であり、日の光が当たるとさらに色鮮やかに発色する。
「う~ん……そう、ね。これが一番近い色ね。トパーズか、シトリンあたりかしら?」
宝飾用のトレイの上に広げたたくさんのビーズの中から、金褐色のモノを選ぶと、それを別の小皿に置き、その横に、四角い刺繍枠のような物に等間隔にでっぱりをつけてもらった親方特製の編み枠を固定すると、太めの糸を長めに切りそろえ、それから先だけを固定すると、それより細い、金褐色、褐色、そして淡い青の色に染めてもらった糸を手に取り、丁寧に繊維を整えてから、親方に作ってもらった小さな糸巻きに巻き付ける。
(そうそう、私、これがないと糸が絡んじゃって大変な事になるのよね)
遠い、遠い記憶を呼び起こしながら、最初の部分を型崩れしないように作ると、そこからは模様を確認しながら、ころころと糸巻きを組み替えて丁寧に編んでいく。
「たしかこうだった気がするのよね」
「あ、間違っているわ! やり直し……」
「ん?? ここはどうするのだったかしら?」
と、糸をきつく編んだり、解いてみたり。時折自分の手に巻いて長さを確認しながら編み進み、ちょうど真ん中にあたる予定のところで、取り分けておいた金褐色のビーズを入れる。
「よし!出来上がったわ!」
それから丁寧に編んでいけば、出来上がったのは金褐色に褐色と青の差し色、そして金褐色のビーズが煌めく、少しだけ模様が歪んでしまったミサンガである。
「う……少し模様が歪んでいるけど……生まれ変わったぶりにしてはよくできたのではないかしら? あぁ、でもそうね。1度練習してから作ればよかったのよね。気が逸ってつい最初から本番で、石までつけてしまったわ」
そっとそのミサンガを撫で、それから少し考えて、ぎゅっと祈り手の中に握り込んだ。
「どうか、これが持ち主を災厄から守ってくれますように」
手の中のそれに集中すれば、熱いくらいの熱が手の中のミサンガに集まり、そして消えていく。
そっと開いてみてみれば、金褐色の石がきらきらと光を帯びたのは気のせいではないだろう。
「防御呪文は上手だと言われたから、少しの事故や怪我からなら守ってくれるかしら?」
ふふっと笑ってそれを完成したものを置くためのトレイに置くと、今度は赤味の強い桃色の糸を手に取り、ふと、考えてそれを茶色のそれに変え、褐色の石も少し明るい茶色に変える。
根をつめすぎてはいけません! と言われてしまうので、こまめに休憩を入れながら仕事や執務の合間や休日に作業を進めたが、結局、予定の数を編み終わったのは開始から三週間以上、当日の明け方だった。
「まぁ! ネオン様! もしかしてちゃんとお眠りにならなかったのですか!?」
部屋に起こしに来てくれたリシアが目を吊り上げて怒ったけれど、私は曖昧に笑って、謝って、その場を切り抜けると、洋服を整えてもらい、食堂に向かうと、すでにみんな集まっていた。
「おはよう、皆」
「おはようございます、ネオン様」
挨拶をすると、皆が笑顔で挨拶を返してくれ、私が席に着けば、メイドのアナカ、屋敷管理人夫人のマーシ、侍女のリシアがテーブルに全員分の朝食を並べはじめ、私の侍女見習い兼医療院手伝いのライアがパンを配り、私専従執事のデルモが淹れてくれた紅茶と果実水を元侍女で医療班治療棟班長アルジと屋敷管理人ジミーで配ってくれる。
「それでは、いただきましょう」
皆が席についたのを見計らい、私が声をかけ皆で祈りを捧げる。そして私がティーカップを手にしたのを見て、各々も頷き合って食事を取り始める。
具だくさんのスープに、柔らかな白いパン、果物と野菜のサラダ、それから今日は特別なデザートである大きな茶色いプディングが飾られた暖かなテーブルの真ん中には、今日は鮮やかな赤と緑の葉を揺らす猩々木と柊が飾られている。
これは端の席に座っている庭師のモリマが、今日の日のために用意してくれたものだ。
「嬢ちゃまの考案される菓子はどれも美味いのですが、このクリスマスプディングという物は、見た目が地味で不思議でしたが、存外美味いものですな。わしの好物が増えましたぞ」
「よかったわ、私の好きなお菓子なの」
そう言ってデルモが切り分けてくれたそれに舌鼓を打つモリマに、私も笑ってそれを口にする。
沢山の香辛料と、ドライフルーツ、蒸留酒、果物が混ざり合ってしっとりとしたそれは、前世の味そのままで、じわりと遠い記憶を思い出す。
昔で、私は実はクリスマスが苦手だった。
世界中がキラキラと色とりどりの光の粒で眩しいくらいに煌めき、華やかで浮かれたクリスマスソングが鳴り響き、街行く人は配偶者や子供、恋人と幸せそうに笑顔で行きかう中、一人ぼっちでそこにいて、仕事で疲れた体を抱えて歩き、その先にある静かで暗い家に帰るのが苦しかった。
そんなはずはないのに、一年間幸せであるように努力したのかと問われ、その評価が下された一日のような気がして、とても苦しかった。
子供の頃の暖かな家族との思い出があって嫌いではないからこそ、なおさら寂しく悲しく感じていた。
(今考えれば完全に被害妄想よね……でも、今は)
朝から暖かな食事が並び、笑顔が絶えないこの空間で笑んでいられることを幸せに思う。
「どうかなさったのですか? ネオン様」
心配げに私の顔を覗き込むようにこちらを見るアルジの言葉に、その場にいるみんなまで私を見る。
「いいえ、今日も皆で朝食を食べられることに、感謝しているの」
そう、感謝だ。
虚勢ばかりはって、弱音を吐くことができず、一人でいっぱいいっぱいになって体調を崩してしまう私を常に気遣い、そうならないよう心がけ、常に支えてくれる皆に、心から感謝している。
「だからね、あの……これを、貰ってほしいの。手作りなのだけど、その、日ごろのお礼なの。い、一応、防御の魔術も掛けてあるから、ちょっとのことなら皆の事を守ってくれると思うのよ?」
いち早く気付き椅子を引いてくれたデルモにお礼を言いながら、立ち上がった私は隠し持っていたそれを各々に、日ごろのお礼を言いながら渡していく。
それは、彼ら自身の髪の色の糸と、瞳の色の石、そして名前を編み込んだミサンガ。
「ネオン様! ありがとうございます! 大切にします!」
感動したようにそれを握りしめ、私に笑顔を向けてくれたみんなに、私も心から笑う。
「こちらこそ、いつもありがとう」
こちらにはクリスマスなんてないけれど、家族に等しき人達と共に過ごし、日々を感謝する。そんな日があってもいいのじゃないかと思い、用意したプレゼントは、喜んでもらえたようだ。
同時に、王都の母や兄、弟妹にも用意したミサンガと菓子は無事に届いただろうかと思い、朝食も終わり、騎士団へ向かう準備をしながら、手伝ってくれる皆の手首にきつく結ばれて揺れるミサンガに願う。
(どうか、私の大切な人たちが、そしてその人たちが愛してやまない人たちが。今日も、明日も、その先も、平穏に穏やかに、幸せに暮らしていけますように)
「Merry Christmas」
目を伏せ、祈るように呟いた私の手首にも、銀の腕輪といっしょに細い細いミサンガが揺れていた。
*** おまけ ***
猩々木月二十五日
その日、辺境伯騎士団内の医療院から、とんでもなく大きな雄叫びが轟いた。
近くを通った他部署の騎士達は、
「医療院からは時折やばいくらいに叫び声が上がるが、今回は過去一やばかった」
と証言していた。
その日から辺境伯騎士団十番隊隊員の利き手とは反対の手首には必ず、名前入りのミサンガがあり、その後の教会のバザーにて名入りではないが、可愛らしい図案と小さなビーズが編み込まれたものが販売されたことで徐々に騎士団内、モルファ領内へ広がっていき。
さらに名の編み込まれたそれによって命を救われた者が出たことで、近接する他領、そして王都にも流行の波が届くようになるのだが、それはまだもう少し先のお話である。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。
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誤字脱字報告もありがとうございます。
寒い日が続きますが、御身をご自愛の上、お過ごしくださいね。
☆★☆ 素敵なクリスマスを ☆★☆