133・軍議再開
「では、再開します」
カルヴァ隊長の一声で始まった軍議は、異様な空気に包まれていた。
明らかにこちらを意識したそれに私が僅かに身構えていると、すっと黒い袖の手が上がる。
(黒色の隊服は、西方辺境伯騎士団だったわね)
カルヴァ隊長から指名され立ち上がるのを見て、彼が休憩前の軍議でヤジを飛ばしていた男性だとわかった。
「先程の視察の件を、モルファ辺境伯夫人へ再度お伺いしたいのだが」
「ネオン隊長、いかがか?」
「かまいません」
にっこりと笑い頷けば、カルヴァ隊長が彼に質問を促し、彼も一つ頷いて私の方に体を向けた。
「南方辺境伯夫人には、初めてお目にかかる。西方辺境伯騎士団医療隊隊長アシーという」
「初めてお目にかかります、南方辺境伯ラスボラ・ヘテロ・モルファが妻で、南方辺境伯騎士団十番隊隊長ネオン・モルファです」
一応、と言わんばかりの適当で粗雑な所作で、胸に手を当てわずかに頭を下げた彼に、こちらは丁寧にあいさつし、会釈する。
すると、彼は非常に嫌そうに顔をしかめた。
(マナー違反、よねぇ。……西方辺境伯領のアシー家と言えば、たしか立法公ア・ロアーナの次男が婿に入った西方辺境伯ラミレジイ家の末の分家である子爵家よね。あの態度に言動はわざとなのでしょうけれど……まずは観察、良く相手を見て、公爵家の人間として恥ずかしくない行動言動をとること、ね)
貴族名鑑と養母の言葉を思い出しながら、私は静かに微笑むと彼に発言を促した。
「なにを、お聞きになりたいと?」
年のころはドンティス隊長と同じくらいだろう彼は、声を掛ければ、脂ぎったお顔ににやにやと嫌な笑いを浮かべ、私を頭の先から足の先までなめるように見ている。
おおよそ騎士とは思えない態度だ。
不快な質問を投げてくるだろうと予想でき、うんざりしながらも表情を変えず彼の発言を待っていると、彼はまさに、想像通りの質問を投げかけて来た。
「モルファ辺境伯夫人は、女だてらに医療隊の隊長を名乗り、若い騎士達を数多く率いていらっしゃるとか。その細腕で何が出来るのか、是非お伺いしたい。例えば……」
にたり、と舌なめずりでもするかのように、口元を大きく歪める。
「辺境伯卿を相手にするだけでは飽き足らず、医療班の名を隠れ蓑に、親や夫の爵位に胡坐をかき、若い騎士達を侍らせていらっしゃるのか? 社交が出来ぬ辺境では、それくらいしか楽しみはありませんかな?」
「貴様っ!」
「なんだと!」
「ネオン隊長を愚弄するつもりかっ!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、椅子が倒れる音がいくつも重なり、大きな声が上がった。
二番隊ティウス隊長、三番隊ブルー隊長、五番隊イロン隊長が西方医療隊長を睨みつけて、声をあげるのだが、それすら、彼の攻撃の餌になったようだ。
「おや、もうこれほどの隊長をたらしこんでいらっしゃるとは。だとすればやはり、医療院とは名ばかり。辺境伯夫人の友愛いや、享楽の場という事でしょうか? あぁ言い訳は結構ですよ。何を言ってもそうとしか思えぬわけで。騎士団に若い妻を置き、騎士達の風紀を乱すなど、南方辺境伯は何をお考えなのか。世も末ですなぁ」
「貴様っ」
「チェリーバ、やめろ」
にやにやと笑いながら旦那様の方を流し見る西方医療隊長に、一部の人間も同じく嫌な笑いを浮かべながら賛同するように頷いていて、それに殴り掛かろうとしたブルー隊長を、四番隊ニオ隊長が止めに入るのが見えた。
(開始早々これか。先ほどの会議で周りから止められただろうに……あぁ、休憩中に手を回したのかしら? なんてくだらない。それよりも……)
ちらりと、団長である旦那様の方を見れば、カルヴァ隊長を横に据え置き、いつもの機嫌悪げなお顔でそこに座り、場が乱れているのをただ静かにみて? いる。
(妻が暴言を吐かれても、旦那様は静観……。カルヴァ隊長は旦那様を窺っているわね。私がどう抑え込むのか見るつもりかしら? まぁともかく、事態の収拾が先ね)
「今のため息はなにか!?」
はぁ……と、顔を背け大きなため息をつけば、それを聞きとがめた西方医療隊長は、私を指さしたため、私は静かに首を横に振る。
「いえ。他者を貶めるためだけの下劣な言葉に、呆れていただけです」
「な! なんだと!」
唾を飛ばしながら、彼は私に向かって叫ぶ。
「そもそも軍議とはお遊びではない! 女子供が立ち入る場所ではない! 南方辺境伯は神聖な軍議を何だと思っているのだ! しかも、生意気にも口答えとは!」
「貴様! ネオン隊長がどれだけ我ら騎士のために心を尽くし、頑張ってこられたのかも知らないで!」
「かまいませんわ、ブルー隊長」
さらに声を上げ、彼に向かって行こうとしたブルー隊長を制し、私はにっこりと笑った。
「西方辺境伯騎士団医療隊隊長、アシー子爵にお伺いします」
「なんだ? 私までたぶらかそうというのか? まぁ、一度や二度なら相手をしてやっても……」
「いいえ、結構ですわ。それよりも」
にっこりとさらに笑みを浮かべ、私はガラに目配せすると、彼が持っていた定期報告用の書類の一部を届けさせた。
「なんだ、これは?」
「南方辺境伯騎士団医療院の定期報告書ですわ。本日提出予定でしたので、持っておりましたがちょうどよかったですわ。本来、外部の方にお見せするようなものではありませんが、何もないよりはましでしょう。どうぞご覧になってください」
それに、男は顔を真っ赤にした。
「定期報告書だと!? なんだってこんなものを私が見なければならないのだ!!」
「私がこちらで何をしてきたか、とのことでしたので書面にてお知らせしようか、と。どうぞ、ご覧になってくださいませ」
にこりともう一つ笑みを浮かべ、私はそれを説明する。
「先月ひと月分の、医療院の治療報告書になります。南方辺境伯騎士団医療院は私を隊長に、現在は直接患者に関わり治療と療養を行う看護班と、医療院に必要な雑事を行ってくれる元負傷兵達で作られた物資班に分かれております。看護班隊員は現在14名。物資班員は18名ですわ」
「元負傷兵?」
「はい。私の補佐官を務めてくれていますガラ・ルファもそうなのですが……お気づきになりませんでしたか?」
問えば、彼はわたしの元に戻ってきたガラを見、顔をしかめる。
「なるほど。暇を持て余しているご令嬢のお相手は、老いた傷物でも構わぬ、という事か?」
その言葉にすっと、腹の底が冷えた。
(騎士とは、残念な思考回路の方が多いのかしら? それ以上に、医療隊長というには、あんまりにも残念だわ)
彼の発した言葉に、流石ににやにやと笑っていた者達も止めに入ろうとするのが見えたが、それより先に私が言葉で制する。
「言葉はお選びになった方がよろしいですわ、アシー子爵」
「なんだと!」
静かに、低く、唸るように、腹の底から声を出す。
「傷物とは、誰に向けた言葉ですか? まさか騎士の名に恥じぬよう、命を懸け戦い、傷ついた誇り高き騎士に対してではございませんよね? もしそうだとおっしゃるのなら、騎士として、医療に携わる人間として、貴方を心底軽蔑いたします」
「なっ! 貴様っ! 私を誰だと思っているのだ! 私は西方辺境伯騎士団長からも信の厚い……」
「それ以上は結構ですわ」
かっと顔を赤くした西方辺境伯騎士団医療隊長が叫ぶのを無視し、私は静かに彼の手の中で読まれることなくぐちゃぐちゃになった書類を指し示す。
「私は、軍議と関係ない事柄の言葉を交わすつもりはございません。そちらの報告書は、私が医療院の責任者として作成した南方辺境伯騎士団団長へ提出する報告書、求められれば王家にも提出を許される公式な書類です。けして嘘偽りはありません。周りの方とご確認していただき、その上で、医療院に関する事柄のみ、ご質問願いますわ。それと」
すっと笑顔を消し、目を半分だけ伏せる。
「先程の、私個人に向けられた侮辱の言葉に対しては、西方辺境伯騎士団を統べるラミレジイ西方辺境伯家、アシー子爵家に対し、モルファ辺境伯家より正式に抗議させていただき、また実家であるテ・トーラ公爵家へも報告させていただきます」
「なっ! たかが軍議の場の会話ごときで大袈裟だ! そんなものは横暴だ!」
私の言葉に明らかに狼狽し、大騒ぎを始めた西方辺境伯騎士団医療隊長に、視線を逸らすことなく続ける。
「大袈裟? 横暴? いいえ、当然のことです。こちらには今、王宮騎士団、北方辺境伯騎士団、西方辺境伯騎士団、南方辺境伯騎士団の重鎮の皆様が集まっておられます。その皆様が参加される軍議とは、南方辺境伯騎士団副隊長の補佐官が記録係を務めていることからもわかる通り、公の場です。その公の場で、西方辺境伯騎士団の代表としてお見えになったアシー子爵は先程の発言をされたのです。で、あれば。私も南方辺境伯騎士団十番隊隊長として、モルファ辺境伯夫人として、テ・トーラ公爵家の者として対応するだけです」
そういえば、彼は助けを求めるような目で周囲を見渡した。
しかし彼の周りにいるのは顔色悪く、目を背ける者達ばかり。
ようやく事態を認識し、彼は真っ青から真っ白に顔色を変え、私にこびへつらうように笑みを浮かべた。
「そ、それは……先ほどの言葉は本心などでは、決して……。モルファ夫人へお、お詫びを」
「必要ありません。口先の詫びだけで済む状況はとうの昔に終わっております」
「な……モルファ卿!」
「……ネオンの言うとおりだ。正式に抗議させていただこう」
「南方辺境伯騎士団からも、同じく、正式に抗議させていただきます」
「そんな……そ、んな……」
私の言葉に、旦那様である南方辺境伯騎士団長、そしてその隣に座るカルヴァ隊長に視線を向けるが、二人が何の感情もなくそう告げたことで、彼は絶望した、真っ白な顔になると、体をよろめかせ、力なく椅子に座り込み頭を抱えてしまった。
そんな彼の手から落ちた書類を、傍にいた南方辺境伯騎士団の書記官が集め整え、私に視線を向けてくる。
私は西方辺境伯騎士団医療隊長から視線をそらすと、その周りで静観している騎士達を見、それから書類を集めてくれた書記官に頷いて合図をする。
「先程申し上げました通り、今、書記官が持っている報告書が、南方辺境伯騎士団医療院のこのひと月の全てです。医療院の環境整備、清拭やリハビリなどの看護方法の変更、医療隊専属医による治療実績、そして受傷・入院した騎士達の入院中・退院後の経過と、騎士団への復帰方法……。私に何が出来るのか、何をしたのかと言い、貶める前に、まずはそれを見ていただけますでしょうか。
その上での質問であればいくらでもお答えいたします。そして先の会議でお話しした条件を全面的に聞いていただけるという事であれば、医療院責任者として各隊の医療隊員を受け入れさせていただきます」
その言葉に、騎士達が手をのばし、書記官から書類を受け取って回し見ている。
「よろしいか」
「どうぞ」
書類に目を通し、その真偽に対し騒めく騎士達の中で、いち早くそれに目を通し終わった、深緑の騎士服を着た一人が手を挙げた。
「北方辺境伯騎士団一番隊隊長ペシュカ・ショーロンと申します。南方辺境伯騎士団十番隊隊長モルファ隊長に伺います」
(行政公ド・ラドの一の姫を娶られた北方辺境伯ブリジタエ家に長く忠誠を誓う番犬のショーロン伯爵家……一度会った事があるわ。テ・トーラ公爵当主の言っていた要注意人物の一人、ね)
頭の中の貴族名鑑と関係図を照らし合わせてから、にこりと微笑む。
「お久しぶりですね、ショーロン伯爵」
「覚えておいででしたか」
「もちろんですわ。行政公家と北方辺境伯家の結婚式の後でしたわね」
穏やかに微笑めば、彼も穏やかに笑みを浮かべる。
「まさかあの時にお会いした宝石姫が、このように医療院を立ち上げ、慈善事業を行い、軍議に参加なさるようになるとは思いませんでした」
「ふふ、私もですわ」
社交場であるように、穏やかに腹を探り合い、会話を進める。
「コルデニア様は、ご健勝でいらっしゃいますかしら?」
「……若奥方様は辺境伯領へは、一度も足を踏み入れておられないため、私共からお話しできる事柄がないのです。申し訳ございません」
「そうでしたわね。申し訳ございません」
互いに静かに頭を下げ、それから、先に言葉を放ったのはショーロン北方騎士団一番隊隊長だ。
「こちらの報告書のとおりですと、生存率が飛躍的に上がっておりますが?」
「私が医療院を立ち上げる前からのことを踏まえてですと、そうなります」
「それを可能にした、考えられる要因はなんでしょう」
その答えには、私は一度口を閉ざす。
どう伝えれば、それが違和感なくこの世界で浸透するのか……だ。
「……説明するのは簡単ではありません。ですが、私がこの騎士団へ来て最初にやったことは、環境の改善、患者への援助、そして食事の見直しです」
「環境と援助と見直し、ですか」
「はい。こればかりは、見ていただいた方がわかりやすいと思います。ですが、先程も申し上げました通り、何よりも患者を優先し、私の部下である医療院にいる隊員から学ぶことへの了承の上です。先ほどのように、己が地位、階級、性別、年齢を振りかざし、疎かにすることは許しません」
「……ふむ」
腕を組み、右の指で顎を押さえ、思案するショーロン北方騎士団一番隊隊長。彼と共に席に着く人たちも、一握りの人を除いては、私達のやり取りを聞き、意見のやり取りをしているのが見える。
「モルファ隊長が譲れない点は、そこですか」
「急な事ですので、今浮かぶのはこれくらいです。実際に受け入れた時、問題が出れば話し合いをし、お互いが納得する形で解決したいとは考えています」
「先程のように、ご自身の地位、御実家を持ち出すようなことは?」
「ことと場合によりますわ」
「ご自身がそれを許さない、とおっしゃっていたが?」
片眉を上げ、鋭い視線を向けるショーロン北方騎士団一番隊隊長に私は視線をそらさず頷く。
「ことと場合による、と申し上げました。患者はもちろんですが、医療隊の隊員達は、私が信頼し仕事を預けている大切な部下たちです。そんな彼らに対し、理由なき暴力暴言は許容できません。彼らを守るためならば、私はそれを使います。ですが、正当な理由がある場合には、私はそれをしません。しかしそういった問題が起こる前に、相互理解……話し合いで互いが納得できる形で解決できればと思っています。ただし」
にこっと、笑う。
「先程のように、女だから、子供だから、平民だからという理由で彼らを害し、業務を妨害した場合はその必要はないと判断し、躊躇なく処罰を行います」
「……なるほど。ではもう一つ」
「何でしょう?」
私の言葉の後、しばらく考え込み、重々しい雰囲気で顔を上げたショーロン北方騎士団一番隊隊長は、やや躊躇ってから口を開いた。
「……逆に、ですが。先の会議でシグリッド近衛第三副隊長が提示した身分を持つという条件に当てはまらない者。モルファ十番隊隊長殿の部下と同じく、年若の者、平民隊員の医療院への受け入れは、可能でしょうか?」
「え?」
想定していない質問に、一瞬固まってしまった私に、ショーロン北方騎士団一番隊隊長が言う。
「私が管理している医務室の、やる気がある若い者をお願いしたいと思うのです。モルファ十番隊隊長は、先ほど自身の医療院には女性や令嬢がいると言われた。そして自身の部下を守るために力を尽くす、と。そのお話を聞き、北方辺境伯騎士団は若い者、そして女性隊員をこちらに派遣したいと考えます。特に優秀でやる気のある者を選出しましょう。学ぶ側も教える側も同じ立場であればやりやすいでしょうし、彼女たちの身の安全はモルファ十番隊隊長が守ってくださるだろうと判断しました。……難しいでしょうか」
「それは……」
ショーロン北方騎士団一番隊隊長の言葉を頭の中で反芻し、理解した私はすっと背筋を伸ばした。
「いえ。女性隊員を受け入れるという意味で、騎士団同士ですり合わせが必要でしょうが、先程の約束を守っていただけるのであればお受けいたします」
組んでいた腕を解き、すっと右腕を胸の前に置いたショーロン北方騎士団一番隊隊長は、静かに頭を下げた。
「感謝いたします」
(……痛い……)
ショーロン北方騎士団一番隊隊長が頭を下げたことで、王立騎士団、西方辺境伯騎士団も派遣する者を選定し、話し合いを持つということで決着し、私は一息つくことが出来た。
のだが、新たな問題に、直面していた。
(まだ、軍議は終われないのかしら)
時計を見れば、すでに正午を回っている。
(医療院の話に参加するだけではなかったの?)
医療隊が他の騎士団から騎士達を受け入れると決定し、次の議題へ入るところで退出しようとしたところでなぜか旦那様から最後までいる様に、と留め置かれた。
昼を回り、全員の目の前には軽食と茶も出されたのが、食指は動かない。
なぜなら。
(痛み止めが切れた……)
骨の折れた胸が痛みを訴え始めてからどれくらいたっただろうか。
ぼんやりと感じていた痛みは今では鮮明になり、絶えず痛み止めを飲み続け、忘れていたこともあってか、今は息をするのもつらい。
(前世で肋骨2本折ったことがあるけど、こんなに辛くなかったんだけど……)
仕事で患者が暴れた時にろっ骨を折ったことがあるのだが、痛み止めを飲み、バストバンドという骨折部分を圧迫する装具をつけ、シップを貼りまくって仕事をしていた記憶がある。
だが、今はそれどころではなく座っているだけでも辛いし、多分熱も出ている気がする。
「隊長、大丈夫ですか?」
「……つらい、わ」
そっと後ろから尋ねてくれたガラにそう言えば、医療院に向かい、薬をもらってくると言ってくれ、会議室を出て行ったのだが、なかなか帰ってこない。
「次の議題は……西方の国にきな臭い動きがある事について……」
(まだあるのか……うぅ……)
一つ息を吐き、その動きで胸に激痛が走る。
声が出そうになるのを押さえ、ぼんやりと軍議の行方をみていると、先ほど私に暴言を吐いた騎士よりもさらにさらに深い緑色の隊服を着た西方辺境伯騎士団の男性が立ち上がった。
「西方辺境伯領に……軍する……魔物……砦が……」
(あぁ、聞こえにくいわ……でも、戦いが起きる、のかしら? それは嫌だわ……)
痛みと熱でぼんやりとした頭で報告を聞きながら、酷く渇く喉を茶でうるおそうと、そっと茶器を手にする。
「……ここで……有益……情報をくださった……商……の……殿を……」
「……軍議……参加させて……」
良く聞こえない耳に、なぜか先ほど別れた人の声が聞こえるな、とぼんやりと思い、顔をあげようとして。
胸から全身に、痛みが走った。
カシャン……ッ
いう事が聞かなくなっていた指先から、カップを取り落としてしまい、視線が集まるのがわかった。
しかし、すでに私は謝るどころか、声を発することも辛くなっていた。
「ネオン隊長!」
「……ネオン隊長? どうなされた?」
ずっと遠くから、ドンティス隊長の声が聞こえたが、それも、徐々に遠くなっていく。
次の瞬間、体の半分に大きな衝撃と、激しい痛みを感じ、目の前はあっという間に真っ黒になった。
☆話の流れ上、次の更新は旦那様の視点です(ネオンが倒れた後の軍議の場です)
頑張って更新します!
お読みいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブックマーク、レビュー、感想などで作者を応援していただけると、大変に嬉しいです!
また、誤字脱字報告も助かります!ありがとうございます。
☆書籍第一巻、コミカライズ第一話(コミックグロウルで検索!)よろしくお願いいたします♪