発売記念・閑話・心躍る新生活の始まり(軟禁生活ですけどね?)
本日2024年8月8日 私のデビュー作になりますこの作品
『目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。』
が、ブシロードワークス様から発売になりました!
このお話に関わってくださったすべての皆様に、心から感謝申し上げます!
加筆修正……というよりは、様々なことが同時に進んでいたのが、整理されて読みやすく、進みやすくなってます(^^
イラストは茲助先生で、かなりの美麗イラストなので、御手に取っていただけ売ると嬉しいです(^^
どうぞよろしくお願いいたします!
と、言うわけで、本当でしたら今日こそ本編の続きを公開したかったのですが……
すみません。勤務先が残念なほどパンデミックで、ここ5日間、心と体力をかなり削られておりましてこれっぽっちも間に合いませんでした……
頑張って書いたSSも、前編までしか書けず情けない限り。
落ち着き次第本編もSSも頑張って更新していきます!
どうぞよろしくお願いいたします。
2024年8月8日 猫石
「ネオン嬢。君には申し訳ないのだが(略・要約・君とは白い結婚だ。最低限の社交以外何もするな。後継者も生まなくていいから床も共にしない。派手に遊びまわらなければ、小遣いやるから好きに暮らせ)何か要望はあるか?」
有無を言わさずこれまでの全てを捨てさせられた不満と怒り。
見知らぬ土地、見知らぬ場所で生活し、見ず知らずの男に組み敷かれ、見ず知らずの男の子を生まなければならないと言う恐怖。
その中で、結婚式の時にわずかに感じ、脆くも砕け散った、愛はなくともよい関係は築けるかも……と塩粒ほどの期待。
それが、彼のくそ長くて難しい言葉ですべて覆るなんて思っていなかった。
もしかしたらよい関係が築けるかも、なんていうわずかな期待が、全然別の形で叶えられるなんて、私でさえ思わなかったのに、誰が想像できただろう。
(やった! やったわ! 私はちゃんとあのくそ爺たちのクソみたいな言いつけを一応ちゃんと守ろうと努力はしたわよ! それをひっくり返したのは相手! だから私の責任じゃないから、あの爺たちに怒られることもない! あぁ、本当によかった!)
と、旦那様になった男の言葉に一番歓喜したのは誰でもなく、私。
今日の今日まで絵姿しか見たこともなかった、好きでもない青い血を引いた貴族の男に、私に何ら一点の瑕疵なく、全て相手の有責で(ここ大事!)金輪際! 指一本! 触れられず、それどころか社交以外は一切の関与を受けず、何不自由なく生きていけることが確定したのだから。
◆
私の名前はネオン。 つい一年前までは、『宿屋のネオン』と呼ばれていた。
ここ一年は『テ・トーラ公爵令嬢』『テ・トーラの宝石姫・ネオン』、もしくは『はりぼて姫』と呼ばれていて、今日からネオン・モルファ辺境伯夫人に名前は変わった。
はっきり言ってころころ変わりすぎだ。
八歳までは紛れもなく、我が国の最も権力を持った三大公爵家の一角を担う司法のテ・トーラ家の惣領娘だったが、くそ親父の所業で突然市井に母子諸共放り出され『宿屋のネオン』になった。
のだが、一年前、テ・トーラの新当主(父ではなく叔父)に無理やり連れ戻され、貴族に戻らされ、さらに政略結婚させられた。
正しくは、今回の政略結婚のための貴族への復籍だったのだ。
脅迫まがいに家族と引き離され、半年間の地獄のような領地監禁淑女教育のあとは、王都軟禁社交修行を経て、王都から馬車で一週間以上かかる、遠く離れた辺境の地に嫁に出され、顔も知れないような男の子供を命がけで産まなきゃいけないのかとうんざりしながら家族のために破廉恥な服を着てベッドの上に座って待てば、やって来た旦那様に威圧的、一方的に『白い結婚』を言い渡されるという、全くもって理不尽極まりない状況だったのだが、自分は政治的な意味合い以上の興味はないし、最低限の社交以外、後継つくりも女主人の仕事もしなくていい! だなんて。
(何の天からの助けかしら?)
女神様。貴女の事は、心底、ず~~~~っと恨み、信じることを辞めていたけれど、最後の最後で、母さんや兄弟とは会えなくなったけれど、私を貴族のしがらみ的なものから、完全とまではいわないまでも解放してくれてありがとう! 今日からご飯の時と礼拝の時くらいは、ちゃんとお祈りしますね?
と、まぁ。
心から歓喜した私は、目の前で難しい顔をしてこちらを睨みつけている名ばかりの旦那様に、公爵夫人仕込みの貴族の微笑みを顔に張り付けてお礼を言った。
「正直にお話ししてくださってありがとうございます。ご命令通り、辺境伯夫人として求められるお仕事だけはしっかり行わせていただきます。(略・要約・約束守るから、そっちも王都で暮らす実の家族だけは絶対に守ってね)後は……そうですね、隣にある離れに住んでも構いませんか?」
そういえば、先ほどまで眉間にしわを寄せ、威圧的だった旦那様は目を見開いて、それから戸惑った顔をして、本当にそれでいいのかとか何とか言った。
(いや、貴方から言いだしたことだし、今更じゃない?)
今更やっぱりやめた、なんて言われても困るので、さっさと最上礼をしてから寝室を出た私は、傍にいた侍女に客室に案内してもらい、サラサラシーツにふかふかベッドでしっかり朝まで爆睡した。
そして翌朝は、真っ青な顔をしてやってきた侍女長に身支度を手伝ってもらった後は、とっても美味しいご飯をたっぷり食べ、呆然としている魔導司法士様と、家令・侍女長にだけ昨夜の状況と旦那様との約束を説明し、口外しないと約束させたうえでしっかりとした魔導契約を交わすと、貴族然としたまま旦那様にお礼を言って執務室を出、新たな住まいに向かうために先ず、自室に戻ろうとした。
のだが。
「奥様! 奥様、どうかお待ちくださいませ」
そんな私の後を追ってくるものがいたのだ。
引き留められるのが嫌で振り返りもせず歩く私の後ろを、ぴたりとついて来る足音。
「本当に離れでお暮しになるおつもりですか?」
切羽詰まったその声に、私は立ち止まらず言葉だけ返す。
「旦那様が了承なさったのは貴女も見ていたでしょう? これからすぐに離れに移るわ。申し訳ないけど手伝ってくださる?」
「しかし、女主人が結婚式翌日に本宅からお出になるなど」
慌てた様子の侍女長は、懇願という言葉が最適なほど、私に深く深く頭を下げた。
「女主人として、どうかお屋敷にとどまっていただきたく存じます」
(わぁ、めんどくさい)
お願いとの割に、「自分が正しい」と思っているような言い方が鼻につき、私はこれ見よがしにため息をつく。
「私が離れで暮らしたいと申し出、それををお許しになったのは旦那様だわ」
「しかしそれでは辺境伯家の面目が立ちません! 奥様、どうかこちらで、女主人として旦那様とお過ごしくださいませ!」
なおも食い下がって来る侍女長は、諦めそうにもない。
(しょうがない、はっきり言うか……。)
「貴女、先程同席していた侍女長よね?」
「は、はい」
ピタリと急に足を止めた私にぶつからぬよう気配りをして立ち止まった女に、彼女がそうであることを確認すると、淑女として微笑んだ。
「貴女もちゃんと聞いていたでしょう? 『白い結婚』を一方的にお決めになり私に申し出られたのは、貴女の主人である南方辺境伯爵様です。私はそれに従い、旦那様のお目汚しにならぬよう、離れに移ると決めただけ。それは旦那様も了承なさったことで、契約も終わっているのよ? 離れへの引っ越しもお飾りの妻も契約なのよ。それをこうして引き留めるのは、主人の意に反する、という事じゃないかしら?」
「そ、それは……確かにそうなのですが……」
「そうでしょう? 私は旦那様が申し出られたことにただ従っただけよ? だからもし異論があるのなら、先ほど皆が集まっている場で進言するべきだったし、今も、そしてこれから先も、このことについては私ではなく旦那様に言うべきだと思うわ。――あぁ、そこの貴方」
「は、はい!」
なおも私の行動を諫めようとする侍女長から視線を離し、遠巻きにこちらを見ていた、旦那様と同じ年位の上級使用人の衣服に身を包んだ侍従か執事らしき男性に、私は視線を移す。
「申し訳ないけれど今から人手を集めて、昨日持ち込まれた私の荷物をすべて、今日中に離れに移して頂戴。旦那様の許可はあるから大丈夫よ」
「奥様! どうかお考え直しを!」
「え!? あの」
私と侍女長の間で困っている彼に私はしっかりと命令する。
「早くして頂戴。それとも辺境伯家では、女主人よりも侍女長の命令が優先されるの?」
「い、いいえ! かしこまりました、今手配を始めます!」
強く言えば、彼は深く頭を下げ、バタバタと走って去っていった。
「奥様、どうか、どうかお考え直しを。旦那様には……」
「くどいわ」
なおも食い下がってくる侍女長に、私は笑みを消し、静かに言う。
「旦那様の許可は得ているの。それとも、貴女は当主の意向を無視し、名ばかりとはいえ女主人の命令に、背くつもりなの? お飾りなら何をしてもいいとでも?」
「そのようなつもりはございません! しかし!」
「否定したり意見したりという事は、やはり女主人となった私の命令は聞けない、という事ね? ……はぁ。テ・トーラ公爵家も随分と甘く見られたものね。辺境伯家の侍女一人、言う事を聞かせられないのだもの」
ぼそりとそう呟けば、侍女長は顔をこわばらせ、それから苦しそうな顔をしたまま静かに頭を下げた。
「……奥様のおっしゃる通りにいたします」
「理解ってくれて嬉しいわ。では、私の荷物のある部屋に案内してくれる?」
「畏まりました、此方でございます」
にっこりと笑うと、彼女は頭を下げてから、私の2歩前を歩き出した。
「離れはすぐにでも使える状態かしら?」
「日頃より掃除を怠っておりませんので、大丈夫でございます」
「そう、良かったわ。移り住んだら埃まみれで大掃除、では大変だもの。あぁ、そうだわ。先ほども言ったとおり、あちらには私一人で移り住みます、使用人はいりませんからどうぞ、私の事は捨て置いてちょうだいね。」
「それはいけません!」
「あら? どうして?」
首を傾げながら微笑むと、今だ顔色の冴えない侍女長は歩きながらも静かに頭を下げた。
「公爵家の御令嬢を一人で離れに住まわせるわけにはまいりません。どうか、最低限で結構です! 執事と侍女、それからメイドと護衛の騎士だけは、どうかお傍においてくださいませ」
「あぁ、本当にそういうのはいらないわ」
ふぅっと、これ見よがしにため息をつき、ちらりと視線を彼女に向ける。
「ほら、よくあるお飾り妻だといじめられても困るし」
「そんなことはさせません。 先ほど奥様は、別居を許可なさったのが旦那様の命令と仰いました。であれば、離れに人手を置くのもまた、旦那様の命令です」
なるほど、確かにそんなことを言っていた気がする。
「……そうね、じゃあ仕方ないわ」
肩を竦めた私は、後で追い返せばいいや、とその場ではとりあえず頷いておいて、私は侍女長の後を進む。
しかし、離れへの引っ越しに浮足立っているのか、時折窓の方を見れば、私の顔がにやついていて、慌てて表情を貴族的笑顔に戻す、を繰りかえす。
そんな風に、時折、にやける顔は抑えられているかしら? と思いつつ窓を見ると、木々に囲まれた、青灰色の離れの屋根が見えた。
(あ、あれが例の離れね。へぇ、白亜の小さな小屋敷って感じで、こぢんまりとしていて素敵。悠々自適の一人暮らしだもの、楽しまなければ損だわ)
そう思って視線を廊下に向けようとしてガラスに映って見えた自分の顔は、抑えるべき頬がすっかりゆるんでしまっている。
(いけないいけない。まだ一人じゃないんだから、今はまだお嬢様の振りしなきゃ)
そう思いながらも、昨夜まで私の気持ちを鬱々とさせていた『誓約』から解放された今、浮足立ってしまうのは本当にしょうがなく、今朝食べた朝食を思い出す。
卵の料理にパリッと美味しいサラダ、それから真っ白で柔らかいパンにスープ。
実家の晩御飯よりも豪華だった朝ご飯に、温かくなったお腹を押さえて考える。
(うふふ、今日の朝ご飯も美味しかったから、きっと食材がいいのよね? おかみさんに習った肉のスープ、作ってみようかな? 上等な小麦粉があるなら、パンどころかお菓子も作れるわよね?)
そう考えれば、新しい生活がとても楽しいものの様に思えてくる。
(そういえば旦那様のお部屋には本がいっぱいあったわ。という事はもしかしたら書庫もあるかしら? 引っ越しが落ち着いたら本が借りられないか、聞いてみるのもいいわね)
心の中で指折り数えながら、案内された部屋にたどり着いた私は、そのままやってきた使用人たちにお願いして、馬車五台分の荷物を半日がかりで離れに運び込んでもらうと、新しい生活を開始したのだった。
最後に
大きな地震がありましたね。これ以上被害が大きくなりませんように
また、穏やかな日常に戻りますように……
皆様、気を付けてお過ごしくださいね。