99・リ・アクアウムへ(後篇)
学舎の外部者用玄関から一度大通りに出、続く生垣と塀が途切れて現れた『女神の医療院』と大きく書かれた看板を掲げる門を潜り、私たちはその奥にある建物に入った。
受診を希望する者を案内する役割を請け負ってくださった修道士様が待機する受付で、本日受付をした患者の診察はすべて終わっていることを確認した私たちは、マイシン先生がいるという診察室へ向かった。
開いたままの扉を数回ノックし、声をかけて中に入る。
「こんにちは、マイシン先生。」
「……おや? まだ患者さんがいましたか。 申し訳ありません、どうぞこちらへ。」
水場で手を洗っていたマイシン先生は、少し慌てた様子で手洗いを終え、近くに下がっていた手拭いで手を拭くと、優し気な笑顔でこちらを見る。
「と、これはこれは。 辺境伯夫人でいらっしゃいましたか。」
少し驚いたように目を見開き、すぐに先ほどまでの穏やかな笑顔に戻ったマイシン先生は、私に向かって深く頭を下げた。
「患者と間違うとは。 大変失礼いたしました。」
それには私は首を振る。
「いいえ、今日はこのような姿で、お忍びできておりますからわからずとも当然です。 と、言いたいところですが、実は誰も騙されることなく、いつも通りに対応してくださるので、少々つまらないと思っていたのです。」
それは私の本心。
せっかく色変わりの魔法具を使用し、市井育ちの私が納得する商家の娘風の装いである。少しは『どなたですか? え!? まさかっ奥様っ!?』と驚かれることを期待していた。
そう言って笑うと、マイシン先生は困ったように眉を下げて首を振った。
「それは、申し訳ないことをいたしました。いえ、本日は魔道具をご使用になっているのですね? きっと噴水公園や市場などでお会いしたら、私とてわからなかったかもしれません。しかし本日は先ぶれも頂いておりましたし、何より、辺境伯家や騎士団の方が奥様の傍に仕えておられる。そうなれば、奥様であるとおのずとわかるものです。」
「そう言われればそうですね。」
マイシン先生の答えに、私はなぜそこに気が付かなかったのかと思った。
確かに私の見た目が変わっても、よく一緒にいる看護班のアルジやレンペス、執事のデルモが変わらないのだから、先ぶれまであれば騙されるはずもない。
「それで、子供たちもすぐわかったのですね。」
先ほどあった事も伝えると、マイシン先生は穏やかに微笑みながら頷いた。
「それは違うと申し上げておきましょう。大人は第一印象……見た目に簡単に騙されます。ですが子供たちは純粋に奥様を慕っている。そのためすぐに奥様だと解ったのでしょう。」
「お菓子の匂いが決定打だったみたいですけどね。」
うふふっと笑いながら籠を指さしたアルジに、マイシン先生はふっと笑った。
「それはそれは。確かに子供たちにとって、奥様と同じくらい魅力的な香りだったのでしょう。」
私と菓子の入った籠を見比べ、眉を下げて笑ったマイシン先生は、それで、と私達を見た。
「それで、今日は視察でいらっしゃいましたね。」
その問いに、頷く。
「えぇ。先に孤児院と学舎の視察を終えて来たところです。皆いい子達ですわ。」
「さようですか。 相変わらずお忙しいですが、無理はなさらないようにしてください。」
「えぇ、先生方のおっしゃる通り、しっかり休むようにはしておりますわ。 それに、こちらに来るのも、子供たちに会うのも、私の楽しみなのです。今日は素晴らしい作品も見ることが出来たので大満足ですわ。それで先生。」
にこっと笑って、私は先生の方を見た。
「医療院の方はいかがですか?」
そう言うと、先生はそうですね、と私達を応接セットの方に案内してくれた。
「奥様の助言で導入した『患者番号』と患者用の紙のカルテを使用しているので、何度も診察に来る患者の管理が大変に行いやすいです。 この辺境伯領の領民は孤児だった者も多く、自分のルーツを『名前』でしか持たぬ者も多い。ですので、こちらから患者へ番号を与え個人の病の情報を管理するというのは画期的だと思います。
それと『家に帰った時』『食事の前』に『うがい』『手洗い』を、食事の後には『歯磨き』をするようにと、騎士団や教会、領民たちの集う場所や学舎などで広めたのが、近ごろ領民たちに浸透し始めたようです。おかげで食あたりや風邪に罹る事が少なくなったと、皆が不思議そうに言っております。」
「それは良かったですわ。」
「はい。 ですがこうして診察をして気になったのは、領民たちに皮膚病を持つ者が多い事です。 辺境伯領に長く滞在しておりますが、初めて知りました。」
「皮膚病、ですか……。」
「えぇ。 手足や体に湿疹ができるようですね。 痒みを伴うため、掻き毟れば浸出液が多く出ます。膿を持つ湿疹の者もいます。」
「人間間でうつし合うようなことはありますか?」
「現在経過確認中です。 そして貴族や裕福層では見たことがありません。」
「……なるほど。」
(貴族を見てきた医者である先生がそう言うとすれば、市井で暮らす者の間で広まっているのか……。 そうすれば虱やノミなどの病害虫か、それとも農作業での接触性皮膚炎か……どちらにせよ、今度は身体の保清か。どう広めるか……。)
うがい手洗いは基本的な感染予防対策だが、その意味が解らぬ人に、知識を習慣として広めるのは難しかった。
生活の一部として、農耕で生計を立てる者の多い辺境伯領で『手洗い』だけは知識としてあった。だがそれは、生活の上で拭うだけでは駄目なひどく汚れた手を、牧場や畑の間を流れる農業・畜産用水や、小さな川の清水でざぶざぶと適当に洗うだけのもの。飲水用の綺麗な井戸があるが、それは町や集落の中だけのため、仕事中に手が汚れれば、喉が渇けば、何が流れているかわからないそれが手を洗い、飲み水になる。
動物の排せつ物が混ざり流れた水での手洗いに飲水など、知識があれば不衛生極まりないと思うが、知識がなければただ単純に生活の一部。
そんな環境に、それ以上の知識である『感染予防』という意味での手洗いとうがいの知識を入れるのは、考えるよりもずっと難しい。
騎士団では医療院や食堂から、市井では医療院や学舎から。そうすることで軽い風邪や病気を予防することが出来ると根気よく伝え続け、ようやく皆が生活の中で実感し、浸透しつつあるようだ。
しかし、ここで出てきた皮膚病の問題だ。
ノミ虱の害虫、接触性皮膚炎(アレルギー物質が皮膚に触れて炎症を起こすこと)であれ、次に必要になってくるのは正しい掃除洗濯の知識と、入浴を勧めたいところである。
しかし少なくともこの国に『日本式の入浴』の文化はない。湯を張った湯殿で泡立ちの悪い石鹸や香草を使い、湯を抜いて、別に用意している新たな湯で泡を洗い流すというスタイルが一般的だ。
しかし、一般的にと言っても其れは潤沢な財を持つ貴族や豪商の話だ。
大きな桶に大量の綺麗な水を溜めて沸かし、風呂に入るという事は、大変面倒で、大変贅沢な事なのだ。
下級貴族やそれよりも財を持つ裕福な家でも週に1度か2度、旅行に行けるような者はその時に。生涯を風呂と縁がない者もおおいだろう。
南方辺境伯領は平均的には高温低湿、贅沢の出来る貴族と違い、前世の日本のように毎日しっかりと風呂に入るような必要はない。
が、不衛生から広がる皮膚病があるとすれば、保清は勧めたいところだ。
(畑仕事の後で、汚れた体を洗う……今はきっと、川や湖で水浴びをする、か。各々の家で大きな盥に湯を張り沐浴をする……のは火の後始末の事を考えると難しいかもしれない。江戸時代の銭湯の様に、大きな公衆浴場か、北欧のサウナか……混浴は問題外であるが、同性であれば他人と風呂に入るというのは、こちらの文化に合うかしら?)
マイシン先生から皮膚病の話を聞きながら、そんなことを考えつつ、医療院開設から今日までの患者の数と、受診した症状、年齢を事細かく情報として得た後は、医療院として足りない物(主に消耗品や、生薬の類)を確認すると、皆に挨拶をし、菓子を置いて修道院を後にして商会に向かった。
先ぶれが出してあったお陰で、商会でも難なくいつも使用している貴賓用の部屋に案内され、商会長たちがやってくる。
医療院や修道院で必要な消耗品や、薬草園では作れない類の生薬などを注文した後は、現在商会で取り扱われている質のいい毛糸を見せてもらい、その中から私とアルジの好みになってしまったが、綺麗な色の毛糸と、刺繍糸、次のバザーで売るための菓子の材料なども手配して、商会を出た。
「ネオン様、待ち合わせまでまだ時間がありますが、どうされますか?」
商会を出たところで、デルモにそう言われた私はアルジを見た。
「そうね……そうだわ、アルジ。いつかの約束通り、町案内してくれるかしら?」
そう言うと、大きく目を開けた後、破顔したアルジ。
「はい! お嬢様! このアルジにお任せください!」
とん! と胸を叩いたアルジは、私の手を取ると意気揚々と広場を歩き出した。
「まずはやっぱり屋台ですね! 何にしましょうか。やっぱりここは定番の肉串ですかね!?」
「アルジさん、お嬢様になんてものを勧めるんですか! お嬢様、この時間でしたらすぐにレストランかカフェを手配いたしますので……。」
「いいのよ、デルモ。元々そのつもりだったもの。」
勢いよく噴水公園に並ぶ屋台に足を向けたアルジのそんな言葉を聞いて、慌てて彼女を止めようとしたデルモを制し、私はその後をついていく。
「さ、案内して頂戴。楽しみだわ。」
そう言ってアルジの方を見れば、彼女はすでに一件の屋台で肉を焼くおじさんに声をかけ、大ぶりの肉を串に差して焼いたものを4本、手に持っていた。
「さぁどうぞ!」
「まぁ、美味しそう! 鈴蘭祭の時とは違うものね。早速頂くわ! でも、その前に。」
ジュウジュウとまだ音を立てている左右の手に2本ずつ握られた肉串。
その内の、左手の串を2本とも受け取ると、デルモとレンペスに一本ずつ押し付けた。
「お二人も、熱いうちにどうぞ。」
押し付けられ、何か言いたげな2人を無視して、アルジから私の分の串を受け取ると、ふ~ふ~息を吹きかけて、ぱくっととかぶり付いた。
パリッとした少し焦げた皮と、塩味の効いた柔らかい肉は、噛むごとにじゅわぁじゅわぁと油と肉汁が口の中に飛び出してくる。
「うん、美味しい!」
私の言葉に、すでに肉を頬張っていたアルジは頷き、デルモとレンペスも顔を見合わせた後、苦笑いをしながらかぶり付き、そしてうん、と大きく頷いた。
「あぁ、これは美味しいですね。」
「美味いです。野営で食べるときも、これくらい塩が効いていれば嬉しいですねぇ。」
と、声を上げた。
「お嬢様、今度はあれにしましょう! 買ってきますね!」
肉を食べ終わり、次の屋台へ向かおうとしたアルジを、私は止める。
「あぁ、待って頂戴。 人数分買うとすぐにお腹いっぱいになってしまうから、一個買ってみんなで分けましょう? そうしたらいろいろなものをたくさん食べられるでしょう?」
私のそんな提案に、アルジは一瞬躊躇したものの、わかりました!と買いに行ってくれたのだが、青い顔をしたのはデルモとレンペスだ。
「主と同じ皿の物を一緒に食べるなど、私には……」
「私だってそうです! 野営中ならともかく……しかも団長の奥様と、だなんて……」
今にも首を取られそうなくらい青い顔色の二人に、私は笑う。
「あら、私は構わないわよ? 今の私は商家のお嬢さんなのだし、皆、普段はそうするでしょう?」
「それはそうですが……いえ、しかし……。」
2人とも、一瞬納得したような顔をしたが、すぐに困ったように顔を見合わせて頭を下げてきた。
「流石に奥さ……お嬢様と一緒に一つの物をつつくなど、私共には出来ません。」
「……主人命令でも?」
「駄目です。」
頑なにそう言う二人に、私は腕を組んでう~んと考えてから、じゃあ、と提案をする。
「じゃあ、先に私が一つか2つ貰って、残りを皆で分ける、というのならいいのかしら? 私が食べきれないから、皆で処分してほしいの。 お願い。」
渋る二人にそうお願いすると、顔を上げた2人は互いに困ったように顔を見合わせ、何か目で会話を交わし……そうして、しぶしぶ頷いた。
「……わ、解りました。」
「よかった、ありがとう。」
「お嬢様、貝焼き串に、焼き栗ですよ~!」
嬉しそうに走って来たアルジの貝串の一個を持っていた串でお行儀悪くとりわけ、栗は手巾の上に2つ乗せてもらうと、後は3人で分けてもらう。
硬い殻に覆われた、栗というには大きな手のひらに半分くらいの大きさのそれを香ばしく焼いたものは半分に割って食べる。 栗というよりは芋に近い少し粘りのあるほくほくした果肉はほんのり甘く美味しい。
「貝も栗も美味しいわ。」
「はい! では次は何を食べたいですか!?」
「私にはよくわからないから、皆のおすすめを教えてくれると嬉しいわ。」
「解りました!」
そこからは、次々とアルジを先導に、いろんなものを見て、食べて回った。
ジャガイモをくし切りにして油で揚げたフライドポテトもあって、もちろん美味しく頂いた。
果実を串に差して焼いたものも、飴をかけた物もあって、前世のお祭りの夜を思い出し、懐かしくなる。
クラーケンのゲソの串焼きはさすがに分けられないので、私の分は一番小さな物を選び、屋台のおじさんに切れ込みを入れてもらった。
しっかりした歯ごたえと、塩味が美味しい。 のだが。
(イカ焼きはやっぱり醤油……醤油味で食べたい。 あと、生ビールが飲みたい。)
真昼間からイカ焼き片手に生ビールをあおる、なんて何の贅沢か。
ちなみに前世の私はギリギリアラフォーだからビールは飲んでも合法だし、いまの私は19歳だが、こちらの世界は貴族の令嬢令息は16歳の社交界デビューを以って成人、市井であればなんとなく顔の幼さが抜け、働き出したら成人なので、全く問題はない。
(生ビール……ってどうやって作るのかしら? ホップと大麦と、麦芽と酵母……だったかしら?)
「奥様、喉が渇きませんか?」
もぐもぐとクラーケンを咀嚼していると、アルジが竹の様な木材のコップに注がれた飲み物を買ってきてくれた。
「ありがとう、ちょうどほしいと思っていたところだったの。」
シュワシュワと音を立てる淡い黄金色の飲み物は、ビールとは似て異なる、エールという飲み物だ。 前世にもエールはあったが、其れとは全く異なる、どちらかと言えば酒精と発泡が僅かに残るシャンパンといった感じの飲み物だ。
この飲み物は酒精が低い分、子供たちも普通に飲む清涼飲料水の様な分類で、残念ながら、ガツン! と胃袋を叩きつけるようなコクがない。
(残念。残念だわ……醤油とビールがあれば私は今とても幸せなのに……。あ、でもそういえば。)
ふと、エールを飲む手を止めて、屋台を見回した。
(フライドポテトはあるけどポテトチップスやウズマキポテトはないし、甘味も果物飴や切った果物だけ……。これだけ屋台があって、男女問わず人通りは多くて、観光客も多いのに甘味が少ないのはとても残念だわ。例えばクレープ屋さんに一口カステラ……うん! きっと売れると思うから、屋台として出したいわね。後で相談しましょう!)
うんうんと考えながら屋台を回り、皆がお腹いっぱいになったところで、もう少し時間がありますが? とデルモが言うと、アルジが是非私と一緒に行きたいと思っていたという店に向かう事になった。
「ここです、お嬢様! 最近開店した、話題の異国物の雑貨屋なんです。」
アルジを先導に噴水公園から中央を背に、一本小道に入って歩くこと約5分程度。
到着したのは、開け放たれた店舗の出入り口である扉の上に、目にも鮮やかな真っ赤な布を使ったテント看板が目を引く小さな赤レンガ造りの店舗だった。
「まぁ、ここだけお店のつくりが随分違うのね、」
(大通りだと白壁に黒屋根と建築基準があるけれど、一本中に入ったからこうして変わった意匠に出来たのね。 天幕看板に、綺麗に刈り込まれた低木の生け垣、硝子の扉にレースのカーテンを飾るなんて、昭和レトロな純喫茶の店先みたいだわ。)
前世の純喫茶を思い出して懐かしく思う。
「随分可愛らしくて、不思議な造りのお店ね。」
「そうでしょう、そうでしょう? 今、若い女の子の間で人気のお店なんです。 さぁ、入りましょう!」
「えぇ、楽しみだわ。」
前世で幼い頃に連れて行ってもらった事があるような古式ゆかしいその店構えに懐かしさを覚えつつも、新鮮に驚いた、という顔をしてそう言うと、満足げに笑ったアルジが、私の手を引いてくれた。
デルモとレンペスは店の外で待っているとのことで、アルジと二人で店の中に入る。
お店の中は、異国の色鮮やかな布で作った動物のぬいぐるみや、布雑貨、文房具、女性もの、男性物の服飾装飾品などが綺麗に並べられた落ち着いた雰囲気のお店だった。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
声をかけてきたのは、異国の生まれを示す褐色の肌に異国の衣類を纏い、切れ長の翡翠色の瞳に豊かな赤い髪をゆるやかに巻き上げた美しい女性だった。
「品物を見せていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろん、ゆっくり見て行ってください。」
流暢に我が国の言語でそう言った女性に、私は会釈して、アルジと店内を見て回る。
商品は手の込んだ一点物が多いようだった。
それでも、子供がお小遣いを貯めれば手に入るような安価な物から、ここに置いておいてもいいのだろうかと心配になるような、庶民には手の届かない金額の商品がちょうどよいバランスで並べられている。
「これ、可愛い! それにこれも。」
あれも欲しい、こっちは素敵だと目移りしながら、買うものを厳選しているアルジとは別に、私も商品を見て回る。
(赤い色がとても綺麗だわ。)
手に取ったのは、老若男女問わず使えそうなしっかりした布地に縫製も頑丈だと解る藍色のエプロンで、ポケットの端にだけ、異国のデザインの赤い布が差し色として入っている。
(今日と、それからいつものお礼も兼ねて買っていきましょう。)
モリマの笑顔を思い出し、それを抱えた私は、その他にも、私の事をいつも気にかけて大切にしてくれる、宿屋のおかみさんによく似たメイドのアナや、離れでの生活を支えてくれている使用人たちのために、似合いそうな髪飾りや時計飾りを選ぶと、女性の元へ行き、お会計をする。
「ありがとうございます。」
贈り物だというと、一つずつ丁寧に油紙の様な紙で包み、細い飾り紐をかけてくれた女性は、にこりと笑うと、一つの小さな包みを私が受け取った荷物の上に乗せてくれた。
「あの……これは?」
「たくさん買ってくださったのでおまけです。 どうぞまたいらっしゃってください。」
優しくも蠱惑的な笑みを浮かべた赤い唇にどきりとしながらも、私はお礼を言い、買い物を終えたアルジと共に店を出た。
「待っていてくれてありがとう。」
「いいえ。 ちょうど待ち合わせの時間です、行きましょう。」
「えぇ。」
店の外で待っていてくれた2人に声をかけ、私たちは待ち合わせている場所へと向かったのだった。




