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第七話 〜入居を懸けて〜

 豪華な一軒家の庭。

イサコとヌマコが見守るなか、俺はステファンから竹刀を一本渡された。

ステファンは俺を見上げていった。


「体のどこにでも、竹刀を当てたらそれで決着としましょう。それでいいですか?」


 俺は受け取った竹刀を確認して答えた。


「分かった。勝負は一本勝負だな?」


 ステファンは頷いた。


「はい」


 イサコが横から俺に呼びかけた。


「ナルカミー!そんなガキンチョ!コテンパンに叩きのめしちゃいなさーい!!」


 ステファンは鬱陶(うっとう)しそうにイサコを見ている。

ヌマコはどもりながらステファンに弱々しい声で呼びかけた。


「す、す、ステファンさんも頑張ってくださーい!」


 ステファンは俺から三歩下がり、確認をとってきた。


「いきますよ?」


 俺は頷いた。


「いいぞ、いつでも」


 俺が答えた瞬間、ステファンは地面を蹴り上げ飛びかかってきた。

()ぎ払った竹刀は、正確に俺の脇腹を狙ってきた。

俺はそれを正確に自分の竹刀で防ぎきった。


「え!?」


 ステファンは驚いた顔をしていた。

もちろん、俺に剣術の心得などない。


雷属性(かみなりぞくせい)カウンター"


 ステファンの腕に送られる脳からの電気信号に対して、俺の腕がそれを受ける動作で返すように登録しておいた。


 続け様に八回、ステファンはさまざまな方向から竹刀を振ってきたが、その全てを俺は竹刀で受け止めた。


 ステファンは息が上がっている。

目を見開いて、明らかに動揺していた。


「そ、そんな……動きが全部読まれてるなんて……」


 隙をついて、俺は竹刀の先をコツンとステファンの頭に当てた。


「あっ」


 ステファンはしまった!という顔をしていたが、勝負はもうついた。


「よっしゃあああああーーー!!」


 イサコは歓喜していた。

ステファンはその場に固まっていて、放心状態となっていた。

ヌマコがステファンに近づいて、肩に手を当てて話しかける。


「ステファンさん、大丈夫ですか?」


 ステファンはヌマコを見ると大きな声をあげて泣き出した。


「うわああああああー!!」


 ヌマコはステファンを抱擁すると、俺とイサコを見ながら家を指差し、ステファンと手を繋いで家の中に入っていった。

俺はイサコに聞いた。


「なんだったんだ?」


 イサコは家を見ながら言った。


「いつもああなのよ、自分の意見が通らないとすーぐ泣き出すんだから、だからガキンチョなのよ!あいつは!」


(なるほど…)



━━再び、リビングの中。

俺は冷めた紅茶をすすっていた。


 俺の目の前で、イサコはソファーで足を組んで自分の爪を見ながらつぶやいた。


「そういや武器どうしよっかなー。質屋に預けたダガーを買い戻すのもいいんだけど、そろそろ新しい武器も欲しいのよねー」


 独り言なのか、俺に話しかけているのかよくわからなかったので、俺は適当な返事をした。


「ふーむ」


 イサコは俺を見て話しかけてきた。


「ところでさ、なんでアンタ、そんなに剣が使えるのに、肝心の剣を持ってないのよ? お金に困って質屋にでも売ったの?」


(イサコと一緒にするな)


 俺は答えた。


「武器はさっき使ったのが初めてだよ。元々持ってないんだよ」


 イサコは驚いて聞き返した。


「え? じゃあアンタ、どうやってこの街まで来たのよ?」


 俺は腕を組みながら返答した。


「一緒に旅をしてきた仲間が全員戦闘に特化したスキルを持っていたから、俺の出番がなかったというか、まぁ大体いつも寝てるか本読んでたな」


 イサコは俺を憐れみの目で見ながら言ってきた。


「そういえばアンタ、カジノで追放されたとか言ってたわよね? そりゃ追放されるわ…」


 俺は頭を掻きながら答えた。


「しょうがないだろう? 別に俺だって来たくて来たわけじゃないんだから。無理やりだよ、無理やり」


 イサコは冷めた紅茶に砂糖を入れながら答えた。


「都会で暮らすのは大変よ? 何にだってお金がかかるんだから。野菜だってご近所さんにもらえないし、水にだってお金取るんだから!」


 俺は驚いた。


「マジかよ。水って、川にいくらでもある、あの水か!?」


 イサコは返した。


「そうそう、だって私、最初にここに来たとき聞いたもん。露店で水を売ってた人に、この水はなにかの味でもついてるんですかー? って」


 俺は聞いた。


「そしたら?」


 イサコは答えた。


「そしたら、バカやろう!これは混じりっ気のない正真正銘の水だ!って。その時は露店のおっさんが何言ってるの分かんなかったわよ」


 俺は言葉を返した。


「ウソだろ……」


 俺は考えた。

今の手持ちで、どのくらい生活できるのだろうか。

俺はイサコに聞いてみた。


「この街で金を稼ぐとなると、何がいいだろうか? 手っ取り早く稼げて効率よく楽に儲かる仕事がベストなんだけども!」


 イサコは呆れた顔で答えた。


「そんなの私が聞きたいわよ」


 俺は聞き返した。


「イサコはなにで生計を立ててるんだ?」


 イサコは答えた。


「この街の冒険者は、みんな魔王の要塞に挑んで一攫千金を狙いながら、普段はレストランとかで働いてたりするのよ。私たちもアルバイトをしてたんだけど、お店が潰れちゃって…」


 俺は聞き返した。


「で、金に困って一発当てようとしてカジノに行ったと」


 イサコは笑顔を引きつらせながら答えた。


「そうよ!でもいいじゃないの、ひとまずこれでしばらくはこの街にいられるんだから」


 イサコは冷めた紅茶をスプーンでぐるぐるとかき混ぜているが、入れた砂糖はなかなか溶けなかった。

俺はリビングの天井を見ながら言った。


「これからどうするかなぁ」



 その時、リビングにヌマコとステファンが入ってきた。

ヌマコが微笑みながら俺に話しかけてきた。


「ナルカミさん、ステファンさんから何かお話があるみたいですよ?」


 俺はステファンの方を見た。


「ん?」


 それを聞いたイサコが、ステファンに向かって言った。


「アンタまさか、この後に及んでナルカミにここに住まわせないとか言うんじゃないでしょうね?」


 ステファンはイサコに言った。


「ち、違いますよ!僕はただ……」


 俺はステファンに聞いてみた。


「ん? どうしたんだ?」


 ステファンは俺の顔を見ながら言った。


「ナルカミ先生!!僕を弟子にしてください!!」


 イサコは紅茶をかき混ぜていたスプーンでカップを倒した。

紅茶が机をつたって床まで伝っている。

イサコは衝撃を受けたような顔でステファンを見ていた。

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